第38話 老害には、退場願おうか
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038_老害には、退場願おうか
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ゆっくりと歩いて階段に足をかけると、第五皇子が広大の前に立ちはだかる。
「これ以上は、許さん!」
第五皇子は愚かな王侯貴族の中にあって、唯一まともな人だと思える。
ただし、広大の常識からすると、多少マシな程度だ。
「俺を阻むか」
「当然だ! 皇帝陛下には指一本ふれさせん!」
「なかなか律儀だが、あんたが命をかけるほどの価値が、その老害にあるのか?」
「皇帝は誰も侵してはならぬ! 故に、我らは皇帝のためにこの命を懸けるのだ!」
「立派な心がけだが、あんたが引かなければ、その老害もろとも骨も残らず消滅させるぞ。それでもいいのか?」
「な、卑怯な!」
「卑怯? 俺たちを罠に嵌めたのは、どっちだ?」
「………」
「悪いのはそっちで、俺はやられたからやり返す。ただそれだけだ。分かったら、そこをどけ。あんたが大人しくどいたら、その老害は殺さないでおいてやる」
まるで広大が悪人のようなセリフだ。
「陛下。ご命令を」
「め、命令だと……?」
「私が引かなければ、私と陛下は死にます。私が引けば共に生きます。陛下がどちらを選ばれようとも、私は陛下の命令に従います」
第五皇子は皇帝の命令で命を投げ出す覚悟はある。だが、どう考えても広大には勝てそうにない。だから、皇帝の命令に従うことにしたのだ。死ぬのも生きるのも、それは皇帝の意志なのだから。
皇帝は「グヌヌヌ」と歯ぎしりをし、生と死を天秤にかけていた。攻撃を命じれば、第五皇子と共に死ぬのだろうか。もしかしたら、第五皇子がこの冒険者を倒すのではないか。
もし引けと命じれば、冒険者は間違いなく自分のところまで上ってくる。それでは自分が殺されるのではないか。だが、冒険者は第五皇子がどけば自分を殺さないと約束した。
皇帝は自分が約束を反故にしたという、都合の悪いことはすっかり忘れ去り、広大に約束を守るのかと確認するのであった。
「俺はお前と違って嘘は言わん」
「……エルデン。引くのだ」
「……はい」
エルデンはゆっくりを下がり、剣先を床に向けた。ここで剣を鞘に戻さないのは、警戒の証だ。
広大はゆっくり、階段を上る。そして四段目、玉座のあるその高みへと至った。
皇帝は恐れと困惑を目に湛え、尋常ではない汗をかいている。
広大はそんな皇帝を見下ろすように立つ。
「おい、老害」
「………」
さすがに老害と呼ばれて返事をすることはない。
次の瞬間、広大が皇帝の胸倉を掴み持ち上げた。
「ぐぅ」
「俺はお前を呼んだ。返事もできないほど、耄碌しているのか」
「グヌヌヌ。朕は皇帝で……ある」
「ハハハ。無能な皇帝のせいで、魔法使いが20人も死んだ。10人の近衛兵が大怪我をした。いや、無能ではないな。無能は無害、有害は愚物だ。つまり、お前は愚物で愚かな支配者だ」
「朕は……」
「お前は愚か者だ。でなければ、俺たちを罠にかけ、冒険者ギルドを敵にしない。なあ、ギルマス」
ロイニエンとアリッサが顔を見合い、頷く。
「その通りです。帝国は、冒険者ギルドに敵対しました。よって、冒険者ギルドはありとあらゆる方法をもって、帝国を潰すでしょう」
ロイニエンの言葉の意味が理解できないのか、皇帝はキョトンとしている。
「お前を殺すために、冒険者ギルドが全力を挙げるということだ。そのくらい分かれよ、老害」
「へ?」
広大は皇帝を放り投げた。
「ぐげっ」
階段の下、床に叩きつけられた皇帝は腰を強く打ち、のたうち回る。
「さて、丞相だったか。お前、前に出ろ」
「………」
白髪の丞相がゆっくりと前に出てくる。この騒ぎの中、逃げようとしなかったのは褒めていいと広大は思っていた。
他の貴族は皆が出口へ殺到し、今も出口付近でおしくらまんじゅうを続けながら広大の動向を窺っている。
「この始末、どうつけるつもりだ?」
「……冒険者ダイ……殿とチュニクス殿に……迷惑料としてミスリル貨を1000枚ずつ支払おう」
ミスリル貨1000枚は10億円相当になる。かなりの額だが、国家からしたら微々たる金額だ。
「で?」
「……冒険者ギルドにも同じくミスリル貨を1000枚支払う」
広大は鼻で笑い、「で?」ともう一度言う。
「………」
丞相は目を泳がせ、考えを巡らせる。広大の言いたいことは分かっている。だが、それを言うのは憚られる。
「丞相が言わなければ、この国は終わるぞ」
「くっ」
苦々しい表情だ。
「で、どうする? あんたが言うか、それとも滅ぶか。好きなほうを選べ」
「……分かった。某から言おう」
丞相は大きく息を吸い吐いた。
「皇帝陛下はご乱心。よって、退位していただく」
出口付近からざわつきが起こる。
「おい、お前ら! 元の場所に戻れ。そこにいると、死ぬぞ」
広大の殺気のこもった言葉に、貴族たちが悲鳴をあげる。
「さっさと動け!」
広大の怒声に、貴族たちが走り出す。もっとも、広大は怒ってはいない。そう見せかけているだけだ。
貴族たちは、さっきまで自分たちがいた場所に立った。
「さて、丞相。こいつらに聞こえるように、もう一度言ってくれ」
「……分かった。皇帝陛下はご乱心あそばした。よって、退位していただく」
「そ、そのようなこと、認められるわけがない!」
一人がそう言うと、貴族たちに伝播していく。
「退位がないなら、この国が潰れる」
「そんなこと、貴様に言われる筋合いはない!」
「筋合いはないか。だが、俺がこの国を潰す理由はある。皇帝とお前たちがそれを作ったんだぜ」
何も言い返せない。どうしたらいいのかと、貴族たちは脳をフル回転させる。
「さて、この場にいる貴族たちの総意で、皇帝は退位する。それでいいか?」
「………」
「返事がないのは、了承したと思うぞ。皇帝の退位に反対の奴は、前に出てこい」
広大は玉座の上に立ち、肘掛に片足を乗せて貴族たちを見下ろす。
「誰も出てこないか。丞相。血判状を書かせろ」
「承知……」
「あー、次の皇帝を決めないとな。で、誰にするんだ? おっと、そこの奴隷は駄目だぞ。あれは奴隷として鉱山で働かせるんだから」
「第三皇子が駄目であれば、第五皇子しかおりますまい」
「そんなことないだろ。第四皇子がいるはずだ」
「第四皇子は帝位継承権を持っておりません」
「なら、俺が帝位継承権を与える。文句あるか? ある奴は前に出てこい」
誰も前には出ない。広大の殺気に当てられて、立っているだけでやっとだ。
「おい、そこの近衛兵。お前、第四皇子を呼んでこい。そのまま逃げてもいいが、その際はここにいる奴らの半分を殺す。そうなれば、お前は貴族の家族から恨まれるだろうな~」
近衛兵は青い顔をして出ていった。もちろん、広大が許した人だけは、謁見の間の出入りができるようになっている。
これは広大のスキル・時空支配によるものである。
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