第13話 セカンドスキル






 白い塔には五階層刻みで安全地帯セーフゾーン到達報酬ごほうびが設けられており、十階層まで辿り着いた際には二つ目のスキル、即ちセカンドスキルが手に入る。


 超人的な膂力を発揮し、肉体強度も向上させる『豪力』。

 ファーストスキルに火・氷・雷いずれかの特性を追加する『付与』。

 死んでさえいなければ大概の傷病を立ち所に完治させる『治癒』。

 肉眼で目視可能かつ声が届く範囲内へと瞬間移動する『縮地』。


 以上の四種類が存在し、こちらもやはり偏りが著しく、九割方は豪力を発現させる。

 残りの三種だと他人のファーストスキルに対しても使える付与が人気で、治癒はそれ以上に大人気だが、バカかよってほど希少。俺は天才だから発現しそうにないな。


「どうかしらシドウ君。可憐な私の美しい槍捌きを賞賛してくれてもいいのよ?」


 戻って来るや否や、突き立てた槍にしなだれかかり、婀娜っぽく笑うレア。

 賞賛と言われても。


「かける言葉は特にねぇ。お前がその程度は軽くやれる女だってことくらい知ってる」


 強いて言うなら可憐ってよりゴリラ。或いは熊。若しくは重戦車。


「…………そう。流石は私の永遠のライバル、中々の慧眼ね。その通りよ、だって私はアルティメット天才儚げ美少女探索者の霧伊レアなんだから。貴方も早く上ってきなさい、このステージに。私達が目指すべき場所に向かって延びている道は、それなりに長いのよ?」

「分かってるさ。ま、ボチボチやって行こうぜ」


 ふぁさ、と髪をかき上げ、不敵な笑み。

 自信過剰でナルシストだが、大口叩けるだけのスペックは持ってるんだよなコイツ。


 ま、そんな奴でもなければ、例え自称であっても天才かつ最強でナイスガイな俺のライバルなどとは口が裂けても名乗らせんが。


「しかし、なんだ。そんな風に見せびらかされたら俺も欲しくなるぜ。セカンドスキル」

「貴方ならそう言うと思ったけど、残念ね。五階層の赤いメダルと違って、セカンドスキルは六階層から十階層までをで制覇しないと手に入らないの」


 知ってる。合格率三割を乗り越えた探索者の過半数が三級止まりな理由だ。


 冗談抜きでバケモノだらけな十一階層以降での活動にはセカンドスキルとEランク以上のガーディアンが必要不可欠だと協会は判断しており、だからその二つの所有がそのまま二級昇格の条件にもなっている。


 エレベーターの重量制限や、稼働中はクリーチャーが寄って来やすい問題もあって、探索者は大人数で徒党を組むことが難しい。

 故に協会、延いては代理政府も迂闊に条件を緩められず、ここ数年の活動は停滞気味。


 崩界から八年。人々が今の環境に慣れ、だからこそ少しずつを望むようになり始め、年間のコイン消費量は右肩上がり。

 にも拘らず、コインの取得数自体は横這い。代理政府のお偉方は、さぞ頭が痛いだろう。

 つーかこの前、家で酒飲みながら愚痴ってたし。


「ひとまず十階層まで行って、エレベーターのアンロックだけ済ませて、その後に一人で……なんて姑息な裏技、とっくに誰か試してるか」

「エレベーターで直接十階層に行っても意味無いそうよ。それに私は兎も角、シドウ君は往復しなきゃいけないじゃない。明日も学校あるんだし、流石に時間足りないわよ」


 確かに。もしサボったら姉貴に何言われるやら。ウチの担任は完全に買収されてて即行で連絡行くし。

 しかも今週末あたり泊まりがけで挑もうにも、召喚符カードが無い今の俺には六階層以降への単独突入許可がおりない。

 大人しく来週末まで待つしかないってコトか。


「チッ……ま、仕方ねぇな。天才は焦らない」

「ふふっ。取り敢えず今日のところは八階層までにしましょうか。あそこなら新しいクリーチャーも出て来るし、私のガーディアンも見せてあげるわよ?」


 よしきた。

 さっさと行こうぜアミーゴ。





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