天象火宮物語─没落当主と成り上がり男装令嬢─

てんたくろー/天鐸龍

第1話 ボーイ・ミーツ・ボーイ(の格好したガール)

 クラスカーストとかよく言われるけど、それがどうにも俺にはよく分からない。

 同じ学校、あるいは同じクラス。同じ生徒なのにどうして上だの下だの決めつけるんだ? それも基準の曖昧さなんて、鼻で笑っちまうくらいに薄っぺらい。

 

 やれ陰キャだ陽キャだ、イケメンだブサイクだイケてるだキモイだ。ああ強いとか弱いとか、友だちが多いだ少ないだもあるか。

 吹けば飛ぶような軽々しい要素だけでアイツはえらいコイツはダメ、なんて馬鹿馬鹿しいにもほどがあるのさ。

 俺は、火宮紫音はそう思う。

 

「……だからさ、そういういじめ? とかカツアゲとか俺はどうかと思うわけ。わかる?」

「ぐ、ぁ……」

「てめ、ぇ……ひの、みや」

「あ、あわわわ……」

 

 天象学園の昼休み。たまたま通りがかった廊下のすぐそばの校舎裏で、カツアゲが行われていた。

 それを見てしまった以上は、さすがに放っておくのもなあと思い助けに入ったわけだ。厳つい男子学生が三人、細身の男子生徒を取り囲んで胸倉を掴んでいたしな。

 

 で、今こうして三人には地を舐めてもらっている。たまたま身体つきに恵まれた俺はそれなりにこういう荒事にも適していて、場数もそこそこあるからこのくらいは朝飯前よ。

 もちろん暴力は良くないけどな。穏便に済ませたいから俺も、それぞれ腹に一発ずつで済ませた。顔はダメだ、顔は。

 

「さて……と」

「っ」

「別になんもしねえさ。俺はこいつら連れて保健室行くから、落ち着いたら帰んなよ」

 

 無事かと問おうと視線を向けると、男子生徒は身を縮こませて震えちまった。リスみたいだな。身長180cmの俺から見て、まるで小動物さながらだ。

 いや……ていうかこいつ。見覚えがある顔だ。同じクラス、二年8組の。

 

「姫蔵じゃないか。大丈夫か」

「あ、う、うん。だ、大丈、夫」

「怖かったろ、大変だったな。こいつらはこっちで後片付けしとくから、さっさと忘れるこった。友達の女子に話を聞いてもらうとかするのも良い。"同性同士"なら、言いづらいことも多少は言えるかもだし」

「う、うん」

 

 姫蔵綾音。見ての通り男子学生の服を着ている、女子だ。いわゆる男装女子ってやつだな。

 肩口で揃えた艶やかな黒髪の長さや顔立ち、体系、何より見た目の麗しさもあって女性にしか見えないが、格好とボーイッシュな言葉遣いから、主に女子達から人気がある。


 家がそりゃもう大層な名家で、それゆえなのかは知らんけど学生時代は男の格好をして過ごすならいなんだとか。

 すげー家もあったもんだ。俺もそこそこ旧い家の生まれだが、その手のしきたりなんて見たことも聞いたこともない。あったとしても全部踏み倒してるだろうけどな。


 ……っていうか。だったらこいつを囲んで胸倉掴んでたコイツらマジやべーなと、地に伏した三人をドン引きの目で見る。セクハラじゃん。

 カツアゲだと思って割って入ったけど、もしかしたら乱暴狼藉の現場だったのかもしれない。これは保健室にまで運んだら生徒指導まで呼んで、きっちり裁いてもらわないといかんかもな。

 

「難儀だな……」

「ひ、火宮くん! あの、その。あ、ありがとう助けてくれて! この御恩は姫蔵の名にかけて必ず──」

「いらんよ、気にすんな。良いから全部忘れて平和平穏に過ごしな。あと変な奴らに絡まれないように護衛はちゃんとつけといたほうがいいと思うんだな、俺は。いつもの奴ら、振り切ったのか?」

「そ、それは」

 

 面倒なことを言いだした姫蔵を遮って、いつもこいつについてるはずの護衛達について触れる。何しろいいとこのお嬢ちゃんだからな、ボディーガードだって当然付いてる。

 それがこの場面でなお出てこないってことは、護衛の目を盗んでのお忍び中なわけか。学内とは言えお転婆だな。


 天象学園は基本的には治安の良い学校なんだけど、どうしたって不良みたいなやつらはいなくもない。本当なら姫蔵みたいな御令嬢が在籍するのは、ちょっと似つかわしくないまであるな。

 そんなやつらから見れば、いいとこの美人御令嬢が護衛もつけずにのこのこと、なんてのは絶好のカモなのだけど……そういうところにはあまり思い至らなかったのは、まあお人好しってことにしとこうかな。


「────綾音様ー!! 綾音様、ご無事でしたか!!」

「あ、貞時! 時久に、兼輝も!!」


 と、噂をすれば例の護衛連中だ。校舎を出て駆け寄ってくる。

 三人。揃いも揃ってよくできた顔立ちの、いわゆるイケメンどもだった。姫蔵のご令嬢付き、分家の男子達だな。


 小金井貞時。中小路時久、静兼輝。これも名家チックなんだろうか、ずいぶん名前が古風なトリオだ。学園トップスリーのイケメンとか呼ばれてるくらいには整った顔立ちをしている。

 そんな彼らは姫蔵の下にやってくるなり片膝をつき、深々と頭を下げた。


「綾音様、よくぞご無事で! 俺の傍から離れてはいけませんよ、まったく!」

「なんたる無茶を! いかな学内とは言え下民も交じる場に、御身お一人で出歩かれては危険ですよ!!」

「綾音様の身に何かあったら、僕達は、僕は!!」

「逆ハーかよ」

 

 思わずツッコんじまった、毎度思うがなんだこいつら、姫蔵の逆ハー要員かよ。

 まあご覧の通りでこの三人ときたら、護衛だろうに姫蔵にベタ惚れなのが誰から見ても分かる始末。男装女子に侍るイケメンって耽美さもあり、四人一組で学内の女子達から絶大な人気を誇っているのだ。

 

 こうなるともうアレだ、姫蔵逆ハーの世界が始まっちまう。

 助けには入ったがさすがにこれ以上は付き合いきれんと、俺は殴り倒した三人を、一人は担いで後の二人は襟首もって引きずって、保健室へと向かうのだった。










作者からのコメント

お久しぶりですてんたくろーです。

新作始めましたのでよろしくお願いします!

お星様やハート様は作者の滋養強壮を促します。

ぜひともご評価等いただけましたら幸いです。

よろしくお願いします!

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