第21話 イレギュラー






 ホルスターからリボルバーを引き抜き、四方に神経を走らせる。


「なんだ?」


 今まで感じたことの無い気配。

 いや。近いものなら一度だけ心当たりがある。

 レアのガルムが放っていた威圧感だ。


 けれど、あれよりも刺々しく、悪意と敵意に満ちている。


「ふぅん」


 暫し意識を尖らせ、大体の発生源にアタリをつける。

 エレベーターに向かってやがるな。稼働音に誘われたか。


「どーすっかな」


 理性は行くなと言っている。

 好奇心は行けと言っている。

 そして俺の中のレッドストーン先輩は、自ら死地に飛び込んでこそ漢は磨かれるのだと叫んでいる。


「二対一か」


 わーくには民主主義だ。民主主義と言えば多数決だ。多数決に逆らう者は銃殺刑だ。

 よし行こう。人生はギャンブルZOY。


 あと、どうでもいいけど俺、実は魔弾より魔剣を発現させたかったんだよな。

 そしてテキトーに幾つか流派を窮めてチャンポンして、日本刀を背負って斬岩剣を名乗りたかった。

 この世に斬れぬものはなし。






 足を進める度、濃く強くなって行く威圧感。

 水の中を歩いてるような、という表現をどこかで聞いたことあるが、大体そんな感じ。


 ──と。エレベーターの稼働音が止まる。


 少し間を置いて、別の音が聞こえ始めた。


 人の声。そして戦闘音。


「ん? もしや今の稼働は上に行ってたんじゃなくて、こっちに降りて来てたのか?」


 で、エレベーターを降りたらこの威圧感の発生源と鉢合わせ、戦闘になった的な。

 なんともはや。ツイてない奴も居たもんだ。


「音の感じからして二人……いや声は一種類だけだし、これ片方スケルトン系の足音か」


 となると単騎。

 一人でこの辺りを歩き回れる実力者にも拘らず、十階層のエレベーターを使わずに八階層まで降りて来たってことは、俺と同じくセカンドスキルの発現を目的に足を運んでた準二級クラスの探索者だろう。


「またまたどーすっかな」


 俺の見立てじゃ、この先に居るのは十中八九Eランクのクリーチャー。

 本来なら十一階層から十四階層で出現するレベルだが、恐らくは先々週出くわしたエルダーコボルドと同様のイレギュラー。


「横槍ってのもな」


 セカンドスキルを発現させてるなら、ついでに発現条件を満たせるほどの実力者なら、Eランクとも戦えなくはない筈。ガーディアンの助けも込みなら尚のこと。

 割って入るとかえって面倒かもしれん。トドメだけ掻っ攫ってコインの分け前を要求する姑息な輩と思われるのも心外だし。


 …………。


「どうせすぐ近くなんだ。ひとまず物陰から見物させてもらうとするか」


 レア以外の探索者の戦闘を見るのって、改めて考えると初めてだな。

 ポップコーンのひとつも持って来とけば良かったか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る