第17話 天才の無駄なこだわり
レアと共に八階層まで赴いてから早数日。
週末を迎え、けれど
「ふっ」
ちょこちょこ存在する例外規定や屁理屈じみた穴を除けば、基本的に白い塔の外でスキルを発動させることは厳禁だ。
まあ、それはそう。
精々が格闘技の有段者あたりと同程度なゴブリンやコボルドのパンチですら、物質の強度を無視して破壊する性質を持った外套の後押しによって、分厚いコンクリの壁だろうとミルクに漬けたビスケット同然に砕いちまう。
その外套を貫通できるだけのエネルギーを纏わせた魔剣や魔槍を軽々しく振り回せば、待っているのは結構な大惨事。不慣れな奴でも自動車くらいは一刀両断よ。
──が、スキルを使える場がダンジョン内での実戦だけではあまりにも危険という考えから、協会が塔内の一角に設けたのが、この訓練施設。
天才かつ最強でナイスガイな俺には汗水垂らしての練習など不要ゆえ、ここには初めて来る。
「咽頭、脊柱、肺、肝臓、頸静脈、鎖骨下動脈、腎臓、心臓」
魔弾の発現者は少ないため、他と比べて閑散とした射撃場。
五メートル先に立たせた人体模型めがけ、急所を狙いすまし、ひと息で八発の早撃ち。
決まった。決まり過ぎた。
「クリーチャー相手に切った張ったの探索者がヒトガタを何百と撃ち抜いたところで、何の目安にもなるまいが……」
「数字を盛り過ぎね。一発も当たってないわよ」
後ろで俺の射撃を見ていたレアが淡々と告げる。
再び人体模型に向き直ると、砕けるどころか傷ひとつ付いてなかった。
「ねえ。せめて照準器かレーザーポインターでも付けたらいいんじゃない? そういうの売店に色々あったでしょ?」
陰でコソコソ人様のことをクソエイムだのなんだの言ってる奴が居たので便所で色々お話してから戻ると、レアがとんでもない提案をぶつけてきやがった。
「ふざけてんのかテメェ。こいつを見ろ」
毎日バラして綺麗に磨いてるモデルガンを、世間知らずなお嬢様の眼前に突き出す。
お嬢様と言っても、レアの実家は八百屋だが。肉屋だったかな。
「コルト
「……よく見たらすっごい細かい装飾」
当方自慢の
あと、
「で、このモデルガンがどうかしたの?」
「カッコいいだろ」
「否定はしないけど」
くるくるとガンスピンを披露し、腰だめでファニングショット。
人体模型は相変わらず無傷。当たらねぇ。宇宙の法則が乱れてるっぽいな。
「……ピースメーカーにポインターを後付け出来るアタッチメントなんざ無い。そりゃあ天才の俺なら、それくらいの改造は片手でも簡単に出来るが」
「じゃあすればいいでしょ」
ええい察しの悪い女だ。ここまで言ってまだ分からんのか。
「カッコ悪いだろうが」
「格好の問題なの?」
「格好の問題以外に何があるってんだ。そうでもなきゃ誰が使うか、こんな骨董品」
考えてもみろよ。精微な彫刻を入れたビジュアル重視のオールドスタイルなリボルバー拳銃にポインター装着って。
あーヤダヤダ。考えただけで死にたくなるミスマッチ。
「そんなもん腰にぶら下げて歩いたら、通りすがりの女子高生に「えーマジ!? ピースメーカーにポインター!? キモーイ」「ソリッドフレームのリボルバーに追加オプションが許されるのは小学生までだよね」「「キャハハハハハ」」とか笑われちまう」
「居るワケないでしょ、そんな女子高生……」
居たらどうするんだ。精神に甚大なダメージを負うことになるんだぞ。
俺は不世出の天才だからな。五十三億ビットの頭脳がありとあらゆる可能性を常にシミュレートしてるんだよ。
「兎に角、この銃に手を加える気は無い」
人体模型に近付き、銃口を押し付け、撃つ。
ヒトガタは粉々に砕け、無数の破片が花火のように飛び散った。
「カッコ悪りぃマネ晒すくらいなら、いっそ死んだ方がマシだ。例えそいつを曲げなければ、世界が滅ぶと言われようとも」
「……男ってバカばっかりよね、基本的に」
誰が馬鹿だ貴様。
こちとら天才かつ最強のナイスガイだっつーの。
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