第37話 これがピンチ? そんなわけないだろ

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 037_これがピンチ? そんなわけないだろ

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 光りの檻に閉じ込められてしまった広大とチュニクス、そして2人のギルマス。

 この光の檻は、能力を大幅に低下させ、スキルの使用を禁じる結界である。

 ロイニエンが檻を壊そうとしてもびくともしない。それどころか逆にダメージを受ける有様だ。


「お、お待ち下さい、陛下! これはいけません!」

 第五皇子が皇帝を諫めた。


「冒険者ギルドに頭を下げぬともよいと仰った以上、それを覆すのは陛下の名誉を傷つけるものにございます」

「エルデンよ、朕の名誉が傷つくことはない」

「これでは、間違いなく―――」

「朕は冒険者ギルドに何も約束はしておらぬ。仮に使者がどんな約束をしようと、朕のあずかり知らぬこと。よって、朕の名誉は損なわれぬのだ」

「なっ……」

 第五皇子エルデンは、皇帝の言いように開いた口が塞がらなかった。これが大帝国を率いる者のすることか。そんな詭弁が通じるわけがない。

 冒険者ギルドは世界中に支部を持つ大組織だ。このままでは冒険者ギルドを完全に敵に回すことになる。そうなれば、帝国はただで済まない。


「控えよ、エルデン! 皇帝陛下は何も約束はしておらん! お前の出る幕はない!」

「そんなこと……」

「黙れ。皇帝陛下を貶めているのは、お前だ!」

「うっ」

 反論したいが、皇帝があのように言うのだから、これ以上の問答は不敬になる。第五皇子は皇帝に一礼して下がった。


 第五皇子が下がったのを見て満足した第三皇子が指を鳴らすと、近衛兵が進み出てきました。

「これが何か分かるか。ククク」

 愉悦に浸った顔の第三皇子は、首輪を受け取ります。


「それは!?」

「くっ、奴隷の首輪ですか……下衆なことを」

 ロイニエンが目を見開き、アリッサが苦々しい表情で言葉を吐き出します。


「そうだ、これは奴隷の首輪だ。皇帝陛下の奴隷なのだから、特別製だぞ。ギャハハハ!」

 第三皇子は広大とチュニクスに、奴隷の首輪を嵌めろと放り入れた。

 足元に転がる奴隷の首輪を、広大とチュニクスが表情の抜け落ちた顔で見つめる。


「早くしろ! この結界は内側からは攻撃できないが、外からは攻撃できるんだぞ!」

 広大たちは命じられたまま動くしかないのだと、歪んだ笑みの第三皇子は言った。


「おい、ギルマス」

 ロイニエンとアリッサが振り向く。

「俺はあんたたちの顔を立てた。それがこんな結果になったんだ。何か言うことはあるか?」


「くっ……申しわけない……まさか帝国がこんな暴挙に出るとは思ってもいなかったのです」

 ロイニエンの声は酷くかすれていた。


「こんなことになって、責任を痛感しているわ。ごめんなさい」

 アリッサはもしかしたらと思っていなかったわけではない。だが、その可能性はかなり低いはずだと、高を括っていた。


「俺たちがこれから何をしようと、冒険者ギルドは不問だよな?」

 2人のギルマスは、その言葉に首をかしげる。足元に落ちている奴隷の首輪を嵌める以外に何ができるのだろうかと。


「少なくとも、帝国は我々を悪辣な罠に嵌めたのです。帝国やここにいる貴族らには、必ずその報いを受けさせます」

 ロイニエンにそれができるかは分からない。だが、ここまでされた以上は、冒険者ギルドは帝国に謝罪とそれなりの賠償を求めることだろう。


「そんなことを聞いているんじゃない。俺は帝国を潰してもいいかと聞いているんだ」

「ギャハハハ! 帝国を潰す? 奴隷風情がよくも大口を叩くわ!」

 奴隷の首輪を嵌めていないが、第三皇子の中ではすでにダイたちは奴隷になっていた。


「そんなことができるとは思わないが、この状況なら帝国を潰したとしてもダイ殿とチュニクス殿になんら責任はありません」

「それを聞きたかったんだ」

「ですが、状況は絶望的です。私はエルフでこれでも200年以上生きてきました。レベルは人族よりも高い200です。その私がこの光りの檻の前では、スキルを使うことさえできないのです」

