第Ⅷ章 顔の謎Ⅱ ー特別なオンリーワンー

どうやら、JーPOPとKーPOPにまつわる洋平の話はそこまでのようだった。リュウノスケが話を元に戻す。

「じゃぁいいかい、話を元に戻して整理するぜ。」

そう言って房江と洋平に目配せしてからこう話した。

「忖度するサルが出るようになると、その忖度のために、表情が豊かになった。」

画面の向こう側では房江が頷いている。

「何故かといえば、忖度は言うなれば顔色をうかがうことと一緒だったから、表情が豊かになることが何かと便利だったからだ。」

「流石、リュウノスケ。まとまってる。」

そう言って画面の向こうで房江が手を叩いた。

「ポーカーは弱くなったかもしれないけどね。」

「?」「?」

「にらめっこもね。」

「、、、。」「、、、。」

そんな洋平は無視してリュウノスケは続ける。房江もそれで良いといった感じだ。

「で、問題はそこからだけど、表情を豊かにした人類は、こう考えた。『だったらいっその事、顔から変えちゃった方が手っ取り早い』ってね。」

「そうかしら?」

「それはどうかなぁ。」

これには、房江と洋平、双方から同時に不平の言葉が出る。まずは房江の文句を聞いてみよう。

「だって、表情で喜怒哀楽とかを伝えたいんでしょう。だったら、みんな同じ顔の方が良くない?」

「その方が意味が伝わり易いってこと?」

洋平が補足のような質問を挟む。

「そう。あの顔の怒りとか、この顔の哀しみとか、面倒臭いじゃない。」

「確かにたまにいるよな、泣いてるようで笑ってたり、怒っているようで褒めてたり、判らなかったりするよな。」

皆さんはどうだろうか?顔で笑って心で泣いたりされると、確かに判らなくなったりするのだろう。いや、そもそもそうしたことがしたいがために、その様になったということか。あぁ、話がこんがらかる。

「表情を豊かにしたいということと、顔が一人一人違うということって、確かに似ている感じはするけど、本当に繋がっていることなのかなぁ?」

「確かにそう言われると、そうなんだよなぁ?」

言い出しっぺのリュウノスケも、口を閉ざしてしまう。するとそれに追い打ちを掛けるように洋平が口を開く。

「それに、表情を豊かにするために顔を違えたのだとすると、もっと人の顔って似ているはずなんじゃないかと思うんだよ。」

「似ている?」

「はず?」

まだ、洋平が言わんとすることを飲み込めない様子の二人。

「だってさ、サルって世界中どこ行っても同じような顔してるじゃん。」

「まぁ、実際には行ったことないけど、」

「多分、そうよね。」

「そうだろ。良く見りゃ違うのかも知れないけど、パッと見は同じだよな。」

「そうね。」

「パッと見は同じだな。」

「それが同じように表情を豊かにしようとして顔を変えたんだぜ。豊かにはなるかもしれないけど、それならみんな似たような豊かな表情になるはずじゃないか。」

「表情は豊かにはなっても、だからといって顔まで変わるのはおかしいってことだな。」

「そう言われてみれば、そうかも知れない。」

どうやら洋平の言わんとしたことが、朧げながら二人に伝わる。

「同じ日本人なのに、同じ顔の日本人はまずいない。まぁ、生涯に三人いるとかいないとか言われているけど、いてもそんなもんだ。過去からだって、信長の生まれ変わりとかたまに出てくるけど、まぁそんな程度さ。」

「そうね。そっくりさんが出てくるのって、それだけそっくりな人が少ないからだもんね。」

思案げなリュウノスケが思い出したように、

「ちょっと、ドリンクのブレークでも入れようか?」

と、言い出した。

「そうねぇ。」

「いいな。」

と、即決となり、それぞれがドリンクの準備に取り掛かった。

「俺、烏龍茶のペットボトル、持って来てるから。」

洋平はそう言うと、ベッドに放り出していたリュックのサイドポケットからペットボトルを取り出した。

「なら俺は冷蔵庫をちょっと確認するわ。」

と、リュウノスケは部屋を出て行った。

房江はどうかとZoomの画面を見ると、待受画面のようなヨーロッパの田園風景に切り替わっていた。仕方なく洋平は、烏龍茶のペットボトルを口にしながら、ボンヤリと考えた。

