第40話 国防軍
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040_国防軍
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帝城を堂々と出た広大たちは、ギルドで2人のギルマスから謝罪を受けた。
「本当に申しわけありません。今回のことはギルドとしても誠に遺憾に思っております」
(おお、出たよ。伝家の宝刀『遺憾』!)
政治家たちがよく使う言葉の上位に入る『遺憾』は、『覚えていません』と同じくらいに有名かもしいれない。
「こんなことに巻き込まれて非常に迷惑だ。今後はギルドの頼みを聞く気はない」
「「それはっ!?」」
「何か問題があるの?」
広大が威圧を込めた言葉に、ギルマスたちは激しく首を横に振った。
広大の威圧に耐えられる人などこの世界に存在しないのだ。
地球に帰った広大だったが、コウから着信がたくさんあることに気づいた。
「どうしたの?」
「やっと帰ってきたのね! 大変なのよ、テレビをつけて!」
コウの焦った声に、広大はテレビをつけた。
「んんん?」
テレビは世界連邦機構の広報官が声明を発表している場面を映していた。
『今後、旧C国と旧R国に世界連邦機構軍を派遣し、内戦の終結に尽力することになりました』
内戦状態に陥っていたC国とR国の状態が酷いことから、世界連邦機構が多国籍軍を組織して内戦の鎮静化に努めるというものだった。
『多国籍軍の陣容は、A国、E国―――J国になります』
「この国からも軍を派遣するの?」
「昨日、憲法が改正され、自衛隊を軍にする法案が可決したのよ!」
「はい? いつそんな憲法改正案とか、法案が出されたんだ?」
広大は寝耳に水の話に、驚いていた。
「改正案や法案が提出されたら、すぐに可決されたのよ。それで即日参議院でも可決されたの。何かおかしいわよ、これ」
「ああ、おかしいな」
広大でもおかしいと思うようなことが起きていた。
改正された憲法は敵国に先制攻撃を可能にするものであった。それを補足する法案によって自衛隊は国防軍になり、一般的な軍隊と同様の枠組みで運用されることになった。
同時に防衛大臣は国防大臣と役職名を変えている。
隣国のK国などは過敏に反応したが、すでに国防軍の軍備増強のための補正予算案も通りそうな勢いである。
『国防大臣の
徴兵制度まで復活してしまった。
軍事関係の憲法改正と法案が連続で可決されたことで、国民からの反応は極めて悪い。その上で徴兵制度まで復活しては、たまったものではないと、国会前では大規模なデモまで起こっていた。
「うわー、何これ? 徴兵? マジっすかー」
「国防軍になったから、らしいわ」
「国防軍ねぇ……」
実年齢が18歳から25歳までの健康な男女は3年の兵役が課せられることになった。
「それで私のところに、軍人がやってきたのよ」
「軍人がコウのところに?」
「そうなのよ。私を徴兵するっていうのよ、信じられないわ」
「コウを徴兵か。まあ、俺が軍人でもそうするかな」
「ちょっと、何を言ってるのよ!」
「冷静に考えれば、コウのような優秀なヒーラーがいるだけで、とても安心できるじゃん」
「な……」
コウは絶句して二の句が継げない。
「あくまでも俺が軍人だったらね。もし、コウの立場なら、その軍人をぶっ飛ばす」
「そんなことしたら、私が犯罪者になるじゃない」
「その際はこの国を根本から作り直すしかないね。国防軍を持つこと自体は悪いとは思わないけどさ」
「え、広大は軍国主義者なの!?」
「いやいや、他の国が軍事力を持っているのに、この国だけ平和ボケしているのは否定しないってことだよ。平和憲法もいいけど、国民を守る気のない憲法に価値はない。そう思っているだけさ」
異世界に召喚され、戦いや死を身近なものと感じた広大は軍事力を否定する気はない。
ただし、あくまでも抑止力として軍事力を誇示することが前提で、戦争をしたいわけではないのだ。
次の日に、コウが広大の家を訪れた。
「あいつらウザすぎいるわ!」
どうも軍人が再びコウの元を訪れ、軍に入れと言ってきたらしい。
「国防軍は否定しないけど、徴兵はどうなんだろうな……」
とても微妙な話だ。
国や国民を守るには、軍は必要だと思う。
でも、徴兵されるのは嫌だ。勝手な言い分だが、本音であった。
「世界的に見ても徴兵制度やそれに類似する制度を持っている国は多いのか……」
ただ、先進国ではあったりなかったりである。
戦時下ではまた違うのだろうが、平時の徴兵制度は平和ボケしたこのJ国では非常に評判が悪かった。
「ネットで炎上しているし、各メディアもほとんどが反対の意見だな」
メディア被害に遭っている広大やコウとしては、メディアなどあてにはならないから、参考にする気はない。
「ちょっと調べてみるか」
徴兵制度は広大にも影響を及ぼす。
来年の4月に施行される前に、どういった経緯でそんな話が出て、どうしたらあの即日可決に至ったのかを調べることにした。
まずは総理大臣の周辺からと思い、国会や総理官邸を訪ねることにした。
ただ訪ねても門前払いされるのは火を見るよりも明らかなので、当然ながら姿を消して勝手にお邪魔する。
そこで過去視を使って総理やその周辺の人たちの動きを確認した。
「ん?」
過去視は万能ではない。軍関連の話を突き止めるまでに、かなりの時間を要した。
それで分かったことは、暗躍している者がいるということだった。
「なんでこういうことをするかな……」
それは広大も知っている顔だった。
「あいつ……名前、なんだったっけ?」
顔は覚えていたが、名前が思い出せない。
それは異世界からの帰還者の1人であり、行方不明になっていた4人めの
「とりあえず、寝床だけ突き止めておくか」
それはすぐに判明した。総理官邸の一室である。
桂小太郎は総理官邸で寝起きし、ほとんどというかまったく外には出ない生活を送っていた。
しかも、彼の部屋には広大が羨むほどのゲーム機やソフト、それに新旧アーケードゲームが揃った部屋があったのだ。
「羨ましくないぞ……お、俺だって、それくらい揃えられるんだから!」
なぜかゲームの品揃えで対抗しようとしている広大であった。
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