第35話 天空城

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 035_天空城

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 直径1キロメートルほどのほぼ真円の平地と、その中心に建つ白亜の城。

 草花が咲き誇り、低木が所々に葉を茂らせている。

 見上げた空がとても近く思える。


「ここが天空城なのね」

 地上を見下ろしたコウが、ほえーっと感嘆の声を出した。

 雲しか見えんと、広大はすぐに見るのを止めた。


「あれがダイ様の居城なのですね。ダイ様にはあの城でも小さいですが、まあ外観は悪くありませんね」

 チュニクスが百面相をしながら呟いている。


「さてと、ゴーレムはどこだ?」

 天空城を守るゴーレムがいると聞いたが、どこにいるのかと周囲を見回す。


「う~ん、それらしいものはいないか。城に近づけば出てくるかな」

「楽しそうね、ダイ君」

「そりゃー、お城が俺のものになるとると思うと、少しはワクワクするよ」

 少しと言いながら、結構期待している広大だった。


 白亜の城へと向かうと、広大たちの上を影が横切った。

 何かと空を見上げると、巨大な鳥が飛んでいた。


「あれはなんだ?」

「フェニックスだと思います」

「フェニックスって不死鳥だろ? 死んでも復活する鳥」

「殺しても死なないかもしれませんが、殺したことがないので分かりません」

 滅多にお目にかからない魔物であり、カウワーヌ・ダンジョンの100層に出てくる魔物よりも強いと言われる伝説的な魔物がフェニックスだ。誰も討伐したことがないため、復活するか誰も知らないのも当然のことだった。


 フェニックスは天空城に近づくことはなく、悠然とその上空を飛んでいる。広大たちに興味はあっても、手出しする気はないようだ。


「鮮やかな赤と濃い赤のグラデーションが綺麗ね」

 コウが言うようにフェニックスはとても美しい羽を持っており、羽一枚でミスリル貨数百枚の価値があった。


 さらに城に近づくと、異様なものがあった。

「あれは……ゴーレムか?」

 100層の魔物並みかそれ以上の強さを持つと聞いていたゴーレムだが、長い間動いてないのが分かる状態だ。


「苔むしたゴーレムというのは、なかなか趣があるな」

 ゴーレムは城壁に背を預けるように座り込んだ形で、苔に覆われた状態だった。

 日当たり最高の場所にこれだけの苔が生えることが不思議だったが、そこは異世界ということで考えないことにした広大であった。


「これを趣というの?」

「俺は好きだな、こういうの」

「オブジェにしては、ちょっと不穏な感じだけど……」

 コウはゴーレムが今にも動くのではないかと、恐々としていた。

 しかし、ゴーレムにどれだけ近づいても動かない。

 触ろうとすると、コウが止めた。

「触ったら動くかも」

「それを確かめるんだよ。あれだったら後ろに下がっていて」

 コウは下がらなかかった。広大のそばが一番安全だと考えたからだ。


「まったく動かないね」

 手で触れ、足で蹴ってもゴーレムは動かない。

 試しにちょっと強めにゲシゲシッ蹴ったが、ゴーレムを形成している岩がボロボロと崩れ落ちるだけだったのだ。

「これは完全に機能を停止しているようだな。起動させるための何かがあるかもしれないけど、どちらかというと長い間使われなかったから稼働しないといった感じか」


 三人は白亜の城に入っていく。

 城門前にあったゴーレムは苔むしていたが、城はそういうことはなかった。

 しっかりと手入れが行き届いており、誰かがいることを示唆していた。

 しかし、どれだけ探しても誰も見つからない。城がしっかり手入れされている以外に、人の気配を感じるものはないのだ。

 広大たちが持っているスキルで人の気配を探しても、何も反応はなかった。


 城の中に入って長い廊下を歩くが、綺麗なものだ。埃一つ落ちていない。

 大広間や食堂その他多くの部屋を見て回ったが、やはり誰もいない。


「結論。ここには誰もいない。でいいかな」

「いいと思うけど、この綺麗さはおかしいわ」

「私もコウと同じ意見です」

 皆、放棄されてかなりの月日が過ぎているはずの城が、建てたばかりと思える綺麗さがあることに違和感がぬぐえない。


「その理由はここがダンジョンだからということなんだと思うけど、それにしても何もないんだよな」

「ダンジョンなら隠し通路みたいなのがあるんじゃないかな」

「それもそうか。よし、隠し通路を探してみよう!」

「うん」

「はい」

 それから三時間ほど探し回ったが、隠し通路や怪しいものは発見できず地球に帰ることになった。

 後日『カウワーヌ・ダンジョン』の元ダンジョンマスターに確認することにした。





 さて、シュリーデン帝国で皇帝と面会する日になった。

 コウは大学で講義があるため地球にいるが、広大とチュニクスは朝早くに帝都の冒険者ギルドに入った。


 冒険者ギルドの応接室に通され、お茶を飲んでいるとロイニエンが現れた。

「紹介します。こちらは帝都のギルドマスターであるアリッサ殿です」

「アリッサです。今回はわざわざ帝都までお越しくださり、感謝いたします」

 アリッサはエルフで銀髪碧眼の美女だった。

 容姿は20歳くらいだが、エルフという種族を考えれば、実は1000歳ということもあり得る。


「俺はダイ。鉄級冒険者だ」

「チュニクスです。同じく鉄級です」

 首から下げている冒険者の身分証は、間違いなく鉄級のものだ。


「お2人は昇級を望んでいないと聞きました」

「指名依頼が面倒だから、鬱陶しい奴を物理的に黙らしていいなら、昇級しても構わない」

「指名依頼は断ることもできますよ」

「断ってもしつこい奴はいると思うよ」

「それはそうですね。まあ、無理に昇級させることはしません。ですが、もし気が変わったら仰ってくださいね」

「了解」


 帝城には2人のギルマス―――ロイニエンとアリッサと共に向かう。

 冒険者ギルドが用意した馬車に4人が乗り、帝城へと入った。


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