「顔の違いと忖度かあ。」

洋平は、ただただ頭に顔を浮かべた。

「顔、顔、顔、、、」

何処からか何処かで聞いたことのあるような音楽と、見たようなビデオクリップが頭に浮かんだ。

「あれは何だっけ?」

すると、いてもたってもいられなくなった洋平は、リュウノスケのM acでユーチューブを検索し始めた。

「何、探してんだ?」

戻って来たリュウノスケが、大き目のグラスを片手に聞いてきた。炭酸を入れて来たようだ。

「あぁ、あのさぁ、」

と言いかけ、

「あれ?お前、それ、炭酸?」

「あぁ、これな。炭酸。」

リュウノスケのグラスの中身である。

「え?味ないの?」

「あぁ、炭酸だからね。」

「味のない炭酸かぁ。」

「普通、炭酸は味はないよ。」

「それは知ってるけどさぁ、炭酸だけで飲むんだぁ。」

「あぁ。悪い?」

「いいや、悪くはないさ。」

「おかしい?」

「いいや、おかしくはないさ。」

「なら、いいじゃんか!」

「あぁ、いいよ。」

所謂、炭酸水というものである。一時期流行ったような流行らなかったような、、、先に行こう。

「で、お前、何を検索してたの?」

「あぁ、ちょっとね、色んな顔が出ているビデオクリップが、そう言えばあったな、と思ってね。」

「色んな顔が出て来るビデオクリップかぁ?」

「あ、いいから、Zoomを再開しようぜ。」

「あぁ、了解。」

リュウノスケが画面を開くと、房江はヘッドセットをして、既に待っていた。ドリンクはペットボトルの緑茶のようである。ボトルにストローが刺さっているのが見える。

「お待たせ!」

リュウノスケが声を掛けると、

「ハーイ。見えるし、聞こえてまーす。」

と、明るい房江の声が返って来た。

「洋平が、色んな顔が出て来るビデオクリップがあるんだって、ちょっと探してて遅くなりました。」

「そんな待たせたかなぁ。」

そして、声のボリュームをあげ、

「待たせたとしたら、ごめなさーい。」

と、謝った。

「お前、Zoomで大声出さなくていいから。十分、普通の声で聞こえるから。」

「あぁ、そうか。」

Zoomあるある、である。

房江は画面の向こうから、笑いながら両手で頭の上にオッケーを描いた。そして、何気ない様子で聞いてきた。

「色んな顔が出て来るビデオクリップって何?」

言われたリュウノスケは、自然と洋平を見た。洋平は暫く考えると、

「あ、思い出した。あれだ!」

と、Zoomの別画面でユーチューブを立ち上げ、あるビデオクリップに辿り着いた。

「これこれ、ちょっと長いかも知れないけど、良いかなぁ?」

そう、隣のリュウノスケと画面越しの房江に同意を求める。勿論、二人に異論があろうはずもない。

「じゃぁ、ちょっと画面共有するね。ちょっと長いかも知れないけどスタートしまーす。」

と、洋平がスタートさせたのは、マイケル・ジャクソンの ”Black Or White” だった。


「マコーレ・カルキン君って、どこ行っちゃったのかしらね?」

半ば懐かしむように房江が呟いた。

「そうだなぁ、、、」

どこか上の空のような、リュウノスケ。

「調べてみようかぁ?」

洋平もあまり真面目な口調ではないようだ。何となく三人とも、マイケルジャクソンの世界感と醸し出す雰囲気に感染したかのようだ。それなりのアーティストには、やはりそれなりの世界感なり空気感というものがある。それは決して大画面とは言わずとも、パソコンや携帯の画面からでも伝わるものなのだろう。