「私もレベルは220ありますが、この光りの檻の中ではスキルを使うことができません」

 2人は悔しそうに俯いた。


「ハハハハハッ。この結界は勇者であっても無力化できるんだ! 200や220くらいのレベルでは、何もできはしないのだ!」

 第三皇子は勝ち誇っている。その顔がウザいことから、広大は苛々してきた。


「チュニクス。できるか?」

「申しわけございません。私のスキルも使えなくなっています」

 さっきからスキルを使おうとしているが、チュニクスでは無理だった。

 チュニクスのレベルは上限いっぱい上がり360になっているのに、それでもこの光りの檻は破れなかった。


 この光りの檻は、過去の勇者がレベル300オーバーということで、レベル400までなら能力を制限できる結界であった。


 つまり、この結界に閉じ込められた人は、誰もその力を発揮できないのだ。400未満のレベルであれば……。


「そうか。だったら俺がするか」

「はんっ。キサマに何ができるか!? 大人しくその首輪を嵌めろ。近衛兵、槍を構えろ!」

「「「応!」」」

 近衛兵が10人出てくると光りの檻を取り囲み、槍を構えた。近衛兵がにじり寄り、槍が檻のすぐ外まで迫る。


「チュニクス。下がって」

「はい」

 チュニクスが二歩下がると、広大が前に出る。そのまま檻に手を伸ばす。


「まさか檻を壊そうとでもいうのか!? これだから愚民は度し難い!」

 勝ち誇った第三皇子が高笑いをする。

 広大はそんな第三皇子を無視して檻に手をかける。

 バチバチと手を弾こうとする力が発動しているが、広大はお構いなしで掴んだ。


「この程度か」

 特に力を込めるわけではなく、軽く檻を広げる感じで引っ張ると、光りの檻ははじけ飛んだ。


「なななななっ!?」

 第三皇子はあまりの驚きで、言葉にならない声を発した。


「この檻をまた作られてチュニクスを危険に曝すわけにはいかないな。お前らは死んでおけ」

 広大は壁際で光りの檻を維持していた魔法使いたちの心臓に穴を開けて倒した。

 一気に20人の魔法使いが倒れたことに、唖然と見ていた貴族たちが恐慌状態に陥り、我さきに逃げようと出口に殺到する。しかし扉は開かない。


「無駄だ。この謁見の間は俺が封鎖した。誰もここから出ることはできない」

 皇帝を守ろうともせずに逃げ出そうとした貴族たちに呆れしかない。


「なんなんだ、キサマは!?」

「冒険者だが?」

 第三皇子の悲鳴のような問に、広大は首を振って返す。


「こ、殺せ! こいつを殺すのだ!」

 10人の近衛兵が広大に襲いかかるが、全員の両腕がはじけ飛んだ。


「光りの結界がなくなったのに、私を放置するとは愚かですね」

 レベル360のチュニクスは、いわば過去の勇者以上の強さを誇る。敵対した以上、放置していいものではない。


「ヒィィィィッ」

 情けない悲鳴をあげる第三皇子の顔面を、広大が鷲掴みにする。


「チュニクス。その奴隷の首輪をこいつに嵌めてやってくれ」

「承知しました」

「アガガァァガガガガァァァァァ」

 広大の絶妙な力加減で、第三皇子の頭がミシミシッと音を立てている。

 チュニクスが第三皇子に奴隷の首輪をつけると、広大がそれに隷属魔法の術式を施す。


「お前はもう俺の奴隷だ」

「何をふざッギャァァッァアッァァアァァァッ」

「奴隷が勝手に喋るから、そうなるんだ。これからは分を弁えてそこで大人しくしていろ」

 大人しくするもなにも、第三皇子は失神していた。

 白目を剥いている第三皇子の姿に、広大はちょっとの痛みで失神するとはと呆れたのである。


 広大は第三皇子を無視し、四段高い玉座に座って腰を抜かしている皇帝を見てニヤリと笑みを浮かべた。


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