第16話 ガルム






 二級探索者として活動するには、セカンドスキルの発現に加え、最低でもEランク以上の召喚符カードを一枚以上所有していなければならない。


 で、そのEランクの召喚符カードを入手する方法は三つ。

 モノリスから与えられる一回きりのチャンスを掴んで十分の一の確率を引き当てるか、それなりの手間をかけてFランクの召喚符カードからさせるか、或いは対価を出してトレードするか。


 まあ入手する各手段の詳細はさておき、そもそもEランクってのがどんなもんなのか。


 大まかな強さの区分は『そこら辺の家数軒なら簡単に叩き潰せる程度』。

 最早まともな生物の領域を飛び越えてる。十一階層以降では、こんなレベルの存在がクリーチャーという敵対者として当たり前のように現れるってんだから、協会の判断が慎重になるのも無理からぬ話だ。


 ──Eランクのガーディアンは、全部で七種。


 ゴブリンの上位種であるホブゴブリンの更に上位種『オーガ』。

 スケルトンの上位種であるレアスケルトンの更に上位種『リッチ』。

 スライムの上位種であるアシッドスライムの更に上位種『ヒュージスライム』。

 Fランクに属するブラックドッグの上位種『ガルム』。

 同じくFランクに属するピクシーの上位種『シルフ』。

 あとは鋼鉄だろうと溶かせる火力を持った火トカゲ『サラマンダー』と、十トン以上にも及ぶ硬い岩石の巨体を持つ『ゴーレム』。


 七種それぞれ異なる特色、長所短所があり、どいつが一番強いのかなどの答えは一概には導き出せない。


 が。単純なスピードと突進力に限って言えば──随一は、やはりガルムだろう。






〈アオオォォォォォォォォォォォォンッッ!!〉


 広間全体が震えるような咆哮が、ビリビリと鳴り渡る。


 敵ではないと分かっていながらも思わず身構えかけた威圧感。もし戦えば、召喚符カード無しの上にセカンドスキルすら発現させていない現状の条件では、俺も腰を据えなければ少しばかり危うい部分が出るかもしれない。

 これを実際に敵の立場として感じているクリーチャー共は、さぞ肝を冷やしてるだろう。


 ──血のように紅い毛皮で覆われた、ちょっとしたバスくらいはあろう馬鹿でかい狼。

 ──唸りを上げる顎門に並ぶ牙、足元を掴む爪は、一本一本がまるでギロチン。

 ──体表で揺らめく堅牢強固な護り、外套の出力が高過ぎて少し肌がひりつく。


「こいつは、なかなか」


 代理政府が労働力に活用しているガーディアンは大半がGランクで、たまにFランクを見かける程度。

 街中で働かせるには不必要に強過ぎるってのは勿論、そもそもF以下と比べて数が少ないってことも合わさり、Eランク以上のガーディアンが一般人の目に映る機会など皆無に等しい。


「行って」


 レアの命令を受けたガルムは、小さく頷き、駆ける。


 勝負は数秒だった。いや、お世辞にも勝負などとは言えない一方的な蹂躙だった。


 クリーチャーやガーディアンのランクは、一段階上がるだけでも隔絶した差となる。

 GではFに絶対勝てないし、FではEに絶対勝てないと断言できるほどの格差がある。


 理屈として頭では知っていた情報。

 しかし実際その現実を目の当たりにすると、生態ピラミッドの無情を感じる。

 まあ流石に、百対一とかなら話は別かもだが。


「いい子ね」

〈クゥゥルルル……〉


 延べ九匹のFランククリーチャーを埃を払うも同然に掃除し、鼻先を撫でられて尻尾を振るガルム。

 仕事を終えたガーディアンを召喚符カードに戻し、再び懐へとしまった後、俺を振り返って髪をかき上げ、自信たっぷりに笑うレア。


「ざっとこんなものだけど、どうかしら」

「やるじゃない」


 セカンドスキルといいガーディアンといい、物欲を煽る魅せ方してくれちゃって。

 来週末が待ち遠しいぜ。ガキの頃の遠足並みに楽しみだわ。





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