第26話 ブランドバッグ

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 026_ブランドバッグ

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『カウワーヌ・ダンジョン』を探索しだして1週間。広大とチュニクスは15層を探索しているところだ。

 層を重ねるごとに広くなっていくため、15層ともなると踏破に時間がかかる。


「ダイ様。あれがボス部屋ではないでしょうか」

「うん。あれだね」

 巨大ダンジョンのためか、5層ごとにエリアボスが配置されている。ボス部屋にはパーティーを組んでいるメンバーしか入れず、エリアボスを倒さないと次の層へはいけないようになっている。


「2組が順番待ちをしているようですね」

「待つのも面倒だから、今日はここで帰ろうか」

「承知しました」

 2人はオフロード車から降りて、ボス部屋で順番待ちしている冒険者たちから見えない場所へ移動し、そこでホールを1層に繋げて移動した。


 ダンジョンを出ると、すぐに冒険者ギルドへ入る。ほとんどドア・トゥ・ドアの距離に、冒険者ギルドは建っている。

 冒険者ギルドでは、多くの冒険者がたむろしている。酒場も併設されており、酔っ払いも多い。


 ここで冒険者の階級と『カウワーヌ・ダンジョン』の関係性について説明する。

 知っての通り、冒険者は鉄級、黄銅級、青銅級、銀級、金級、ミスリル級がある。

 この『カウワーヌ・ダンジョン』では、鉄級冒険者は5層くらいまでのエリアで活動している。5層のエリアボスを倒したら黄銅級に昇級できるくらいの実力になっているだろう。

 その黄銅級冒険者が10層のエリアボスを倒すと、青銅級に昇級する。青銅級は20層のエリアボスを倒して銀級に、銀級は30層のエリアボスを倒し金級に、金級は40層のエリアボスを倒してミスリル級に昇級できる。ミスリル級は41層以上を探索できる実力があるということだ。

 あくまでも目安だが、こんな感じで階級によって活動のエリアが違うのだ。


「お疲れ様です。今日も多くのアイテムブロックを持ち帰ってくださり、ありがとうございます」

 換金所の職員は丁寧に広大たちを迎え入れた。


「本日はありがとうご座いました。えー、ダイ様とチュニクス様は黄銅級に昇級できるだけの実績を残しております。昇級手続きしてよろしいでしょうか」

 換金が終わると、いつもこう聞かれる。


「いえ、昇級はしなくていいです」

 冒険者は見栄を張る職業でもある。だからより高い階級になりたいと足掻くものだが、広大は鉄級から昇級するつもりはない。


 広大たちが換金所を出ると、順番待ちしていた冒険者が入っていく。

 換金所はかなり多くの個室があるが、今日は全部埋まっていた。この1週間で初めて埋まったのを見た。


「満員御礼で結構なことだ」

 開店休業よりはよほどいい。


「今日は時間が早いから、町を少し見て地球に帰ろうか」

「はい。お供します」

 チュニクスは絶対に欲張らない。常に広大の一歩後ろを歩く感じで、昔いたと聞く大和撫子のような女性だ。


「『カウワーヌ・ダンジョン』をある程度探索したら、『アルガナス森林のダンジョン』でインナーの素材のアイスシルクを集めないといけないね」

「この温度調整のインナーは本当にいいものですから、定期的に素材集めをしないといけませんね」

 2人はウィンドウショッピングし、喉が渇いたらカフェに入って喉を潤した。

 ダンジョン探索は殺伐としたものだが、たまにこういった時間があると肩の力がいい具合に抜ける。




 1週間働いた(戦った)から3日間を休暇に充てる。

 デイトレードをしていると、良い銘柄を発見した。この数年低調な株価だったが、3日後には画期的な新製品の発売を発表する企業だ。


「こっちも買っておくか」

 別の銘柄も購入するが、こっちはそこまで大きく伸びることはない。それでもマイナスにはならないから、買っておく。

 いくつか買った銘柄の1つが急成長したという事実を残すためだ。


「ダイ様。テレビを」

 チュニクスが広大を呼び、テレビを見ろと言う。

 テレビはC国の指導者が演説している映像を流していた。翻訳された内容を聞く限り、C国は帰還者の拉致は行っていない。これはA国とJ国(この国)の陰謀だというものだった。


「まあ、認めるわけはないよな」

 それが仮にこの国でも、他国の国民を拉致して連れ去ったなどと認めるわけがない。認めたら最後、返還だの補償だのと言われるのが目に見えるのだ。

 しかもC国が拉致した2人は、すでに解剖されている可能性が高い。人体実験しましたなどと、口が裂けても言えないのだ。


「そういえば、コウの試験はどうだったのかな?」

 そろそろ結果が出るはずだ。

 その時、コウから着信があった。タイミングが良すぎるなと、苦笑しながら出る。


「もしもし。……そう、おめでとう。コウも大学生か。がんばってね」

 コウは無事に志望校に合格した。声が弾んでいたから、かなり嬉しかったようだ。


「お祝いしないといけないね。そっちにいくよ。何が食べたい? ……了解。チュニクスと一緒に向かうよ。それじゃあ」

 コウの合格祝いをすることになり、広大とチュニクスは東京に向かった。


 東京の家から出て、まずはお祝いを買いに向かう。

 チュニクスは幻影魔法で耳と尻尾を隠した。外人には見えるが、獣人には見えない。今どき外人は珍しくもない。

 ただ、チュニクスはとても美しいため、人目を惹いた。


「何を買えばいいか分からないけど、こういう時は腕時計か万年筆か?」

「コウは以前カバンが欲しいと言っていました」

「そうか、カバンか。どんなのがいいと言っていての?」

「たしかヘルメーンのバッキンとか?」

「俺でも知っている有名なブランドだね。あればいいけど……」

 2人はお祝いを買いに、ヘルメーンの店に向かったのだった。


「は? 600万?」

 それは目が点になるほどの高額だった。


「これください。現金で支払います」

 店員は広大のような子供が買えるようなものではないと思いつつ、出された札束を見てそそくさとラッピングした。


「毎度ありがとうございました」

 店員は丁寧に礼を言い、店のドアを開けて送り出してくれた。


「まさか自動車並みの出費になるとは思っていなかったよ」

 デイトレードで稼いでなかったら、裸足で逃げ出していただろう。


 その後、コウと待ち合わせの場所に向かったのだが、そこは緊急車両が複数やってきており、警察官が規制線を張っていた。

 嫌な考えがよぎるのだった。


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