第26話 十階層
九階層と言っても、出現するクリーチャーの顔ぶれなんかは基本的に八階層と同じだ。Fランクって他に居ないし。
ただ、地形的な死角が多くなっていてレッドキャップの驚異度が上がってたり、狭くて長い直線通路が何本もあってミルメコレオと遭遇したら厄介だったりと、難易度は明らかに増している。
「
背後に現れたレッドキャップが奇声を上げる。
それを聞いて振り返った俺の隙を突き、天井付近に空いた横穴から音も無く飛びかかってきた二匹目のレッドキャップ。
ひらりと躱し、後頭部に銃口を突き付けて撃ち殺し、五歩先に立ったもう一匹も撃つ。
「当たらねぇ……貴様、どんな手品を使いやがった!」
〈ギァ?〉
とぼけた風に「あれ、俺また何かやっちゃいました?」的な鳴き声を返すレッドキャップを、ゼロ距離で確実に仕留める。
天才で最強な俺の必中属性付きの狙いを外させるとは大した奴だったぜ。前世はきっと賢者か何かだな。
「さて」
地図を出す。
赤い壁によって衛星からの電波も遮断され、GPSが使えなくなった
尤も白い塔の二階層以降は内部空間の歪みによって安全地帯を除けば電子機器など一切役に立たないため、どっちにしろ同じことだが。
「こっちを回って……ああいや、ここを突っ切った方が早いな」
九階層は面積こそ八階層より小さくとも、マップ構造はカフェインで酔っ払った蜘蛛が張った巣のように複雑だ。
地図を見ながら歩いてはクリーチャーの襲撃になど対応できないため、迷う奴も多い。かと言って目印をつけようにも、ダンジョンの修復機能によってすぐ消えてしまう。
「嘗てマッピングに従事した探索者達は大した働き者だ。一ツ星を検討しよう」
余さず道を覚えて地図を閉じ、最後のエレベーターを目指し、再び歩き始める。
そして──気付かれていないとタカを括っていただろう、物陰に隠れてニヤついていた三匹目のレッドキャップの首を、通り抜け様にゼロ距離射撃で吹っ飛ばしてやった。
五階層から八階層の最奥までを、帰り道は一人担いで一往復。
そこから数時間の後、再び五階層からここまで。
「しめて二十時間以上。流石に少ししんどいな」
到着したエレベーターを降りると、五階層に良く似た景色が視界へと映る。
十メートルほどの広間。隅には飲食物が並んだ冷蔵庫の横に精算機が置かれた無人販売所と、鍵付きのカプセルベッドが数台。シャワーブースまである。
後ろを振り返れば、それぞれ一階、九階、十一階へと通ずる三基のエレベーター。
最後に正面──広間の中心に据わった、五階層で赤いメダルを手に入れる際に使ったものとは少し様式が異なる台座。
「……レアの奴がここまで来たのは、確か登録から九日目だったか」
魔槍を発現させて以降の一週間を槍技の習熟に費やし、自身が及第点と認めるレベルに到達してからの即攻略。
それに比べて俺は随分と手間取っちまった。何もかもファフニールが悪い。
「ま、いいさ。天才は慌てない」
手形の浮かんだ台座表面に、右掌を重ねる。
手の甲のスキルスロットが輝き始め、数秒ほどで収まる。
紋様を検めると、ファーストスキルを発現させた時と同様、少し形が変わっていた。
「まずは兎も角、最初の小目標──セカンドスキル獲得、達成だ」
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