第27話 怒り

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 027_怒り

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 駅前は血が飛び散った跡があり、騒然としていた。

 広大とチュニクスから血の気が引いていく。


「コウはどこだ!?」

 両親の死がフラッシュバックする。

 息遣いと心拍数が速くなり、焦りからか大粒の汗が滝のように流れ落ちる。

 広大は激しく動揺していた。


「ダイ様。落ちついてください」

 チュニクスが広大を抱きしめる。温かくとても柔らかい。

 広大の焦りがその包容力に融け込んでいくように引いていった。


「う……そうだな。俺が焦っても結果は変わらないな」

 大きく息を吸った広大は、冷静さを取り戻した。


「ダイ君!」

「コウ!」

 振り返った広大は血の気が引いた。

 コウは血の海から出てきたように、赤く染まっていたのだ。


「大丈夫か!?」

 駆け寄りコウの無事を確かめる。


「私は大丈夫よ。この血は私のじゃないから」

 コウに怪我がなくホッとするが、それでもこの状況は異常だ。広大は何があったか聞いた。


「狙撃されたの。無差別のように見せかけているけど、あれは私を狙っていたと思うわ」

「狙撃だって!?」

「ええ、私は守りの盾があるから、あの程度の攻撃じゃ傷の1つもつかないけど、周囲にいた人は巻き添えになってしまったの……」

 守りの盾は攻撃に対して、自動(所有者は無意識)で発動するものだ。今のコウのレベルを考えれば、ロケットランチャーで攻撃されても傷1つつかないだろう。


「……C国か?」

「確証はないけど、可能性は高いと思うわ。でもC国をハメるために他の国がしたという可能性もないとはいえないのよね」

 コウは意外と冷静にこの状況を分析していた。


「私はこれから警察で事情聴取なの。せっかくお祝いしてくれるはずだったのに、ごめんね」

「コウが悪いわけじゃない。俺も調べておくよ」

「うん。お願い」

 広大はC国でもここまでするのかと、疑問に思わないではない。さすがにやりすぎだ。


「コウが無事で、本当に良かったです」

「ありがとう、チュニクス」

「被害状況を教えてもらえますか」

「私の周囲にいた3人が撃たれて大怪我したわ。すぐに手当をしたから命はとりとめたけど、大量に血を流しているからしばらく安静が必要ね」

 聖女であるコウの治療を受けた3人の怪我人は、全員回復している。死んでなければなんとでもなるのが、今のコウの力だ。





 広大は狙撃現場の過去を見る。時魔法でもできるが、使い勝手は時空支配のほうがいい。

 コウが最初に銃撃された。その後周囲の人が撃たれ、血が飛び散る。さらにコウだけ数発着弾する軌道だったが、全てスキル・守りの盾に防がれている。


 狙撃の間隔から、狙撃手は複数と思われた。

 軌道を辿っていくと、50メートルほど離れたビルの屋上に3人の姿が確認できた。


 コウを狙撃するにしても、予め狙撃ポイントを定めていなければ、簡単にできることではない。

 狙撃手たちはどうやってあの屋上を知った? 盗聴という言葉が脳裏をよぎる。


「チュニクス。あのビルだ。犯人は3人」

「承知しました」

 まだ警察はビルが狙撃ポイントだと割り出してないようだ。

 広大たちは姿を消してビルへ向かい、3人の追跡を始めた。

 狙撃手たちはバラバラになって逃走していた。そのうちの1人を追跡することにした。人が多く混雑しているが、チュニクスは的確に狙撃手の後を追った。


「地下鉄に乗って移動したか」

「申しわけありません。さすがにどこで降りたかは……」

「いやいい。ここからは俺に任せてもらおう」

 時空支配を発動させ、過去を見ながら狙撃手を追う。


 広大とチュニクスの共同作業により、その狙撃手がR国の大使館に入ったのを確認した。


 広大たちは大使館に入り、狙撃手を探した。そこには他の2人の姿もあった。まちがいなくR国が狙撃を指示したのだ。

 R国はこの国に帰還者が多くいることに懸念を持っているらしい。彼らにはレベルがあって、それが上れば人外の強さを得る可能性があると考えたのだ。それは間違った考えではない。だから邪魔な帰還者の一人であるコウを狙ったらしい。


「拉致じゃなくて暗殺かよ……」

 広大は呆れ果てて大きく首を振った。


 R国がコウを拉致しなかったのは、すでにC国の蛮行が明らかになっていて取り締まりが厳しいからだ。

 手に入らなければ、殺してしまえという考えで暗殺が決まったのだ。


「C国だけじゃなく、R国もか。まったく……」

 C国とR国は共に独裁国である。そして共に核を保有する国だから、好き勝手やっている。この国もよく領空侵犯や領海侵犯されていると報道で見たことがある。広大からしたらR国やC国は、無法国家という認識だ。


 いくら核を保有しているとはいえ、やっていいことと悪いことがある。広大は怒りに震え、R国への報復を考えた。




 ある日、R国とC国の核関連施設が、忽然と消滅した。

 それだけではなく軍事基地の多くが壊滅し、海上戦力も多くが海の藻屑になった。

 空軍基地も壊滅的な状態で、航空戦力もほとんど残っていない。


 この情報は仮想敵国であるA国やJ国、そして西欧諸国に瞬く間に知れ渡った。軍事衛星からの情報でも、明らかに軍事基地が壊滅しているのが分かるものだったのだ。


 R国とC国は混乱の極地に陥っていくことになる。

 共に軍事力のほとんどを失った。基地だけでなく、数十万の兵力も消失したのだ。


 1カ月も経過しないうちに、これまで虐げてきた地域の人たちが蜂起することになった。


 R国は複数の地域を戦争で奪い取った。その地域の人たちが、武装蜂起して独立を宣言することになる。

 さらにR国の首都や主要都市では多くの戦闘が起こっている。これまで抑圧されていた民衆が立ち上がり、独裁者を倒そうと反抗を始めたのだ。


 C国はR国よりも酷かった。

 弾圧されていた各自治区や非主流民族が武装蜂起し、C国は内部分裂したのだ。

 数十年に渡って弾圧された人々の怒りはすさまじく、広大なC国の国土は血に染まることになった。


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