第29話 案の定






「おはようシドウ君。あら、貴方も二級に上がったのね」


 休日を終えての憂鬱な月曜日。

 かったるい気分で登校し、教室に入ると、待ってましたとばかりにレアが絡んで来た。


「それで、期間はどのくらいかかったのかしら? え、二週間? 貴方にしては随分ゆっくりね」


 協会交付の危険区域活動許可証を見せたワケでもないのに昇級したかどうかなど分かるワケがない。土日の間に俺が十階層まで到達したという確信ありきのカマかけで、実際問題その通りだが、導入が雑過ぎる。

 あと勝手に話をどんどん進めるな。会話のキャッチボールをしろ。お前のはただの壁当てだ。親の仇みたくボール投げやがって、練習熱心な野球部員かよ。


「でもまあ二週間でも十分早い方じゃないかしら。私だって九日もかかったし。私だって、九日も、かかったし」


 二度言わなくていい。腹立つわコイツ。


「ガーディアンは何をトレードしたの? 発現したセカンドスキルは? あの致命的にへたくそな射撃は少しくらい上達したの?」

「下手じゃない」

「下手よ」

「下手じゃねぇって!」


 矢継ぎ早に質問を繰り出されても答えられねぇし、女子高生からのへたくそ呼ばわりは死人が出るってまだ理解してないのか。

 そして、そもそも俺の射撃は下手じゃない。ちゃんと当たる。ゼロ距離なら。


「……霧伊さんって、雑賀くんと話す時キャラ変わるよね」

「ああ、推せるよな。いつもの猿扱いも悪くないけど」

「……あと、二級に上がれる探索者の割合と昇格までの期間って、どれくらいだっけ」

「四割以下。モノリスから引いた召喚符カードがFランクなら、順調な人で半年くらいだな。こないだ授業で教わったろ」






「──被害者面はやめろ! 一体誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ! お前みたいな奴に文雄を渡せるとでも──」


 今日の担任は一限目から飛ばしてやがる。

 授業は諦めたが、せめて廊下で電話しろ。また早弁するぞ。


「じゃあ今週末、早速十一階層に行くってことで構わないかしら」

「ああ」


 セカンドスキル発現の条件が単独制覇だった六階層から十階層と違い、十一階層以降は単独での突入を全面的に禁止されている。

 必然チームを組まなければならず、そうなるとこの天才かつ最強なナイスガイの俺に着いてこられる人材は非常に希少で、今のところレアくらいしか該当者は居ない。


「そのためにも今日あたり、協会の売店で買っておきたいものがある」

「ポシェットサイズの医療キットとかなら、私が持ってるけど」


 まあ更に面積が爆発的に広がるし、クリーチャーの質も量も跳ね上がるから、一応そういう備えも重要だけどな。


「グリップの効く靴が欲しいんだよ。全力疾走状態でもすぐブレーキかけられるやつが」


 今の靴だとセカンドスキルを使う度に足元が滑ってストレスフルだ。そのせいで感覚を掴むためのデモンストレーションさえ儘ならん。

 弘法筆を選ばずなんて言うが、持ち物にもこだわってこその天才よ。





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