第15話 ガーディアン






「やっぱGランクは一枚、Fランクは五枚で統一なのな」


 八階層でのエンカウントを何度か繰り返し、今までの分も合わせてずしりと存在感を訴えるコイン袋。小さいから嵩張らないのはいいが、腰に来る重さだ。地味につらい。

 今週の相場だと一枚あたり八百三十円だったから、これで大体十万円くらいか。


「やっぱFランはFラン。初見ならまだしも、慣れると全く大したことねー、なっ」


 喋ってる最中、喉笛にナイフが飛んできたため、指先で掴み取って投げ返す。

 因果応報。自分が狙ったのと寸分違わず同じ箇所を貫かれ、倒れ伏すレッドキャップ。


「なんで投げナイフは当たるの?」

「天才だからだよ。銃だって当たってるだろ、ゼロ距離なら」


 クリーチャーの持ち物にも外套は纏われているため、普通に戦うよりも少しばかり難易度は増すものの、こういう方法で倒すことも一応可能。

 持ち主が死ぬか、奪ってから一定時間が経てば、やはり砂になって消えてしまうが。


「あら」


 初エンカウントがそうであったように、レッドキャップは基本的にツーマンセルかスリーマンセルで行動する。

 今度はレアの太腿にナイフが迫るも、あっさりと刃の側面を槍の石突きでカチ上げ、間髪容れずの蹴りで跳ね返し、隠れていた二匹目のレッドキャップの眉間に突き刺さる。


「なんでお前は急所を狙われないんだ?」

「完璧で究極なアイドル級の美少女だからかしら」


 そう言えばレッドキャップは気に入った女を捕まえて犯すことがあるって資料で読んだような。

 近似種のゴブリンやホブゴブリンは超絶紳士なのにな。この前、腰痛めたお婆ちゃんの荷物運んでるの見たぞ。

 そこら辺がクリーチャーとガーディアンの決定的な違いか。確かに呼称も分けたくなるってもんだ。同じ括りで扱うとか失礼過ぎる。


 あとアレだ。ミニスカート履きで平然と上段回し蹴りとかやるかよ普通。






「お」


 帰り道が長くなるので今日は九階層まで行く気は無かったため、現在位置を見失わない程度に地図を確かめつつ適当に歩いてたら、だだっ広い空間に出た。


「一辺百メートルってとこか」


 光源は見当たらないのにやけに明るく、故に良く見えるの姿。


「エルコボ四匹、ミルメコレオ二匹……と、柱の影に隠れてるレッドキャップ三匹」


 Fランククリーチャー三種総出でのお出迎え。

 別種のクリーチャーは争うことも多いと聞いたが、こいつらは友好的な関係を築けている模様。


「このくらい私達だけでもやれるけど、乱戦になったら、ちょっとだけ面倒ね」

「あ? あー、まあ、そうな」


 腹も減ったし、何故か俺が全部待たされてるコインも重たいし、やれるかやれないかで言えば普通に根絶やしに出来るものの、流石にかったるい。

 そう思ってたら、レアが懐から召喚符カードを引っ張り出した。


「とうとう使うのか。待ちかねるあまり半分忘れてたぞ」

「とうとう使うわ。完全に忘れ去られる前にね」


 ゆっくりと頭上に掲げられる召喚符カード

 幾許かの間を挟んだ後、高らかにレアは叫んだ。


「来なさい──ガルム!」





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