第14話 八階層






 それぞれに一時間ほど費やし、六階層と七階層を踏破した俺達。

 五階層以下とは比較にならない広さゆえか同業者とも出くわさず、現れるクリーチャーもエルダーコボルドだけだったため、実に単調な道のりであった。マンネリズム。


「八階層は何が出るんだっけか」


 エレベーターの中で、なんとはなしレアに尋ねる。


「四割くらいエルダーで、あとはレッドキャップとミルメコレオね」

「ああ、そうだったそうだった」


 ゴブリンの近似種で、体長は二メートル前後とランクにしてはやや小柄だが、素早く静かな動きと刃物の扱いに長けたレッドキャップ。

 キメラの一種にしてライオンの上半身とアリの下半身を持ち、その異形な形態ゆえ小回りは利かないが突進力は相当なものであるミルメコレオ。

 そしてエルダーコボルド。この三種がFランクに分類されたクリーチャーの全て。

 ランクが低いうちは種類も少ないんだよな。Gなんてコボルド一種だし。


「下半身だけとは言え外骨格を持っててやたら頑丈なミルメコレオもそうだけど、特にレッドキャップには少しだけ気を付けた方がいいわね。エルダーみたいに真っ直ぐ突っ込んで来ないし、気配を隠すのも上手いから」


 正面戦闘オンリーな脳筋の相手に慣れてきたところで、忍び寄られてグサリか。なんとも嫌らしいタイミングで出てきやがるな、レッドキャップ。

 しかも曲がりなりにもFランク。純粋な身体能力も獣並みに高い筈。

 強い奴に搦め手を使われるのが一番かったるい。日本書紀にもそう書いてある。






 レアに幾つか注意点を教わった頃合、八階層に到着した。


「ン」


 パッと見た感じ、さっきまでと変わらんが……匂うな。

 何か居る。すぐ近くに。


「ハッ」


 レアに目配せすると、こっちの意図を察したのか、静かに頷いて返された。


 俺は敢えて無防備に、そんな俺とは対照的に油断無く槍を構えたレアから距離を置く。

 さりげなく、わざとらしさを漂わせず、美味そうな隙を晒す。


〈──ギアィッ!〉

「なんてなァ!」


 暗がりの死角から飛び出し、短剣で背中を突き刺さんと向かって来た影。

 赤い頭髪。ゴブリンの上位種であるホブゴブリンに似た風貌。

 コイツがレッドキャップか。資料のイラストと実物とでは、やはり印象が変わるな。


「ざぁんねん。釣り針を呑んだのはテメェだよ」


 刺突を最低限の動きで躱し、こめかみに銃口を押し付け、発砲。

 頭が弾けたレッドキャップが倒れるよりも先、別方向に銃口を向ける。


「ツーマンセルってのも当然お見通しだ。伊達に天才やってねぇ」

〈ギッ──!?〉


 気配を殺したままだったもう一匹めがけて連射。

 三発。四発。六発。九発──


「──当たらねぇ!」

「ホント貴方、射撃が下手ね」

「下手じゃねぇ!」


 身構えた二匹目のレッドキャップが攻勢に出る間際、距離を詰めたレアが魔槍の一刺をテキトーに放ち、普通に仕留める。


 途端に場は静まり、横たわって動かなくなる亡骸二つ。

 そいつも数拍の後、砂のように崩れ始め、最後は数枚ずつのコインだけを残し、跡形もなく消え去った。





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