第33話 拡散

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 033_拡散

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 朝からショッピングをし、昼は有名ハンバーグ店で食事を摂る。

 昼からはゲーセンで遊ぼうと、話しているとスマホが鳴った。コウからの電話だ。


『えー、なんで私を誘ってくれなかったのよ!?』

 今何しているのと聞かれ、広大とチュニクスの2人で遊んでいると言うと、コウが怒り出した。


 コウの気が済むまで広大はスマホからの声を聴いていた。

 おかげでハンバーグが冷めてしまった。

 広大を待っていたチュニクスも冷めてしまい、2人で冷めたハンバーグを食べる羽目になった。


「冷めちゃったな」

「はい。冷めましたね」

「先に食べて良かったのに」

「いえ。ダイ様と一緒に食べたかったので」

「そうか。悪かったね」

 ハンバーグは冷たいが、心は温かかった。


 ゲーセンに場所を移し、2人でクレーンゲームのぬいぐるみを取りまくった。

 最後には定員が涙目になっていたので、勘弁してあげた。




 翌日はコウの大学を見学することにした。

 本来は関係者以外立ち入り禁止だが、広大とチュニクスは気づかれずに侵入できる。不法侵入だが誰かに迷惑をかけていないからOKと判断。そもそも基地に勝手に入ったり、警察の情報を色々手に入れてお仕置きをした後だから、特に気にすることはない。

 国立大の敷地は広いが、コウの気配は他の生徒や教師たちに比べて大きく、彼女の居場所はすぐに分かった。


 2人でコウの後ろの席に座り、講義を聞く。

 コウはまだ気づいていない。


 眠たい講義が終わると、立ち上がったコウに数人の男子生徒が群がる。

「この後も講義があるの。それじゃあ」

 随分と人気があるようだが、コウはそっけない対応だ。

 それでも男子生徒たちはコウにつきまとう。どうやら、こういったことが日常茶飯事のようだ。


 コウはなかなか1人にならず、広大たちは声がかけられない。

 そこでチュニクスにコウの幻影を出してもらい、男子生徒たちをそちらに誘導した。


「……?」

 コウが何かを感じたのか、周囲をキョロキョロ窺う。


「やあ、コウ。随分と人気だね」

「やっぱり2人だったのね」

「あいつらがいると、なかなか声をかけられなかったからさ。ダメだったかな?」

「ダメなわけないじゃない。むしろ毎日そうやってほしいくらいよ。本当にしつこいのよ、あの子たち」

 コウは心底から嫌がっていた。入学してすぐに声をかけられ、それ以来ずっとつきまとわれているらしい。

 大学に迷惑だと苦情を言っても、まったく対応してくれないらしい。


「なんで対応しないんだ?」

「1人が国会議員の息子なのよ。本当に嫌になるわ」

 国会議員の息子だから、大学側も忖度をしているらしい。困ったものだと、コウは首を振る。


「あまり酷いなら、物理的に排除するけど?」

「その時は頼むわ」

 なにせ国さえも滅ぼせる広大の物理的な排除は半端ない。そのことを知っているコウは、最後の手段と苦笑する。




 コウの大学見学を終えた翌日から、広大とチュニクスは96層の攻略を開始した。

 ダンジョンから帰ると、最新のゲームソフトをプレイしたり、値上がりする銘柄の株を購入。

 チュニクスはガーデニングにハマっていて、庭で色々な草花を育てていた。その中にアマスの薬草が混ざっているのは愛嬌だと思いたい。


 そして皇帝と面談についてギルマスのロイニエンから回答を聞く日を迎えた。

 皇帝は広大の条件を飲むと回答があった。


「それじゃあ、10日後に帝都の冒険者ギルドに集合でいいか?」

「はい。それで構いません。日の出直後にお越しください」

 朝一番で冒険者ギルドで集合し、そこから馬車で城に向かうことになる。


「了解だ」

 帝都には以前行ったことがあるため、特に今からどうこうする必要はない。

 この10日間でダンジョンをどこまで攻略できるのか。試してみたくなった。


「フフフ。目指せ100層! クソゲーでも最後までやるのが俺のモットーだが、最後が見えないクソゲーは切りのいいところで切り捨てる!」

 さすがに1000層はないだろうが、それでも200層あるかもしれない。広大がいると戦闘らしい戦闘にならないため、さすがに200層もあるとヘタってしまう。

 100層なら切りがいいから、それ以上は気分でどうするか考えよう。暇つぶしなら、進んでもいいだろう。






 スマホの着信音がし、メールを開く。

 コウからのもので、『いいの?』と短くあった。

 広大とチュニクスがダンジョンの100層を探索し、ボス部屋を発見した。記念すべき100層のボスだから、コウに一緒にいかないかと誘ったのだ。


 コウはしばらくダンジョンに入っていない。学業を優先させていたためだ。それでも100層と聞いて、心がざわついた。

 自分では足手まといになるのは間違いない。でも100層のボスを間近で見てみたい。その葛藤の末の返信だった。


 広大は『コウは俺が守る。おいで』と返信した。

 コウは嬉しくて涙が出そうだった。


「コウちゃん。1人? 一緒にお茶しようよ」

 その感動に浸っていると、また国会議員の息子が声をかけてきた。

 コウはあからさまに表情を硬くした。感動で高ぶった感情が、一気に冷却されていくのを感じる。なんと不愉快なのか。


「私につきまとわないでと何度も言っていますよね。しつこいですよ」

「嫌よ嫌よも好きのうちって言うじゃん」

 そんなことは絶対にないと思い、コウはその場を立ち去ろうとする。もちろんコウの前に彼は立ち塞がる。


「ねえ、僕と付き合おうよ。楽しい想いがいっぱいできるよ」

 彼には人の言葉が通じないのか。あまりにも腹立たしい。

 そんなコウは不快な心情を発散するように、無意識に魔力を放出していた。


 すると国会議員の息子はがたがたと震え、その場にへたりこんで失禁してしまった。

 レベル300超えのコウの魔力放出は、ただの一般人である国会議員の息子に耐えきれるものではなかったのだ。


 国会議員の息子がお漏らしした光景は、周囲にいた学生たちによって拡散されてしまう。

 その日から、国会議員の息子は恥ずかしくて大学に顔を出すことができなくなったとさ、めでたしめでたし?


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