第2話 ぼっちじゃない、孤高と呼べ(キリッ)
保健室にバカ三人を放り込み、弁当つついてた美人養護教諭に事情を説明する。
いいとこのお嬢さんである姫蔵が危うく大変なことになるところだったと言うことで、そこから先の先生方の対応は迅速だった。
「オラ、キリキリ歩け!!」
「く、くそう……」
「今に見とけよ、火宮……!!」
「良い子ちゃんぶりやがって……」
「良い子だしな、俺」
生徒指導のゴリってるマッチョ、伊佐野先生が三人を生徒指導に連れて行く。捨て台詞にやる気なく応えつつ、俺も購買で買ったパンを頬張った。
昼飯買いに行った帰りでのことだったんだよ、さっきの。もう予鈴までの時間もないしってんで、養護教諭に許可もらってここて昼を食べることにしたのだ。
「ありがとう、火宮くん。うちの姫様ったらお転婆で困っちゃうわ……」
「まあまあ、お気になさらず。姫蔵さんも学内なら多少は大丈夫と思ったんでしょう」
ベッドに腰掛けて、養護教諭とあれこれ話しながら飯を食う。
この人、花野先生もどこぞの名家の方らしく、姫蔵のことを姫様って呼んでいる。他にも何人も姫蔵家ゆかりの者が学内に配置されているようで、そこまでやるくらいならこんなとこじゃなくてもっとハイソなところに行けと言いたいんだが……まあご家庭の事情もあるんだろうし、思うだけに留めておく。
そもそもどうでもいいしな、学校のことなんて。最低限度卒業できればそれで良いのだ、俺は。
パンを食った。もうあと10分で授業だし、俺は保健室を出ることとする。
「じゃあ教室に戻ります。お疲れさまです」
「ええ。あ、それと火宮くん……あなたのお家のことも一応、触り程度に聞いてるわ。無茶しないで、何かあったら頼ってきてね?」
「はあ、どうも。それじゃあ失礼します」
何やら急に言い出された。俺の事情なんて、姫蔵のお付きには関係ないだろうに。一応は教職につくものとしての使命感ってやつかね? ご苦労さまな話だよ。
適当に答えて教室に戻る。保健室傍の階段を上がって三階へ、通路をしばらく歩いて8組へ。
俺はクラスの中でも割と孤立気味で、教室に入ったとて誰も気にしないし話しかけてくるやつもいない。
いじめってわけじゃない。単純に俺のほうから壁を張ってるのと、あと向こうが見てくれを怖がってきているのもあるだろう。
髪、灰色だしな。右目を縦に裂くように大きな傷も走ってるし。何より火宮って家そのものについてもある。
さっき花野先生も言ってた"俺の事情"ってやつだ。ガキの頃に下手打ってこうなっちまったんだけど、それでも奇跡的に視力は生きてるんだから人体ってばすげえわな。
とまあ、外見的な理由からも俺は周囲から浮きがちってわけだった。
席に座る。5時間目は英語か。ダルいな。
放課後にはまた仕事……"天帝勅命"がある。軽く仮眠するかなと考えていると、そんな俺に珍しくも話しかけてくるやつがいた。
さっきぶりの、姫蔵綾音だ。
「火宮くん!」
「……おう、姫蔵。大丈夫かよ」
「もちろん! 全部君のおかげだよ、本当にありがとう!」
屈託なく笑う姫蔵は美人で眼福なんだが、取り巻きの逆ハー要員が果てしなく睨みつけてくる。
お前らその顔、姫蔵に見せられんのかよ……嫉妬の恐ろしさに男も女も関係ねーなと呆れつつ、俺は姫蔵と軽く話をする。
どうせあと数分で授業だし、後ろの馬鹿どもに阿る理由もないからな。
「あの三人、伊佐野に連れてかれたからこってり絞られてるだろ。元々校内でも有名なアホどもだし、これで大人しくなると良いんだがな」
「うん……僕もびっくりしちゃったよ。いきなり声かけられたと思ったら校舎裏に連れてかれて"金持ちなんだろ金出せよ"だもん。世の中、あんなのもいるんだねえ」
「なかなかそんなところまではいかねーんだけどな、普通。やっぱアイツらが特別アホなんだよ、みんなああだと思わないでいてくれると助かる」
「思わないよ! ……君みたいな、とっても素敵で優しい人ももちろんいてくれる。そのことのほうが、僕にとっては印象深いよ」
そう言って笑う姫蔵。なんとも温室育ちらしい、温かで優しい微笑みだ。
良いね、温室。こういうお人好しなのがお人好しでいられる世の中が一番だ。俺もそのためにいろいろ、やってるんだからさ。
チャイムが鳴る。バイバイまたねと手を振って姫蔵は自分の席に戻っていく。
取り巻きの三人もだ……わざわざ俺のところにまで来て捨て台詞を吐いて、それから戻っていきやがった。
「……ちっ、零落貴族の末裔が」
「身の程を知るのも大切ですよ、火宮紫音」
「姫に近づくんじゃねーぞ、没落した家の一人息子」
難儀だな……面倒なのに目をつけられたか。
俺の家、火宮家は別に没落も零落もしてはいないんだけど姫蔵の高みから見れば、そう見えるのも無理からぬことかね。
ま、好きに言っていれば良い。どうせ高校の間だけの付き合いだ。直接仕掛けてきたなら話は別だが、変にことを荒立てるのも面倒だ。
そう考えつつ、俺は夢の世界に旅立つことにした。ぐう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます