第19話 昇級への挑戦






 応接室でのトレード交渉と召喚符カード所有権移行の手続きを済ませた足で窓口に向かい、十階層への突入申請を提出。

 召喚符カード未所持という不備が解消されたことで申請は無事に受理され、五階層行きのエレベーターの列へと並び、順番を待って乗り込む。


「考えてみりゃ間に合わせでFランクを手に入れたって二級には上がれねーし、わざわざ進化させんのも面倒だし時間食うしで、他に選択肢は無いわな」


 ゴリゴリうるさいエレベーターの中で、所有権を得たばかりの召喚符カードを見下ろす。


「そもそも俺は、たかが一桁階層如きでガーディアンに頼る気なんざ無いってんだ」


 裏面に刻まれた等級を示す模様は、四角形。

 表面に浮かび上がる絵柄と名は、Dランクで最も希少と称されているガーディアン。


 銀紗の髪と白亜の翼を持ち、槍のような杖のような武器を携えた、金瞳の女性ヒトガタ


「ま、俺が上の階層に行くためのキップになってくれたことには感謝しておこう」


 カタカタと手の中で召喚符カードが動いた気がしたが、多分エレベーターの揺れだろう。


「なあ──『ワルキューレ』よ」






 二度目の来訪となる六階層。

 エレベーターの騒音に吸い寄せられ、姿を現す三匹のエルダーコボルド。


「早速の歓待、痛み入る。ならば俺も鉛玉で応じよう」


 魔弾はエネルギーの塊だから鉛じゃないとか、そういうツッコミは無粋。


「一射一殺一切一絶。真に洗練された芸術的な射撃の技、存分に食らって行け」


 リボルバーを引き抜き、一秒間で三連射。

 一匹につき一発。命を屠るには、それで十分。


 …………。

 まあ、当たればの話だが。


「当たらねぇ」


 発砲の瞬間に射線を読んで避けるとは味な真似を。絶対そうに決まってる。

 ならばゼロ距離から撃ち込んでやるまでよ。辞世のハイクを詠むがいい。






 天才の俺は前回の突入で余さず道を覚えていたから、最短距離をダッシュ。

 最初の三匹と合わせて都合七匹のエルダーコボルドと遭遇、からの百発百中の射撃テクニックで迅速に仕留め、出発から六十分で八階層まで到着。

 我ながら惚れ惚れする健脚。完全無欠にも程があるだろう俺。


「とは言え、流石にここからは少しばかり注意が必要だな」


 横合いに手を伸ばし、投げ付けられたナイフを掴み、投げ返す。

 深々と胸を貫かれたレッドキャップが視界の端で倒れると同時、その逆方向に銃を向けて発砲。


「当たらねぇ」


 大ぶりなナイフを逆手に構え、飛び込んで来る二匹目のレッドキャップ。

 その振り下ろしを躱し、ナイフを持った右手首に銃口を押し付け、ブッ放す。


 片手が飛んで怯んだところに右足首へとブッ放す。

 立て続けに膝、腹、胸、目玉の順にブッ放す。


「ふむ」


 そうして二匹目を仕留めたところで、俺は背後から忍び寄っていた三匹目のレッドキャップに気付かなかった──なんてことは無く、普通に振り返って眉間に一発。


「高校生探偵は俺には無理だな。毒薬を飲まされるどころか、天才過ぎて事件が起こる前に解決しちまう。あと一緒に遊園地に行くような幼馴染も居ねぇ」


 倒れ伏した三つの亡骸は砂と化し、風も吹いていないのに何処かへと流れて行く。

 後に残ったのは、十五枚のコインのみ。


「今週の買取レートは一枚七百六十円だから、一匹あたり三千八百円か。なんとも安い命だ」


 まあ熊の駆除とかも似たり寄ったりな額だし、命の値段なんてそんなもんだろうよ。





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