第36話 チーム






「──そういうワケで、取り敢えず今回の突入で十五階層まで行くぞ。片道一日、途中休憩も合わせて往復二日半コースだ。週明けの欠席届は既にお前の分も出しておいた」

「気が利くのね。ええ構わないわよ、寧ろ私の方から提案しようと思ってたくらい。今回は初見だし十一階層だけで切り上げて来週末に本番とか、そんな日和ったプランなんて思い描いてなかったから」

「だよな」


 週末の協会ロビーで合流したレアに大まかな次第を説明し、あっさり承諾を得る。

 まあ当然だ。この程度の話に尻込みするような奴に俺のライバルを名乗る資格は無い。


「……携帯食料とか買い込んでおかないとね。十五階層に着けば無人販売所があるけど、そこまで飲まず食わずは流石に辛いし、肌にも悪いわ」

「天才の仕事に余念は無い。既に支度は


 ぴら、との名前を記入した突入申請書を掲げる。

 それを見たレアは、特に目立ったリアクションを返すでもなく、ただ「やっぱり」とだけ呟くのだった。






「辞めないでエイハくぅんっ!」

「チームから抜けちゃうなんてヤダァッ!」


 突入申請書を提出すべく窓口まで向かうと、何やら揉め事の気配。

 少々デジャヴを感じつつ渦中の様子を見に行ってみると、エイハの奴が数人の探索者に囲まれていた。それも女ばっかり。


「──ごめんよ、子猫ちゃん達。でも、元々正規メンバーが退院するまでの臨時だったからね。後のことは彼に任せるよ」

「あんなの追放するから! ねっ!」

「そうそう! どうせ大して役に立ってなかったし!」

「無駄にデカいせいですぐ重量制限に引っ掛かったもん!」


 やたら高音で響く声によって形作られる言葉の剣やら槍やらが、女性達一党の者と思しき大柄な男の胸に何本も突き刺さってる。


 女子大生くらいの年頃か。人生でも口撃力がピークに達する年代だ。

 探索者は実力主義かつ命懸けの仕事。報酬の分け前だの、立ち回りの方針の違いだのでチームが割れるなんてのは日常茶飯事だが、もうちょい言い方を考えてやれよ。陰口は陰で叩くのが優しさってもんだぞ。


「……子猫ちゃん達には、本当にすまないと思ってる。けどボクは、他の何を差し置いてでも……あの人の役に、立ちたいんだ」

「キャーッ! 物憂げな表情に差し込む一筋の乙女心! 絶対に彼氏だわ!」

「王子様系女子がオトコに入れ込むギャップとか大好物ーっ!!」

「そんなこと言われたら引き留められなーい! でも時々は相手して欲しーい!」


 どうやら上手く円満退社できそうだが、あの場合哀れなのはボロクソ扱いの男の方だ。

 女達の我の強さを鑑みるに、彼はこれからも尻に敷かれ続けるのだろう。同じ男として自分の意見をデカい声で言い出せないのはアレだと思うが、少しだけ同情する。


 ──そして、それよりも何よりも驚いたのは。


「彼女、普段ああいうキャラなのね。ちょっと面白いわ」

「子猫ちゃんなんて呼び方を現実に使ってる奴、初めて見た」


 ちなみに普段別キャラなのはレアも同じだ。コンセプトは深窓の令嬢。無駄に喋らずに済むから、らしい。

 実家は八百屋のくせに。あれ、肉屋だったかな。


 あ、違う違う思い出した。花屋だ。





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