第34話 ダンジョンマスター
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034_ダンジョンマスター
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カウワーヌ・ダンジョンの100層。出てくる魔物は、コウではとても倒せるものではない。もちろんチュニクスもだ。
だが、広大ならどうか? 瞬殺であった。
広大、チュニクス、コウの三人は、その100層のボス部屋に入った。
「あー、こういうボスなのか」
ゴーストのような実態がない魔物が、100層のボスだった。
「あれ、穴で倒せるの?」
「ダイ様なら問題ありません!」
コウは心配になるが、チュニクスは広大の勝利を1ミリも疑っていなかった。
「俺の後ろに下がっていてくれ」
「「はい」」
広大たちはボス部屋に入ったところにいる。その後ろにはボス部屋の扉しかない。
「様子見とかしない主義なんだ。すまないな、時間は有限だからさ。虚空の彼方へ飛んでいけ」
ボス部屋全体―――広大たち三人がいるほんのわずかな場所以外の全てに穴を開けた。
ホールがボス部屋を蹂躙し、広大たち以外を飲み込んだ。
これでダメなら速攻で撤退するつもりだったが、どうやら100層のボスを倒したようだ。
ボス部屋の中心に山のようなお金といくつかのブロックが出現した。
「えーっと……もう終わり?」
「ダイ様ですから、当然です!」
コウは呆気にとられ、チュニクスはさも当然と胸を張った。
「ふむ。今回も歯ごたえがなかったが、このダンジョンはどこまで続くのやら?」
その疑問は一秒後に融解することになる。
『ちょっとあんた! ふざけんじゃないわよ! 私のダンジョンをなんだと思っているよ、このバカ野郎が!』
広大の目の前に現れ、ブンブンと羽音をさせる妖精っぽい何かが顔を真っ赤にして怒っている。
広大はその羽をひょいっと摘まんだ。
「これ、なんだろうか?」
「「???」」
広大のその質問に、コウもチュニクスも答えることはできない。
なぜなら二人には妖精っぽいそれが見えてないからだ。
『こらー! 私を虫のように扱うんじゃないわよ! 離せ、こんにゃろーめ!』
パンチやキックをするが、それが広大に届くことはない。
「なんのこと?」
「これとはなんのことでしょうか?」
「ん? もしかして、二人はこれが見えないの?」
「まったく見えないわね」
「申しわけありません。コウ同様にございます」
「ふむ。俺だけに見える何かか……。殺すか」
『うぎゃー! 殺すんじゃないわよ! 私はいいダンジョンマスターなんだからね! だから殺したらダメなんだから!』
「ダンジョンマスター?」
「「ダンジョンマスターッ!?」」
妖精のようなものはダンジョンマスターと名乗り、この100層がカウワーヌ・ダンジョンの最深部だと語った。
しかも100層のボスは倒せない仕様にしていたらしい。倒せないから、全てをかけていた。もし誰かが100層のボスを倒したら、そこでダンジョンマスターの権限はその誰かに移譲される。そういう強力な縛りがあるからこそ、誰も倒せないものだったのだ。
なのに、それを広大が倒してしまった。おかげでこのダンジョンのマスター権限が広大に移譲されてしまったのだ。
「つまり俺がこのダンジョンのマスターってことか?」
『そうなのよ。ねぇ、お願いだから、マスター権限を私に返して。この通りなの!』
元ダンジョンマスターは現ダンジョンマスターである広大に土下座をしてみせた。
「空中で土下座とか、器用だな」
『そんなことはどうでもいいのよ! お願いしますなの! 私を再びダンジョンマスターにしてください!』
広大は顎に指を当てて3秒考えた。
「返すのは構わないけど、俺のメリットは?」
『え?』
「ダンジョンマンスターの権限を返して、俺にどんなメリットがあるのかと聞いているんだ」
『……そこは無条件で返すところじゃないのですか!?』
「お前の全てをかけたボスを俺は倒したんだ。それに見合う報酬があってもいいだろ?」
『うぅぅぅ……はっ、そうだわ!?』
元ダンジョンマスターは大げさに手を打った。
『天空城をあげるわ! それで勘弁して!』
「天空城? なんだかワクワクするフレーズだな。面白いものなら、権限の返却は約束するぞ」
『フフフ。天空城はね、空に浮かぶ島とその上に建つお城なの! どこへでも自由にいけて、あんた次第でこのダンジョンの100層の魔物と同じくらいの強さのゴーレムを生産できるわ!』
「俺の自由になるんだろうな?」
『え?』
元ダンジョンマスターをデコピンする。
『キャッ。何するのよ!』
「お前、俺の自由にならないものを俺に押しつけてダンジョンマスターの権限を取り戻そうとしたのかよ……。なかなかの厚顔だな」
『そんなもの、あんたの強さがあればなんとでもなるわよ!』
「……その天空城というのもダンジョンなのか?」
『そうよ』
「お前のものなのか?」
『違うわ!』
バチコーンッ。またデコピンされて吹き飛ぶ元ダンジョンマスター。
『痛いわよ! さっきから私の扱いが雑よ、あんた!』
「大事に扱ってほしかったら、真面目に交渉しろよな。お前のものでないものを俺に押しつけて、どうして権限を返してもらえると思うんだ?」
『だから、あんたなら簡単に天空城を支配下に置けるわよ。あそこはダンジョンマスターがいないから、ちょちょいのちょいよ』
「ダンジョンマスターがいない? 天空城はダンジョンなんだろ?」
『ダンジョンとして作ったけど、放棄されたのよ』
「なんで?」
『コストがかかり過ぎたのね』
「そのコストってなんだ?」
『龍脈の力ね。人間は魔力とか言っているわ。あんたの魔力があれば、天空城を維持どころか、発展させるくらいちょちょいのちょいよ』
「とりあえず、その天空城というのにいってみてから考える。どうやっていけばいいんだ?」
『私にマスター権限を返してくれたら、すぐに転移で送ってあげるわ』
「……それなら、俺の配下として一部のマスター権限の使用を認める」
『なんであんたの配下なのよ!』
「俺たちを追い出したら、あとは知らんぷり。そう考えているんだろ?」
『そそそそそそんなことない!』
「お前、分かりやすいよな」
広大は元ダンジョンマスターを配下にし、一部の権限を使えるようにした。もちろん、いつでも権限は取り上げられる。
『ちっ』
元ダンジョンマスターの大きな舌打ちが聞こえてくるが、無視した。
「それじゃあ、転移を頼む。言っておくが、適当な場所に放り出したらお前を消滅させに戻ってくるからな」
『そそそそそそんなことしないわよ!』
「お前、本当に分かりやすいな。俺が死んだら、お前も死ね。それが俺の命令だ」
『そんな~』
広大たちは天空城に転移するのだった。
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