第9話 縁の下のGランク






「じゃあ行きましょうか」

「ああ……その、やっぱ割り勘ってことには……」

「え? おかわり自由? 明日はダンジョンで運動するし、思い切って三杯くらい食べちゃおうかしら」

「…………もう好きにしてくれ……」






 学生のシャングリラこと放課後。

 このような世界になってもそれは変わらず、上機嫌なレアを引き連れ、駅前まで赴く。

 ……先日のコイン売却で稼いだ小遣い、ほぼ吐き出すことになりそうだ。


「相変わらず、白い塔はどこに居ても良く見えるな」

「当然でしょ。直径一キロはあるもの」


 四年前に旭川市含む一帯が消滅して以降、北海道セカイ人口の九割以上は札幌市内に集結した。

 寄せ集まった方が物資削減にもなるし、順当な流れと言えばそうなんだろう。


「お。見ろよ、ガーディアンが道路工事やってるぜ」


 指差した先には、アスファルトを剥がした道路をショベルカーで掘り返すゴブリンと、土砂を運ぶスケルトン。

 そして、作業中に出たゴミを飲み込んで溶かすスライム。


「Gランクが揃い踏みで現場仕事とは、中々豪勢じゃねぇか」

「最近ああいう仕事、人間はやらなくなったわよね」


 白い塔を登る上で、最下級であるGランクのガーディアンは殆ど役に立たない。

 だがしかし、人々の生活を支えるための働きをさせるという点に於いては、驚くほど都合の良い存在だった。


 成人男性並みの身体能力を有し、教育によって車の運転や電気工事なども行える知能を持った万能の労働者『ゴブリン』。

 ゴブリンと比べれば多少膂力は劣り、命令も比較的単純なものしか理解出来ないが、疲れ知らずで休まず働き続けられる社畜の鑑『スケルトン』。

 有機物無機物問わずあらゆるものを完全消化し、その際に有害物質などを排出することもないクリーンな掃除屋『スライム』。


 Gランクに属する三種のガーディアンは、モノリスに触れさえすれば非スロット持ちでも入手可能というのが最大の利点。

 代理政府はGランク召喚符カード一枚につき十万円での買取という条件をチラつかせて人々に召喚符カードを引かせ、三種合わせて百万枚以上の労働力を獲得し、企業に貸し出したり政府の仕事に従事させたりと、様々な形で活用している。


 そうして今や、ああいった肉体労働の多くはガーディアンが担うようになった。

 たった八年で人口が半数近くまで激減した北海道セカイの各種インフラが保たれてるのは、笑えることに俺達を閉じ込めたであろう存在から与えられたモノの恩恵ってことだ。


「…………」


 チャンバーといい、召喚符カードといい、赤い壁によって不自由を強いられた俺達は、白い塔によって生かされてる。

 そして。周りの連中は、それを当然の理として認知しつつある。


 そのこと自体が悪いとは、特に思わない。

 寧ろ新たな摂理に順応したという、どちらかと言えば喜ばしい在り方。


 だが、しかし。


「なんだかな」


 それに尽きる。





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