第20話 順調な時こそ
ライオンの上半身とアリの下半身を持つ怪物、ミルメコレオ。
この奇妙な風体をしたFランククリーチャーと対峙する際のコツは、正面に立つのを避けることだ。
ミルメコレオは身体の構造上、ほぼ後ろ向きにしか進めないし小回りも利かない。
しかしライオン二本アリ四本の計六本備わった脚を使って前進する力、即ち突進力は同ランクのパワーファイターことエルダーコボルドを上回り、そこから繰り出されるチャージングは三百キロを下らない体重も合わせて大型バイクの正面衝突と変わらない破壊力がある。爪と牙も中々に鋭い。
ファーストスキルに魔甲、セカンドスキルに豪力、或いはその両方を発現させている奴なら兎も角、それ以外の人間が真っ向から受け止めるのは自殺行為に等しい。
背後を取って攻めるのも効率が悪い。
何せ奴さんの下半身はアリだ。強靭な外骨格と外套で二重に護られており、生半可な魔剣や魔槍は弾き返してしまうし、豪力でゴリ押そうにも下手すれば得物の方がイカレる。
達人級に剣技や槍技を修めているか、付与でファーストスキルに炎や雷の性質を加えていなければ、致命打を与えることは難しいだろう。
そして、そもそもセカンドスキルを発現させるには十階層まで到達しなければならないため、ミルメコレオ攻略時の手札はファーストスキルと
かと言って一朝一夕で達人になれるほど剣も槍も扱いが易しい武器ではない。まあレアの奴は魔槍を発現させた後に初めて槍に触れたどころか殴り合いの喧嘩すらしたことないだろうにも拘らず、そこから七日間で、しかもたまたまパソコンに保存されてた演武の動画一式を繰り返し見ただけで宝蔵院流槍術と尾張貫流槍術を免許皆伝クラスまで窮めたと聞くが、曲がりなりにも俺のライバルを自称するアイツを基準にするのは酷ってもんだろう。
──なので、天才かつ最強なナイスガイのシドウくんが稚児達に勧める狙い所は側面。
ライオン部分とアリ部分の継ぎ目を叩けば、不自然な生物の代名詞であるキメラに属するバケモノゆえの脆さか、割と簡単に倒せる。難易度的にはツキノワグマを竹槍で倒すくらいだな。生憎と今までの人生にツキノワグマを竹槍で倒す機会は無かったが。
たぶんFランククリーチャーの中では最も与し易い相手。半分虫だからか、脳筋のエルダーコボルドより頭悪いし。
「そら来い」
〈ゴォオオッ!!〉
咆哮を添えて俺に突進するミルメコレオ。
ぶちかましを食らう寸前にバック宙で飛び越えて躱す。
視界の天地が逆転したタイミングで真下を素通りする、現実のライオンよりもだいぶ大きな質量。
「頭上注意だ。上を向いて歩こうってな」
すれ違う間際、タテガミを掻き分けて首元に銃口を押し付け、発砲。
景気良く爆ぜる頭部。突進の勢いを残したまま絶命し、転がるように壁へと衝突する。
一回転し着地した俺が後ろを振り返ると、外套を喪ったミルメコレオの上半身は自重による慣性が齎した運動エネルギーによって潰れ、ドス黒い血が壁一面へと放射状に広がっていた。
「汚ねぇ花火だ」
えんやこらさと、やたら広くて三時間も歩かされた八階層での行脚も終盤。
地図によれば、そろそろ九階層行きのエレベーターが見える頃。
「ン」
そう思っていたら、少し離れた位置からゴリゴリと響く耳障りな音。
エレベーターの稼働音。どうやら先客が居た模様。
「参ったな」
エレベーターによる階層移動は片道数分。
今し方に動いたばかりとなれば、俺は十分近く八階層に足止めを食らうことになる。
六階層以降は広い上に道が複雑でエレベーター同士を繋ぐルートも両手の指が埋まるほど存在するため、ここまで同業者と鉢合わせることは無かったが、そう万事都合良くは運ばないか。
「連続でコイントスすりゃ、どっかで必ず裏は出るわな」
まあいいかと思いつつ、取り敢えずエレベーターまで向かうべく、緩めた歩を再度踏み出す。
──背筋に薄らと冷たいものが伝ったのと、懐の
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