第27話 魔弾Lv.2






「──ん?」


 さしもの俺もタッチアンドゴーで五階層まで戻る気は無かったため、六時間ほど休息を取るべくカプセルベッドでの就眠を挟んだ。


 そして、きっかり六時間で目覚めた直後。違和感と共に身を起こす。


「…………」


 仄かに鼻腔を撫でる、蜂蜜とアルコールを混ぜたような甘い匂い。

 自分が横になっていたシーツに掌を押し当て、温度を測る。


「三七.二度……明らかに俺の体温よりも高いな」


 カプセルベッドの鍵は施錠されたままだ。一応、誰かが扉を開ければ気付けるよう施しておいた仕掛けも動いていない。


 けれど間違い無い。天才の勘は当たる。


 ──つい数秒前まで、誰かここに居た。






「しかし俺の引き運も大したものだ。ファフニールの件は流石に行き過ぎだったが」


 エレベーターを降りて周囲を見渡す。

 しかしクリーチャーの姿も、隠れ潜むレッドキャップの気配も感じない。

 手頃な的が欲しかったんだがな。足で探すか。


「何せ俺がセカンドスキルに豪力を発現させたところで、大した得は無い」


 例え原チャリでお手玉が出来るほどの怪力を得ようとも、ファーストスキルを介さなければクリーチャーの外套は貫けない。

 魔弾の発現者が埒外な身体能力を得たところで、全く無意味とまでは言わないものの、他三種と比べれば明らかにメリットは少ない。


 天才は幸運にも恵まれている。






「お」


 九階層に降りて数分。

 こちらに背を向けて歩くミルメコレオを発見した。


「どれ。まずはファーストスキルがどのくらい底上げされたのか試そうじゃないか」


 敢えて堅牢強固な外骨格で護られたアリの下半身めがけて撃つ。


「ふむ」


 撃つ。


「ほう」


 撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。


「当たらねぇ。流石の天才も水増しされたチカラに感覚を合わせるまで、ほんのチョッピリ時間が必要らしい」


 歪な肉体構造のために小回りが利かず、もたもたと振り返ろうとするミルメコレオの背後に取り付く。

 すかさずゼロ距離射撃。昨日までなら多少装甲を凹ませる程度だったが、どうだ。


「おお」


 ミルメコレオを挟んだ向こう側の景色が良く見える。

 尻から頭にかけて、ボウリング球ほどのトンネルが開通したぞ。


「アメイジング。中々の成長曲線」


 続けてエルダーコボルドに遭遇し、二度目の試射。

 上半身を丸ごと吹き飛ばした。この間のレアの魔槍+豪力を思わせる素晴らしい威力。


「尤もレアの奴は相当加減してたが、ファーストスキル単体でこれなら悪くない」


 どうやら他三種と違って防御の手段を持たない分、魔弾は攻撃力方面に全てのリソースを割り振られているらしい。

 特化型は扱いのクセが強く、誰にでも使いこなせるものではないのが世の常であるが、俺なら何の問題も無い。


 何故なら、天才で最強なナイスガイだからだ。






 数時間後、五階層まで帰り着いた俺は、そのまま一階へと帰還。

 諸々の手続きを終えて白い塔から出る頃には、歴代三位──レアとの次──の早さで、二級探索者となっていた。





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