第34話 家族団欒
消費資源削減に加え、市内に道内人口のほぼ全てが集結したことで必要性そのものが薄くなり、崩界以前と比べ発着本数が十分の一以下にまで減った札幌駅。
とは言え、未だ人々の生活圏の中心地であることには変わらず、人口密度は
現在時刻は午後七時。嘗ての世界ならば、とっくに陽が落ちている時間帯。
俺は赤い壁が昼も夜も無く光を注ぐ雑踏の中を往き、駅前からそう遠くない立地に建つ高層ビルの上階にあるレストランへと入り、名を告げ、奥の個室に通された。
「よぉ。二人とも早いな」
「貴方が遅いの。五秒遅刻じゃない」
いつの頃からか、家族三人で外食する時はここと決まっていた行き付けの店。
人の顔を見るや否や、スロット持ちに散見される変色した体毛、鮮やかなピンク色の髪を揺らし、こちらを睨め付けるスーツ姿の女性。
「俺の体内時計だとキッカリだ。そして俺と姉貴じゃ俺の方が天才だから、正しいのも俺の時計ってことになるな」
雑賀アウラ。七つ歳上の我が愚姉。
俺は勿論レアにすらも劣るが、まあそこそこの天才。年若くも代理政府の幹部職員として、日々オヤジの護衛と秘書に就いている。
ここ数年妙にクールぶってるが、元々の性格は喜怒哀楽が激しい方で、結構神経質。そのため非がある者は部下も上司も同僚も関係無く、徹底的に理詰めする。いつだったか用があって会いに行った時は、四十は超えてるだろう職員のオッサンを泣かせてた。
「ま、ただでさえ姉貴は鈍臭いんだ。時計くらいは急がせといた方が丁度いいかもな」
「……残った方の腕も斬られたいなら、そう言いなさい」
立ち上がった姉貴が、護衛用及び周囲に対するパフォーマンスとして持ち歩いている切っ尖が平らな模擬剣、いわゆる
白い塔の実地調査や現場の声を生で聞くべく、三年ほど前におよそ一年間探索者として活動し、その間に二十階層まで到達しサードスキルを発現させた元特級探索者。籍は残ってるから、厳密には元ではないか。
魔剣の使い手で剣技の達人。様々なクリーチャーの首や手足などに対する切断技術に長け、現役時代に付いた異名が『切り裂きアウラ』。
「シィッ!」
「おっと」
抜剣と同時、白い塔の外では発動が禁じられているスキルは使わずの一閃。
姉貴なら模擬剣でも、そこら辺のドアとか人の胴体くらいは普通に斬れる。
半歩だけ下がり、紙一重で先端を空振らせ、モデルガンを抜き、銃口を眉間に向けた。
「姉を撃つ気?」
「弟を斬る気か?」
じりじりと互いに間合いを調節しつつの膠着状態。
それを止めたのは、上座で食前酒が注がれたグラスを傾けていたオヤジ。
「座れ、お前達。もう料理が運ばれてくる。好物を冷ましたいなら話は別だがな」
その言葉に姉貴は剣を鞘に収め、俺も銃をホルスターに仕舞う。
姉弟のスキンシップはこんなもんにしとこう。折角の晩飯を台無しにするのは御免だ。
「肩周りの動き、固かったぞ。腕が落ちたんじゃねぇのか?」
「仕方ないじゃない。この頃デスクワークばかりだもの。なまってしょうがないわ」
俺が姉貴のグラスに飲み物を注ぎ、姉貴が俺のグラスに飲み物を注ぎ、乾杯。
こうやって三人揃うのは二ヶ月ぶりか。先月はオヤジが急用で来れなかったし。
あの時は姉貴を宥めるのに苦労したが、すっぽかさざるを得なかった父親の心境も分かってやれよ。
なんだかんだ、この集まりを一番楽しみにしてるのは、他ならぬオヤジなんだからな。
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