願いを書くと必ず叶う『人生の書』を友人から譲ってもらった

醍醐兎乙

願いを書くと必ず叶う『人生の書』を友人から譲ってもらった


 僕が使い切る前に君へ譲ることができてよかった。

 君には色々世話になったからね。

 これで僕が望んだ最初の願いが叶うよ。


 良い人生を。






 俺は友人に呼び出され、喫茶店にきていた。

 この友人は最近景気の良い生活をしていると聞いている。

 そんな男が俺になんの用なのか、全く見当がつかない。


 俺の前に座る友人が話し始める。


「人生が何でも、自分の思い通りになるとしたら、どうする?」


 友人は真剣な目をしていた。


 友人の眼力に気圧されながら俺は答えた。


「そ、そんなの最高じゃねか。酒に金、女にギャンブル。やりたい放題したいね‼」


 俺のその答えを聞いて、友人は小さく何度か頷く。


「見込んだとおりだ、自分の欲に忠実なのがとてもいい」


 友人は独り言のように呟き、自分のカバンから一冊の本を取り出し、テーブルに置いた。


「最近、僕が羽振りの良い生活をしているのを、知っているかい?」


 俺は話が見えないながらも頷く。


「その理由がこの本。前の持ち主は『人生の書』って呼んでいたね」


 友人はテーブルの上の本を指差す。


「この本に書いた願いは必ず実現するんだ」


 友人は変わらず真剣な目を俺に向ける。


「僕も最初は半信半疑だったよ、でも試しに願いを書いてみたんだ、『お金持ちになりたい』、『美人な恋人がほしい』って」


 当時を思い出しているのか、友人は少し視線を上げた。


「一週間もしないうちに美人でお金持ちの恋人ができた」


 友人の語り口に熱が入り始める。


「1度だけなら偶然かもしれないだろ、だから僕は何度も試した。欲しいものをなんでも書いた、したいことを思いつくだけ書いた」


 友人は目を見開き、興奮を隠さない。


「そのすべてが実現した、すべてだ。願いが叶いすぎて困ったくらいさ‼」


 興奮する友人に、俺は不機嫌さを隠さず確認する。


「それで俺を呼び出したのはその本を見せびらかせて、自慢するためか?」


 俺の言葉に友人はさっきまでの興奮を消し去り、慌てて弁解した。


「違う違う‼ 僕はこれから君に譲る『人生の書』について説明したかっただけなんだ」


「その本がお前の言う通りの代物なら、お前が手放すわけないだろ。俺をからかってるのか」


 俺は更に不機嫌になり、友人を睨みつける。

 説明が足りないと気づいたのか友人は更に慌てた。


「さっき言った通り、僕が思いつく願いはすべて叶ったんだよ。今後はお金でどうにでもなるんだ」


 俺を抑えるように友人は言葉を続ける。


「前の持ち主に言われたんだ。叶えたい願いがなくなったときは、願いを持った人に『人生の書』を譲るようにって。それで欲深そうな君に『人生の書』を譲ることにしたんだ」


 伝えたいことを言い切れたのか、友人は満足そうな顔をしていた。




 俺は自室で『人生の書』を見ながら、友人が最後に渡してきたペンを触る。

 このペンは『人生の書』専用のものらしく、このペンでしか『人生の書』に書き込むことができないそうだ。


「そんな大事なもの、最後に渡すなよ」


 良い人生を‼ と去っていった友人の顔を思い返す。

 晴れやかな笑顔だった。




 俺はさっそく人生の書を使うことにした。


 念のため、小さな願いから書き込む。

 願いの大きさで、しっぺ返しが起きても困る。

 友人が全て本当のことを話したとは限らないのだから警戒しておくべきだ。



『人生の書』は俺の願いを叶え続けた。

 そのたびに俺の願いは大きく、欲深くなっていく。


 最初警戒していたのが馬鹿らしく思える。




 


 ペンのインクが切れた。

 予備のペンはない。


 俺の『人生の書』にはもうなにも書けない。

 俺の願いはもう叶わない。


 俺の『人生の書』には、まだページが残っている。

 俺の残りの人生は、あと……どれだけある?


 書けなくなったペンが床に落ち、白紙の残る『人生の書』だけが残った。






「『人生の書』をあなたに譲ります。だけど気をつけて。ペンのインクが残り少ない。インクがなくなれば、その時の『人生の書』の持ち主は消えてしまう」


 僕は彼女から『人生の書』とインクの少ないペンを受け取る。


 この時に僕は、欲深い君を消し去る、復讐の計画を思いついた。






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