第12話 魔槍
「ねえシドウ君。ひとつ言っていいかしら」
「言ってみな」
気分を出すため棒付きキャンディを咥え、タバコを吸ってるっぽく見せる。
飲酒喫煙はハタチになってから。
「じゃあ遠慮なく言うけど」
六階層を練り歩くこと約二十分。
俺が倒した三体目のエルダーコボルドの崩れ行く亡骸を見下ろした後、チベットスナギツネのような目でこっちを見るレア。
「へたくそ」
その言葉に、舐め始めたばかりのキャンディを思わず噛み砕く。
「なんて暴言吐きやがる。年頃の女が男に向かって口にしていいセリフじゃねぇぞ」
「私そこまでのこと言ったかしら」
言った。
女子高生から冷たい眼差しで「へたくそ」呼ばわりとか、場合によっちゃ死者が出る。
「……でも実際、死ぬほど下手よね。射撃」
「下手じゃない」
「下手だって」
「下手じゃねぇって!」
俺が下手? 俺がpoor? 冗談よしこさん。
この天才かつ最強でナイスガイなシドウくんに苦手分野などあるものか。こちとら定期試験とか毎回全教科満点なんだぞ。
それはレアも同じだけども。
「二メートル先のエルダーコボルドに七発撃って一発も当たらないって相当よ。あの巨体相手に全弾外す方がよっぽど難しいでしょ」
「すばしっこい奴等が多くて参るぜ。銃弾くらい見てからでも避けちまう」
「Fランクのクリーチャーは流石にそこまでスピード無いわよ」
ぐぬぬ。ああ言えばこう言う。
「ン?」
言い争ってたら、通路の突き当たりに四匹目を見付けた。
こうなりゃ、ここからアレのドタマぶち抜いて、マシーンのような精密射撃を見せつけてくれる。へたくその汚名も三秒後には返上、かの仙石権兵衛秀久も土下座で弟子入りを求めるレベルのリカバリー能力よ。
「俺の射程圏内に入った時が、お前のチェックメイトだ」
撃つ。
音で俺達に気付いたエルコボが「今なんかした?」とばかりに首を傾げた。
「……魔弾を受けて平然としてやがるとは、タフな野郎だ」
「外れただけよ」
撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
駄目だ当たらねぇ。もっと近付いて撃とう。ゼロ距離なら百発百中なんだよ。
「待って」
「ぐえ」
レアに襟首を掴んで引き止められた。
何しやがる。服が破けちゃうだろうが。
「そろそろ私にも回して欲しいのだけど」
「……成程。それもそうだ、気を利かせてやるべきだったな」
何せ槍と銃じゃ射程距離が違うからな、射程距離が。
そっちが穂先の届く間合いまで近付く間に、こっちは立ち止まったまま何発も何十発も弾を撃ち込めるからな。
いやはや。武器の差ってやつは、いかんともしがたい。
「魔槍」
石突きを高く、穂先を低く構え、槍全体に濃い紫色のオーラを纏わせたレア。
次いで一歩踏み込み──人間離れした初速で飛び出した。
「豪力」
石の床が罅割れるほどの脚力。
三十メートルは離れていたエルダーコボルドとの距離を一瞬で詰め、一刺を繰り出す。
「あら。やっぱりこの階層帯だとこれは必要無いわね。かなり手加減してもまだオーバーキルだわ」
その突きもまた、異様な威力。
女の細腕、いや人間の腕力で放ったとは到底信じられない。
何せ、三メートル近い体躯を持つエルダーコボルドの屈強な上半身が、木っ端微塵に吹き飛んだのだから。
「……ああ、そうか。アイツ二級だもんな、そりゃ持ってるよな」
白い塔、ダンジョンを十階層まで制した際に発現するごほうび、セカンドスキル。
知識としては知っていたが、実際目の当たりとするのは当然初めてである俺は、今し方の光景に思いを馳せる。
「紫の総レースか。しかも紐」
激しく動き回ることが前提のダンジョンで、レアの奴は何故スカート履きなんだろう。しかもああも短い丈の。
「ああ。ズボンであんな踏み込みしようもんなら、股の布地が裂けちまうか」
しかし、だったら男連中はどう対処してるんだ。
気になって夜しか眠れねぇ。
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