第41話 桂小太郎

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 041_桂小太郎

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 名 称 コタロー・カツラ


 種 族 ヒューマン

 情 報 男 19歳 地球人 総理補佐官

 状 態 健常


 職 業 扇動の賢者

 レベル 95 / 180


 攻撃力 950 / 1850

 防御力 900 / 1800


 スキル 人物鑑定 偽装 思考操作 遊戯 闇魔法 逃走

 器 量 6 / 13


 適 性 ゲーマー 扇動者

 才 能 政治家

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「え、桂君は魔法使いだとばかり思っていたわ……」

 総理官邸で見た元クラスメイトは、総理大臣をはじめとした国会議員たちを操って、何かを企んでいた。

 その一環として憲法改正を行い、自衛隊を軍隊へ昇格させたのだ。


 彼は総理官邸の一角を占拠し、ゲーム三昧の日々を送っている。それなのに、なぜ軍隊が必要なのか、広大たちにはさっぱり分からなかった。


「読心術とかあればよかったけど、これがないんだよなー」


 多くのスキルを持っている広大だが、読心術は持っていない。鑑定眼では人の心の中までは読めないのだ。


「桂君の本当の職業が分かったわけだけど、目的は分かっていない。どうしたものかな……?」

「拉致るか?」

「不穏ね!?」

「分からないなら、聞けばいいじゃん。教えなければ、拷問してもいいし」

「ダイ君、過激すぎるわ」

「いや、軍隊作って徴兵するほうが過激じゃね?」

「まあ、そうかもしれないけど……」


 ということで、桂小太郎を拉致することになった。





「ななななななななななななななななななななななナンダ、ここはっ!?」

 桂小太郎は自室でゲームをしていたのだが、気づいたら何もない真っ白な空間にいた。

 明らかに異質な空間に、桂小太郎は動揺が隠せない。


『桂小太郎よ』

「だだだだだだだだだだだだだ誰だっ!?」

 ここには誰もいない。カメラもマイクもスピーカーもない。なのに声がすることに、桂小太郎は恐怖を感じた。


『お前は我が守護する国に乱をもたらそうとしておる。よって、罰を与えることにした』

 幻想的に聞こえる声だが、これは広大の演出であった。


「りゃん……乱なんて……」

『軍隊を整備し、徴兵制度を復活させた。これによってこの国は激動の時代へと突き進むであろう』

「それは仕方がなかったんだ! C国やR国が戦争状態だから、この国も戦争に巻き込まれると思って! 戦争に巻き込まれたら、自衛隊なんかじゃとてもこの国を守れないんだよ! だから、ちゃんとした軍隊にして俺を守ってもらいたかったんだ!」

『桂小太郎よ、お前の考えは理解した』

「だったらっ!?」

『だが、徴兵制度はやりすぎだ。そうだな、お前の罰は徴兵制度で徴兵された者が死んだら、その者の残りの寿命をお前の寿命から引くとしよう』

「え?」

『お前のせいで死んだ者の恨みを受けるべきであろう。なーに、若者が2人も死ねば、お前の寿命は尽きるであろう。一気に老化して干からびて死ぬだけだ』

「い、嫌だーーーっ!」

『徴兵された者も理不尽に死んでいくかもしれないのだ。それくらいの罰は当然であろう』

「ヒィィィィィィィィッ、ゆるじてくでゃざい」

『徴兵された者もそう思って死んでいくのだろうな』

「あぁぁぁぁぁぁ……」

 この光景をモニターから見ていた広大は、困った顔をした。


「こいつ、なんで気づかないんだよ?」

「テンパリすぎて徴兵制度の復活を却下させればいいと思い至らないんじゃないかな?」

「どうしたら気づいてくれるんだ?」

「……何度もここに呼んだら気づくんじゃない?」

「それだと、ありがたみとか、恐怖感が薄れないか?」

「薄れるわね」

「はぁ……困ったヤツだ」

「これ以上やったら、精神崩壊を起こしそうだし、もしかしたら後から気づくかもしれないから、一旦返そうか」

「そうだな……」

 桂小太郎を直接拷問して恐怖で支配するという手も考えたが、直接顔を合わせるのは嫌だなと思った広大は、このような面倒な仕掛けをした。それが良くなかったようで、桂小太郎は広大やコウの意図をくみ取ってくれなかったのである。


「一週間くらい様子を見て、それで駄目なら拷問するか」

「拷問はともかく、徴兵制度は撤回させないとね」

「しかしあいつ、あんな理由で自衛隊を軍隊にしたのか。それで戦争になって総理官邸に核でも落とされたらどうする気だったのかな?」

「そんなこと考えてなかったんじゃないかしら。むしろ、この国でも核を配備しようと思っていたんじゃない?」

「まあ、核の配備はいいとして、核廃棄物の処理をどうするのかな?」

「核はいいの!?」

「使わなければ、抑止力だしね」

「でも使うかもよ」

「その時は、お婆ちゃんたちを連れて異世界に移住するよ。せっかく天空城も手にいれたことだし」

「ダイ君……それはどうかと思うわよ」

「無責任とか思ってる?」

「そうね……」

「でもさ、俺が指示したならともかく、他人がやったことに俺が責任を負う必要はないよね?」

「そうなんだけど……」

「力があるからとか、そういうのは正義感のあるコウがやればいいよ」

「わ、私は……」

「そうだ、聖女コウを頂点とした、聖女党とか平和党を作ってこの国をもっといい国にするのはどう?」

「なんで私が!?」

「コウが総理大臣になって、この国を導く。それなら、俺も仲間のコウを助けることがあるかもよ」

「う……でも、総理大臣になるには、被選挙権の年齢制限があるから、まだ選挙に出ることはできないわ」

「それこそ桂をボコって18歳まで引き下げさせればいいじゃん。なんなら俺が国会議員を洗脳してもいいよ? 成人年齢が18歳なのに、選挙に出られないなんてナンセンスだから、これはいい法改正だと思うよ」

 逃げ道が塞がれていくとコウは感じていたが、広大は何もコウを国会議員や総理大臣にしたいわけではない。そういう選択肢もあると言っているだけなのだ。


「か、考させてもらうわ」

 コウは本気で政界進出を考え始めてしまった。

 元々コウの専攻は政治学である。そういった意味では、興味がないわけではないのだ。


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