「あの最後の方に東洋人の女の人出てきたじゃない。」

房江も何か心ここにあらずといった感じだが、言葉は続けた。

「あぁ、最後の方にな。」

「あれ、日本人だって、知ってた?」

「え?そうなの?!」

「えぇ、確かスミダ・ユーコさんって言ったはず。」

「へぇー。」

どこか集中出来なさそうな三人だったが、やはり房江が口火を切った。

「やっぱり違うわね。」

三人共やっと目覚めた感じだった。マイケルの世界観から現実に戻ったのだ。

そこからは早かった。

「そうだね。」

「全然違うね。」

リュウノスケも洋平も、堰を切ったように話し出した。

三人が話しているのは、”Black Or White”のラストの部分、代る代る色々な人の上半身と顔が映し出されるところだ。

「まぁ、マイケルが言いたかったのは、人種的なことだったとは思うけど、、、」

「確かにね。今観ても違和感がないなぁ。」

「黒人と白人だけでなく、ワールドワイドだったからかなぁ。」

ご存じの方も多いとは思うが、マイケル・ジャクソンの”Black Or White”という楽曲のプロモーションビデオでは、黒人と白人だけでなく、黄色人種のアジア系含めて、色々な肌の色が取り上げられている。特にラストのシーンでは、色々な人種の顔がモーフィングという画像合成技術で、浮かび上がるように変化していくのだ。楽曲名は確かに”Black Or White”だが、メッセージとしては「色なんて、関係ないさ。」と言わんばかりである。

ただ、三人の話したかったことはマイケルの主題ではない。人の顔だったはずである。ここで話しを戻したのは、マイケルの横道に逸らせた洋平本人だった。

「ゴメン、話しはマイケルじゃなくて、顔だったよな。」

ようやっと話が元に戻った。

「そうだな、顔だよ。」

「顔で忖度して、知性が生まれたって話よね。」

改めて洋平が話をまとめる。

「つまり、ある時から忖度し始めたサル、まぁこれが人間の始まりなんだけど、その忖度というのは、『自分』と『他人』というものを意識させるようになり、やがてそれが人間の知性になって行った、ということだな。」

「知性、オッケー。」

「でも、まだ顔が違うって話はこれからよね。」

そうである、顔と知性と、更に顔自体の違い、もう少し会話を見て行こう。


と、そこに「ニャー」という鳴き声が聞こえてくる。

「あれ、何か遠くで泣き声みたいのが、、、」

Zoomでも聞こえたのであろうか、猫の鳴き声である。リュウノスケが部屋の扉を開けると、猫のコムサシが入って来た。

「あ、そっちにも聞こえた?今、コムサシが、、、」

という間にコムサシがデスクに飛び乗り、リュウノスケのMacの上を徘徊しだした。丁度、キーボードの上を行ったり来たりする。ゴロゴロと喉を鳴らしているところを見ると、悪意というより、むしろ好意を持ってウロウロしているようだ。

「あ、コムサシでしょ、今映ってるの。」

房江の画面の方にも、画面一杯に猫の胴体が映っているはずである。

やがてコムサシは、居心地が良いのかそのままキーボードの上に乗り、香箱座りの姿勢で落ち着いた。因みに香箱座りとは、猫が前肢を胸元で内側に曲げてする座り方で、その座り方を見た昔の人が、お香を入れる四角形の香箱に例えて言ったとされる猫の座り方である。

「っていうか、コムサシの胴体しか見えないんですけど、どうするの?」

何故か14インチの画面に丁度スッポリと嵌るコムサシ。画面の向こうというか、コムサシの向こうで、もはや声しか聞こえない房江。

「猫ってキーボードの上が好きなんだよなぁ。」

「へー、お前、この上が好きなのかぁ?」

と、コムサシをなでる洋平。嫌がるでもなく、かと言って嬉しがるでもない表情のコムサシ。

「そうなんだよ。無茶苦茶好きなんだよ。キーボードが出来る前はどこに座ってたんだってくらい、好きなんだよなぁ。」

とのことである。猫飼いあるあるの事ではあるだろう。

どうするのかと洋平もリュウノスケを見るが、すると、

「こうなるとね、もうどうしようもないから、俺が携帯からZoomを立ち上げるので、招待するからちょっと待ってて。洋平も携帯か自分のパソコンから入ってね。」

と言って、携帯の操作を始めるリュウノスケ。

「そういうことなのね。コムサシをどかすとかじゃないんだ。」

と、コムサシの胴体の向こうの房江。

「そうね。また乗っかってくるし、部屋から追い出してもうるさいし、、、」

携帯の操作をしながら答えるリュウノスケ。

「了解。猫中心主義だね。」

「そうそう、、、いま二人を新しいZoomに招待したんで、入ってください。」

「了解。」「了解。」

ほどなくして、リュウノスケと洋平は携帯から、房江は自宅のノートからというZoomが始まった。相変わらずコムサシはリュウノスケのノートパソコンを不法占拠したままである。前肢を内側に器用に折り曲げて、香箱座りで気持ちよさそうに目を細めていた。


