第10話 エレベーター






「待たせたか?」

「私も今来たところよ。お互い時間に正確ね」

「そりゃ早く来る理由も、遅れて来る理由も無いからな」

「言えてる」


 手痛い出費にすっかり財布が軽くなってから一夜。

 約束通りの時間に協会へと向かい、ほぼタッチの差で先に来ていたレアと合流する。


「貴方、前の土曜が初めてだったんでしょ? まずは二階で軽く慣らした方がいいんじゃない?」

「冗談だろ。コボルドじゃツマミにもなりゃしねぇよ」


 窓口で突入申請を出し、無事許可がおりる。

 保管庫までレアの召喚符カードを引き出しに行く道中、二階層と五階層のどちらから始めるか、少し議論になった。


召喚符カードも無しで、いきなり六階層のクリーチャーと戦う気? それは流石に、ほんのちょっぴりノーリスクとは行かないかもしれないと思うけど」

「六階層ならエルダーコボルドと同程度の奴等だろ。何も問題無い」

「……貴方まさか、五階層より下でエルダーと遭遇したの? そんな通達出てなかったわよ」

「あー、そう言えば報告してねぇな。わざわざ話すほどのことでもなかったし」

「…………そう。ふーん。初日でエルダーを。流石私がライバルと見込んだだけのことはあるじゃない。まあ? 私も? やろうと思えば? 同じ条件で? やれるけど?」

「なら六階層からで大丈夫だろ」

「そうね。ええそうね、やってやろうじゃないの。はー、つらいわー。私の時は四十分、四十分もかけて五階層まで行ったけど、一度もエルダーと遭遇できなくてつらいわー。遭遇してたら確実にキャン言わせてやってたのにつらいわー」

「マジかよ引きの悪い女だな。俺なんか往復一時間で二匹出くわしたぞ」

「…………つらいわー!」






 大袈裟な映画の金庫みたいな分厚い鉄扉の先、無数の引き出しが並んだ召喚符カード保管庫。

 そのひとつにレアが暗証番号を打ち込んだ後、静脈認証で電子ロックを解く。


「……Eランクか。ま、それを持ってなきゃ二級には上がれねぇもんな。引き運がに強くて羨ましいぜ」


 三角形の模様が刻まれた裏面。

 赤いメダルを使ったボーナスゲームにて、およそ十にひとつの確率で引ける当たり枠。


「七種のどれだ? 見せてくれよ」

「それは後のお楽しみ」


 表面の絵柄を覗き込もうとしたら、サッと懐に仕舞われた。

 もったいつけてくれやがる。






 ロッカールームで動きやすい服装に着替え、いよいよエレベーターに向かう。


 場所はモノリスが据えられた大広間の隣。奥から手前にかけて六基のエレベーターが並んだ、細長い部屋。

 平日の間に挟まった祝日だからか、数グループ並んでた週末と比べて空いている。


「五階行きのエレベーターを」

「はい、確認しました。お気をつけて」


 レアが職員に突入許可証を渡し、手前から二つ目の前に立つ。


 ──白い塔のエレベーターは基本的に隣接した階層にしか行けないが、五の倍数の階層は例外で、一階ここと直通している。


 ただしこれを使えるのは、実際にその階層へと一度でも行ったことがある奴だけ。

 資格の無い者が一人でも乗り込むと、例によって動かなくなる。


 ついでに言うと、初めて使う際はで機能をアンロックしなければならない。

 要は自力で一往復した後にのみ使えるショートカット機能ってワケだ。だから俺も週末入った時は徒歩で一階まで戻ったし。


「さ、行きましょ。忘れ物は無い?」

「強いて言うなら少年時代のピュアハートだな。いつの間にか落としちまった」

「あっそ」


 軽口を交わしつつ、エレベーターの扉が閉まる。

 そしてゴリゴリと耳障りな音を立て、上へ上へと動き始めた。





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