第6話 召喚符






 召喚符カードの存在が一般に広く認知されたのは、五年前の探索者支援協会発足と同時期だ。

 当然代理政府はもっと早く知っていたが、モノがモノゆえに慎重な対応を取らざるを得なかったのだろう。


 ──召喚符カードとはスキル同様、クリーチャーに対抗するための手段のひとつ。

 いや。それだけじゃない。今やこのセカイを支える根幹のひとつとすら言える。


 召喚符カードは、これまたスキルと同じく、白い塔一階中心部の広間に鎮座するモノリスへと触れることで、一人につき一枚のみ手に入れられる。


 スキルと大きく違う部分は、非スロット持ちであっても入手が可能ってところか。

 尤も代理政府が定めた規定によって探索者以外が召喚符カードを個人所有することは出来ないため、引くだけ引いたらそのまま買取という形で協会、延いては代理政府に所有権が渡る構造だが。


 そして例え探索者であっても、白い塔に入る時以外は協会の保管庫に預けておかなければならない。

 仮にこれを破った場合、色々と厄介なペナルティを負う羽目になる。具体的な内容は忘れたが。


 何故そこまで厳重に管理されるのか。至極単純な話である。


 それは召喚符カードが、アイテムだからだ。






「シルフかピクシー来いシルフかピクシー来いシルフかピクシー来い……ああ畜生、ホブゴブリンかよ! ティターニアまで進化させて侍らせる俺の夢が!」

「ドンマイよっちゃん。さー、次は俺……よっしゃ来た、ブラックドッグだ! これで移動がラクになるぜ!」

「三人は流石に乗れなくね? せめてガルムまでは進化させないと無理だろ絶対。つか、ガーディアンはコイン運べねーじゃん」


 モノリスがある一階中心の広間まで到着すると、先客が何人か居た。


 いずれも俺と同じ年頃。大方、俺とは少しだけズレたタイミングで五階層まで辿り着いて登録を済ませた同業者。

 親しげに話してるところを見ると、三人でチームを組んで挑んだ模様。

 まあ普通はそうするらしい。俺は星の数ほど居る友人達全員と予定が合わなかったから単独だったけど。


 ちなみに協会としても探索者の数を出来る限り増やしたいため、だいぶ高いレンタル料を払えばFランクの召喚符カードを借りて挑むことも可能だが、厳しい懐事情により俺にその選択肢は無かった。

 ひと目惚れしたモデルガンが思いのほか高かったんだ。本音を言えば借りて使ってみたかったんだが、無い袖は振れぬってな。






「どうぞ、雑賀様」

「どうも」


 順番が回ってきた俺は職員さんに促され、モノリスの前に立つ。


 スロット持ちが召喚符カードを引く場合、ファーストスキルの発現が優先されるため、こいつに二度触れる必要がある。

 そして二度目に触れる前に、まだ召喚符カードを引いていないスロット持ちだけが五階層で一枚のみ手に入れられる赤いメダルを使うことで、最低排出のレアリティが一段階上がる。


 俺はポケットから赤いメダルを引っ張り出し、モノリスに向けて弾いた。

 ぶつかると同時、黒曜石のような表面が波打ち、飲み込まれて行く。


「これでFランクが最低保証。ついでにEランク以上の召喚符カードにも排出率が発生する、か」


 通常時のモノリスが排出する召喚符カードは、Gランクのみ。

 しかし赤いメダル一枚につき一回、このボーナスモードに入る。


 なお、ボーナスモード中の各レアリティ排出率は、以下の通り。



 F:90%

 E:9.99%

 D:0.009%

 C:0.0009%

 B:0.0001%

 A:0%



 要は基本、高ランクの召喚符カードなんぞと考えていい。

 多少運が良くてEランク。よっぽどツイてりゃDランクにピタリ賞。


 C以上は……もし当たったら、とある理由から逆に不運とすら言える。


 まあ兎も角、さっさと引いちまうか。俺としてはEランクのサラマンダーが大本命で、あとはガルムあたりが来てくれると嬉しい。

 Eランク召喚符カードの所有は二級昇格の条件のひとつだからな。Fランクからさせるとなると相当な手間だし、ここで神引きするのが一番の早道だ。


「オッチャホイ」


 意味こそ知らんが何故か耳に残ってる単語を口ずさみつつ、拳でモノリスを小突く。

 すると表面が再び波打ち、キャッシュカードサイズの板が一枚、裏向きで吐き出された。


 そう。無事に俺の召喚符カードが吐き出された、のだが……。


「…………あ?」


 召喚符カードのレアリティは、裏面に刻まれた模様で分かる。

 Gなら空白。Fなら直線。Eなら三角形。Dなら四角形。


 そして、俺が手に取ったカードに刻まれていたのは──五角形。


「嘘だろ、オイ」


 何かの間違いだったらいいなーとか思いつつ、恐る恐る表面をひっくり返す。


 召喚符カードに封じられたクリーチャー。最近になって『ガーディアン』と呼称を改められた、の種類は多くない。

 それに以前リストの写しを見たことがあるため、俺はF〜Dランクに該当する合計二十一種のガーディアンは全て知ってる。


 しかし。目に入った絵柄と記された名は、そのいずれとも異なるもの。


「ファフニール……北欧神話の、不死身の毒竜……」


 早い話、俺が引いてしまったのは、Cランクのクリーチャーが封じ込められた召喚符カード

 強さの枠組みとしては『局地的な災害と同等』という、大都市を四半刻で更地にしちまうほどのチカラを持った、例え探索者であっても等級の厄物だったってことだ。





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