気を取り直して、洋平が再開する。

「そうやって忖度することから知性を目覚めさせた一方で、忖度は顔色をうかがうことでもあったわけだ。ということはつまり、、、」

リュウノスケがその言葉を受けて、

「顔色をうかがうってことは表情を観察するってことだから、」

と繋げると、会話の流れから結論を言うのは房江の番だった。

「だから人間は表情が豊かになった。」

「その通り。」「その通り。」

「ここまではいいのよね。」

頷く洋平とリュウノスケ。新しいZoomのセッションも問題ないようだ。

「問題は、人間の場合、表情だけでなく、顔そのものが一人一人違うということ。」

「そうだな。人種とか性別に関係なく違う。」

「時代や地域にも関係なく違う。」

「まぁ、誰かが証明したわけでもないかもしれなけど、実際に違っているのは間違いないわよね。」

「まぁ、DNAの構造から考えれば、特に難しいことでもない気がする。」

「と、言うことは、何で人類は顔を変えたのか?」

そうまとめた洋平にリュウノスケが更に問題点を整理した。

「問題点は二つだ。」

リュウノスケの言葉に頷く二人。

「一つ目は、表情が豊かになったことと牙の退化の関係だ。房江は牙が退化した後に表情が豊かになったという。何故なら、牙があると表情がつけにくいからだ。」

「うーん、どうなんだろう?自分で言っておいて、何か自信がなくなってくるわ。」

画面の向こうの房江が、落ち着きがない。そんな房江の様子がこちらの二人には面白く見える。リュウノスケが続ける。

「二つ目は、表情が豊かになったことと顔の違いだ。」

「表情が豊かになったからといって、必ずしも顔自体を変える必要はないんじゃないか、と言うことだよな。」

洋平が言いなおしたが、これにも房江が口を挟む。

「これも私が言い出したのよね。」

先ほどから房江に落ち着きがない。

「どうしたんだよ?」

と、リュウノスケが画面の向こうに問いかける。すると房江が、

「私、意見を変えても良いかなぁ。」

と、言い出した。

「言って見ろよ。」

そう、リュウノスケが促すと房江が語り始めた。

「私、さっきのマイケルのビデオを見て思い直したんだけど、顔は変えたくなるわね。」

「え?何のこと?」

リュウノスケは分からないようだが、洋平はピンときたようだ。

「顔のことだろ。」

「そう、やっぱり表情が豊かになると顔も変えたくなったんじゃないかと思ったの。」

「マイケルのビデオを見てか?」

リュウノスケの問いに、画面の向こうで房江が頷く。

「そりゃ、そんな気はするな。ラストシーンの顔がみんな同じだとすると、何かぞっとするもんな。」

洋平も同じ思いのようだ。

リュウノスケも頷いて続けた。

「実は俺もね、やっぱ忖度して顔を窺うようになると、表情だけでなく、顔自体変えようとしたと思っていたんだよ。」

男性陣はどうやら最初から表情と顔はセットとして考えていたようだ。

「私も今ではそっち派だけど、理由は何で?」

房江が二人に問いかける。

顔を見合わせた二人だが、リュウノスケから言うおpl00OLP!ようだ。

「何でかというとね、『自分』と『他人』が頭の中で生まれた以上、『自分らしさ』とかも生まれざるを得ない、と思ったんだ。」

「そこで、変えられるものといえば顔だった、ってことだよな。」

リュウノスケの結論を先回りする洋平。

「そう、その通り。手を三本とか指を六本とかにするわけにはいかないからね。洋平も同じ考えだったんだな。」

「まぁね。ただ、アウストラロピテクスから変わっていたかは分からないのかな、とは思う。」

「あぁ、もしかすると猿人からホモサピエンスまでは、顔が変わらない人間もいたかもしれないってことかぁ。」

「そう言われれば、確かにそうね。直立二足歩行と犬歯への退化はほぼ確定的だけど、顔の変化は正確なところは分からないものね。」

房江も同感なようだ。

この猿人からホモサピエンスに至る人類の進化の詳細は、また別で扱うかもしれない。ここでは人類にもいくつか種類があって、その最初から顔が違っていたかは、良く分かっていないということだ。頭蓋骨の遺跡はあるが、それだけで顔かたちまでは判断できないと言ったところだろう。

