第32話 呼び出し

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 032_呼び出し

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 広大とチュニクスが95層を踏破した時だった。

 冒険者ギルドに入ると、騒然としていた。いつもの喧騒とは何かが違うと、広大とチュニクスは感じた。


「嫌な予感がする。今日は換金せずに帰ろう」

「はい」

 踵を返した広大とチュニクスの前に、職員が立ちはだかった。

 遅かったかと、広大は舌打ちした。


「ダイ様、チュニクス様。少しだけお時間をいただきたく」

 これからは未来視で見てから冒険者ギルドに入ろうと思った広大は、「何か?」と短く聞いた。


「まずは奥へ」

 職員に促されるままに、奥の部屋に入った。

 すぐに他の職員もやってきて、広大たちは3人の職員と向かい合って座った。

 その1人は耳が長いことから、エルフだと分かった。

(やっぱエルフは美形だな。これで女性だったら、言うことなしなんだがなー)


「私はこの冒険者ギルドを預かる、ロイニエンと申します」

 エルフは所謂ギルドマスター(ギルマス)であった。

 他の2人のうちの1人は、よく見る顔で換金所の責任者、もう1人はサブギルドマスター(サブマス)だと自己紹介した。


「俺はダイ。鉄級冒険者だ」

「私はチュニクス。同じく鉄級です」

 鉄級なのに随分と偉そうに自己紹介をする広大に、ロイニエンは表情一つ変えない。


「で、話とは?」

 広大が要件をと催促する。

 こうやって尊大な態度をとれば、怒りだすのではないと単純な考えでやっている。

 すでに『カウワーヌ・ダンジョン』に入ったし、ここまでに大量のお金を得た。今さらダンジョンに立ち入り禁止と言われても構わないし、冒険者の身分を取り上げられても問題ない。

 だから、広大が冒険者ギルドに忖度する必要はないのだ。


「ダルガード王国がアルガ王国に侵攻したことは知っていますか?」

「いや、まったく」

 ダルガード王国とは広大やコウたちを召喚した国であり、アルガ王国はその北側の隣国になる。


「ダルガード王国軍はアルガ王国の3分の2を占拠し、アルガ王国は今や風前の灯火だと言われております」

 アルガ王国はこの国―――シュリーデン帝国と国境を接している。

 ダルガード王国がアルガ王国を併呑したら、その次はシュリーデン帝国が狙われる可能性がある。

 だから、シュリーデン帝国の皇帝は、戦力を集めているとロイニエンは言う。


「それが俺たちとどういった関係があるのか?」

 広大自身とぼけている自覚はあるが、さすがにロイニエンたちも苦笑してしまう。


「ダイ殿とチュニクス殿は、この国最大の戦力。それは誰もが認めることです」

「だから?」

 最大戦力だろうと、広大は戦争に参加するつもりはない。戦争がしたいなら、勝手にやっていればいい。

 広大自身に火の子がかからない限り、戦争に関心はない。


「皇帝陛下がダイ殿とチュニクス殿にお会いしたいと仰っております」

「戦争には出ない。断っておいてくれ」

「簡単には断れないと思っていただきたいのです」

 冒険者ギルドは国に属さない組織で、国が冒険者を徴兵するというのであれば拒否する。

 だが、皇帝が会いたいというのを無下に断ることはなかなかできない。そこのところを分かってほしいと、ロイニエンは広大を説得した。


「ギルマスの難しい立場は分かった。面会するだけならしてもいいぞ」

 必死に頼み込みロイニエンが気の毒になった広大は、甘ちゃんなのだろう。自分自身でそう思っているのだから、ロイニエンなどもそう感じていることだろう。


「本当ですか!?」

「ただし条件がある」

「……その条件とは?」

 条件と聞いてロイニエンの表情が曇る。


「あんたがその場に立ち会ってくれ。あと、俺は相手が国王だろうと皇帝だろうと頭を下げるつもりはない。それを強要するなら、皇帝でも容赦はしない。そのことを伝えてくれ」

「……分かりました。そのことはしっかり伝えます」

 相手が皇帝でも頭を下げない。その条件を飲まなければ、この話はなし。広大はそう考えていた。


 5日後に、条件を飲めるか飲めないかの回答をもらうことになり、広大たちは換金をして帰った。





 広大は地球の自宅に帰ると、ソファーにどかっと座って天井を見上げる。

「なんか面倒なことになってしまったな」

「ダイ様は世界最高の戦力ですから、皇帝が取り込みたいと思うのも仕方がないことなのでしょう」

「あのダンジョンは完全踏破するつもりだけど、冒険者ギルドへの立ち入りは今後控えるかもしれない」

 広大の穴があれば、ダンジョン内に直接移動できる。冒険者ギルドに入る必要はないが、状況次第でダンジョン探索を止める可能性もあるというだけだ。


 今の広大は、本当に強い。レベルも上がったが、多くのスキルもある。

 それに穴が反則的に使えるスキルだ。95層のエリアボスでさえ瞬殺できる。だから戦闘というよりは作業になっており、やり甲斐を感じなくなっていたところだ。

 ただ、やりかけで放置するのは広大の主義に反するものだから、流動的なところだ。


「とりあえず、皇帝に会ってムカついたらぶん殴る。そうじゃなかったら、少しは暇つぶしにつき合ってみてもいいか」

 そう決めたところに、チュニクスが風呂の用意をしてくれた。

 広大は風呂に入り、ゆっくり湯舟に浸かった。


「思い通りに生きられないものだな」

 異世界アマスに召喚されたと思ったら殺されかけた。

 アマスと地球を簡単に往来でき、1人だけ召喚されなかったことにしたらマスコミに騒がれた。

 しかも、クラスメイトを地球に戻したら、拉致されモルモットのように切り刻まれていた。

 そして両親の突然の死。

 こうやって振り返ると、碌なことはなかった。


「でも、チュニクスと会えたのは、アマスに召喚されたからだ」

 チュニクスなしではもう生きていけない。そんなことを考えながら湯に浸かった。


「そうだ、明日は気分転換に出かけよう!」

 ショッピングをしてゲーセンで遊び、美味しいものを食べよう。

 広大は風呂から上がると、チュニクスに出かけないかと誘う。


「はい。喜んで!」

 チュニクスは満面の笑みで答えた。


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