第39話 決着
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近衛兵が第四皇子を連れて戻ってきた。
謁見の間の外側に多くの兵が集まっているのは、近衛兵がこの状況を教えたからだろう。そのくらいは広大も承知の上だ。
広大はチュニクスを右に、ロイニエンとアリッサの2人を左に立たせる。
その一段下に第四皇子と第五皇子、そのさらに下の段に丞相を立たせた。
「さて、これから次の皇帝を決めるぞ」
第四皇子はいきなり連れてこられ、自分と弟の第五皇子の2人から次の皇帝を決めると聞かされ戸惑っていた。
そもそもこの状況はなんなのだ? この男は誰なのだ? そして床に這いつくばっている皇帝と第三皇子の姿に驚きを表情に出さないようにするので精一杯だった。
「第四皇子と第五皇子、お前たちが皇帝になったら、何をする? どういった方針でこの国を導いていくんだ?」
この男は何を言っているのか、第四皇子はまったく理解が追いつかなかった。
「すまない。質問をしていいだろうか?」
たまらず第四皇子が口を開いた。広大は構わないと、質問を許した。
「これはどういった状況なのか? なぜ私が皇帝候補になっているのかを、知りたい」
「そうだな、あんたにはそれを知る権利がある。まず、皇帝は俺を騙して奴隷にしようとした。冒険者ギルドも敵に回した。つまり、皇帝がこのままこの玉座に座り続けると、俺と冒険者ギルドが全力でこの国を攻撃することになる」
「なんと……。だが、私には帝位継承権はないのだが?」
「それは俺が認めた。ここにいる奴らも認めた。だから、あんたはここにいる」
そんなことで帝位継承権が発生するなんてと思わないではないが、この異常な状況ではありえるのかもしれない。
だが、正規の帝位継承権を持っている第五皇子がいるのだから、自分の出る幕はないだろうと第四皇子は考えた。
「さて、状況は理解できたかな。ここで俺からひと言!」
広大は玉座の上であぐらをかいだ。
「この後、帝国は多額の賠償金を支払うことになる。言っておくが、ミスリル貨1000枚なんてけち臭い金額じゃないぞ。当然ながら、ここにいる貴族にもそれぞれの爵位に合わせた賠償金を払ってもらう」
そこで貴族たちから罵詈雑言が発せられた。
「うるさいぞ。次に俺の許可なく喋った奴は死んでもらう。覚悟しておけよ」
罵詈雑言がピタリと止んだ。現金なヤツらだと、広大は苦笑する。
「発言をいいだろうか?」
宰相が発言を求めた。
「いいよ」
「貴族にも賠償をさせるのかね」
「当たり前だ。こいつらは俺たちがあの檻の中に入れられているのは笑っていたんだ。皇帝が勝手にやったなんて言い逃れはできないぜ」
「賠償額はどれほどになるだろうか?」
「国は俺とチュニクスにミスリル貨10万枚、公爵は1万枚、侯爵は5000枚、伯爵は3000枚、子爵は1000枚、男爵は500枚だ」
「そ、それは……」
「それを払うしか、この国が生き残る手段はないぞ。そうそう、これは俺とチュニクスの分だ。冒険者ギルドに関しては別途交渉しろよ」
2人のギルマスでさえ苦笑するしかない厳しい対応だ。
広大は払えても、払えなくても構わないのだ。
特にお金がほしいわけではない。これは罰なのだから、払えなければ滅ぼすだけ。極めてドライな考えである。
簡単に支払うことができたら、それは罰にはならない。血の涙を流して必死にその金額を用意するべきなのだ。
「あー、言っておくが、増税は許さないからな。もちろん、新しい税を取るのもな。そうだな、向こう10年間、増税したヤツは一族ごと滅んでもらう」
貴族たちは真っ青な顔をし後悔したが、もう遅い。
「さて、それだけの支払いを国も貴族もしなければいけない。次の皇帝になったヤツは、そこに転がっている老害のせいで、貴族からかなり恨まれることになるんじゃないかな。それでも皇帝になりたいか?」
2人は広大から目を逸らした。
「どちらかが皇帝をしないと、国が維持できないんじゃないかなー」
「「………」」
嫌なことを言うと、2人が睨む。
「2人が皇帝になりたくないと言うなら、無理には勧めない。だが、その場合は賠償もされないとみなして、この国を潰す。もちろん、皇族も貴族もその家族もな。さて、どうする? 俺も暇じゃないんだ。さっさと決断してくれ」
わざわざ第四皇子を呼んだのは、適当に場を乱したいと思っただけで、どうなろうといいのである。
ただ老害を殺してお終いでは、罰にならない。広大たちは奴隷として使い潰される予定だったのだから、この国にもそれなりの罰が必要なのだ。
第四皇子にしたら、呼ぶなよと思っていることだろう。
「私は元々帝位継承権を持っていなかった。だから兄弟が皇帝になると思っていた。第三皇子はあれだから、本来は第五皇子が皇帝になるべきだろう。だが、第五皇子が皇帝になりたくないと言うのなら、私は仕方なく皇帝になろう」
「つまり、第五皇子次第ってことか。さて第五皇子、お前の考えを聞こうか。皇帝になるか、ならないか。この二択以外の道はないぞ」
「……分かった。私が皇帝になろう。それがこれまで帝位継承権を持っていた者の責任であり、筋というものだ」
「よし、決まった。宰相、そこの老害が被っている王冠を持ってこい」
「……承知した」
宰相は皇帝の前で跪いた。
「何をするか、朕が皇帝なるぞ!」
「陛下がそう主張されますと、ここで死ぬことになります。それでよろしいでしょうか?」
「莫迦な!? 朕を殺そうとするものを、お前たちが殺せ! それが忠義というものだ!」