「まぁ、ホモサピエンスからは違っていたんだろうけどね。」

ということである。

「ホモサピエンスからは、知性も表情もあり、顔も一人一人違っていたってことね。」

画面の向こうで房江がまとめた。大きく頷く画面のこちら側の二人。三人の意見はめでたく一致したようであった。

洋平が無用な一言を付け加える。

「つまり、誰しもが元々特別なオンリーワンだったと言うことだね。」

かなりいいことを言ったはずだったのだが、反応はなかった。


ただ、これで終わりかと思いきや、洋平が更に一言付け加えた。

「そうは言うものの、美人は美人だったりしたのかなぁ?何となくしたんだろうなぁ?」

これには反応があったようだ。

「それはそうね、美男美女って、国籍とか人種とか関係なく、大体美男美女だものね。」

「そうだなぁ、人種特有とか、国特有で美男美女の評価って、そんなに分かれないもんな。」

何となくそれぞれ考え込む三人。

「アウストラロピテクスにも、イケメンていたのかしら?」

房江が呟く。

「顔が違うんだからなぁ、いてもおかしくないよなぁ。」

「え?クレオパトラみたいな北京原人とかか?」

「まぁ、お化粧はしなかったでしょうけどね。」

「いたのかなぁ、いやいたんだろうなぁ。」

「少なくても、ホモサピエンスぐらいからはいたんでしょうね。」

「そうかぁ、いたのか、、、」

「いたんだな、イケメンサピエンスとか、美女サピエンスとか、、、」

「きっといたのよねぇ、、、」

何となく再びそれぞれ考え込む三人。

暫くして、リュウノスケが気乗りしないげに呟いた。

「イケメンがいたのなら、その反対もいたんだろうなぁ。」

「ブサメンサピエンス、、、」

「なんか嫌な言葉ね。」

素っ気ない房江。

すると洋平が言う。

「でもさぁ、言葉も分からない相手でも、美男美女の感覚は同じだなんて、上手い仕組みを作り込んだもんだよね、考えてみればさぁ。」

「それもそうだなぁ、全然知らない土地の知らない人種の人に出会っても、お互いの感じ方は一緒だってことだもんな。」

「って言うことは、圧倒的に美男美女が有利じゃない!」

「ハ、ハ、確かにね。そっちの方が、種の繁栄には有利なんだろうね。」

「そうだな、オスとメスの選び方の感覚が一緒だってことなんだからな。」

「ま、まぁ、そうとも言えるのかぁ?」

「俺って、やっぱ有利になっちゃうのかなぁ。」

とリュウノスケ。

「言うと思ったよ。」

と洋平。

「プ!」

画面の向こうで、それを見た房江が噴き出した。

場が和んだ。

「ハ、ハ、ハ、、、」

「フ、フ、フ、、、」

「じゃぁ、Zoomの画面、落とすわね。、、、あ」

と、その時、房江が思い出したように言い出した。

「あ、そうだ、リュウノスケに言っておかなきゃって思ってたことあるんだ。」

「え?どうした?」

すると、

「前の事引きずるようで悪いんだけどさぁ、ビーカーにちょっと反証可能性の事を聞いてみたんだ。」

という。

ちょっとバツが悪い様子で、リュウノスケが口を開く。

「あぁ、それで?」

「ビーカー曰く、寿命が短い生き物だったら、進化論も実験可能だって。ほら、ショウジョウバエとかモルモットとかいるじゃない。そう言うものだったら、出来る実験もあるし、実際に色々やってるって。だから、、、」

それほど強い口調ではないが、多少遮るようなタイミングで、

「ありがとう。」

そうリュウノスケは言うと、房江を画面越しに見つめ、硬い表情から、少しおどけた表情にわざと変えて見せた。

それを見てにっこりと笑う房江が、

「おやすみ。」

というと、リュウノスケも、

「チャオ!」

と答えた。洋平も手を振った。

それで、Zoomは切れた。

「お前、あれから何かキャリーと連絡したのか?」

洋平も携帯のZoomを落としながら聞く。

「いいや、してないけど。」

平静を装うリュウノスケ。

「落ち着いたら連絡ぐらいしてやった方が良いと思うぜ。」

「あぁ。わかった。」

照れ隠しなのか、リュウノスケの表情は硬かった。

Macの上のコムサシは、気持ちよさげに寝息を立てていた。夜が更けて行った。

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