貴族たちは皇帝から目を逸らして返事をしない。すでに見捨てられているのだ。
自分たちに課せられる賠償金をどう捻出するか、貴族たちの考えはすでにそちらに移行していたのだった。
「それができないから、皇帝陛下は無様にこの床に座っておられるのです。それとも本当に死にますか?」
「なっ……」
これほどの騒動を起こして多くの貴族を巻き込んだ。皇帝が王冠を渡したところで、退位したところで、生きていられるのはそれほど長くないであろう。
宰相も責任追及され、処刑される可能性は十分にある。だから、今回止められなかったことを、あの世で詫びようと考えていたのである。
「王冠をお渡しください」
「グヌヌヌ」
皇帝は観念して王冠を宰相に渡した。
王冠を受け取った広大は、それを第五皇子の頭に載せた。
「これで戴冠式は完了だ。新皇帝は玉座に座れ」
言われるままに新皇帝が玉座に座ると、広大は貴族たちに向き直る。
「ここに新しい皇帝が誕生した。不満がある奴はいるか? ……いないな。はい、拍手!」
広大が拍手すると、チュニクスが拍手する。そして徐々に拍手が広がっていく。
「宰相、ここにいる貴族の名前と貴族位を記したリストを作ってくれ」
「分かった」
「貴族たちは動くなよ。リストに名を残したくないから、隠れようだなんて思わないことだ」
宰相がリストを作っていき、それを受け取る。
「それじゃあ、今から名前を呼ばれた奴は、返事をしてくれ」
広大は名前を呼んだ。最初は公爵からだ。
爵位が高い者から呼ばれ、返事が返される。
全員呼び終わったところで、漏れがないか確認する。
「呼ばれてない奴はいないよな? いたら教えてくれ……誰も出てこないか。よし、これでリストは完成だ。あとから文句言うなよ」
広大は数名が名前を呼ばれてないことを知っていた。だが、それをあえて指摘しなかった。
「さて、これから名前を呼ばれた奴は、前にでてきてくれ。フェルドバルド・フォン・アルンドート公爵」
公爵が怯えた顔で前に出てきた。
広大の後ろではチュニクスがスマホで動画を撮っている。名前と容姿をこれで記録しているのだ。
「はい、アルンドート公爵は一カ月後にまたここにきてくれ。その際に、賠償金のミスリル貨1万枚を持ってきて支払ってくれ。理解したか?」
「ああ、理解した」
「そんじゃ、ここから出てもいいぞ」
広大は出口を指差した。
「出られるのか?」
「ああ、出られる。ただし、約束は守れよ。そこで項垂れている老害のようになりたくないだろ?」
「分かった。必ず約束は守る」
アルンドート公爵は謁見の間から出ていった。
その際に謁見の間の外にいた兵士が中に入ろうとしたが、入れなかった。
「次は―――」
次々に名前を呼び、賠償金の支払いを約束した貴族が外に出ていく。
「今ので最後だ。さて、残ったのは4人か」
広大はニヤリと笑う。
残った4人は、宰相の視界から逃げてリストに名前を書かれないようにした者たちだ。
「こいつらには死んでもらおうか」
「「「「待ってくれ!」」」」
「待っても結果は変わらないぞ」
「これは……あれだ! 宰相の記載ミスなんだよ!」
「そうだ、記載ミスなんだ。だから、殺さないでくれ」
「記載ミスなんだから、殺す必要はないだろ」
「記載漏れはよくあることだ」
「たしかに記載漏れはあるかもしれない。だけどさ、俺が名前を読み上げて確認した際に、名前を呼ばれてない奴は教えろと言ったよな。お前たち、俺を舐めているのか?」
「「「「それはっ!?」」」」
「まあいい。お前たちはここで死ぬんだ。足掻いてみるか?」
「「「「っ!?」」」」
広大の殺気が4人を射貫いた。4人はその場にへたり込み、ガクガクと震えて口もきけない状態になった。
「ダイ様。あの4人の始末は私にお任せください」
(今のチュニクスに任せると、拷問しそうだからな……)
「分かった。好きにしろ」
(ガス抜きは大事だからね)
広大から許可をもらったチュニクスは、4人の貴族の四肢を瞬時に斬り落とした。
4人の叫び声が謁見の間に響き渡る。
「さて、宰相。あの兵士たちに言い聞かせてくれるか。俺たちに手を出すなとな。手を出しても構わんが、死体が増えるだけだぞ」
「分かった」
宰相は入り口へいき、兵士たちに持ち場に戻るように命じた。
「新皇帝。お前はこの老害をしっかり軟禁しておけよ。今回は殺さないが、次に何かあったら容赦なく殺すからな」
「了解だ」
「それと第四皇子。わざわざ出てきてくれたのに、すまなかったな」
「い、いや、それはいいんだが……」
どうせこんな状態で皇帝になっても、揉める未来しか見えない。まだ第五皇子が皇帝になったほうが、幾分かはマシだろうと第四皇子は思っていた。
「あと、こいつはもらっていくぜ。楽しい労働が待っているからな」
広大は第三皇子の襟首を掴んで持ち上げた。
「それじゃあ、一カ月後にまたくるわ。その時に賠償金をちゃんと払ってくれることを願うよ。じゃーな」
広大は奴隷の尻を蹴り上げ、自分で歩けと命じる。
元第三皇子の奴隷は、広大の命令に従うしかない。もし逆らえば、激痛が全身を襲うのだ。そういった首輪を彼自身が用意したのだからよく分かっていた。
もちろん、元第三皇子がつけている首輪は、広大が覚えた隷属魔法によって上書きされ、さらに強化されている。
元第三皇子は一生この首輪をつけて暮らすことになるのである。どうしてこうなったと後悔しても、もう遅かった。
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