第25話 時空支配
■■■■■■■■■■
025_時空支配
■■■■■■■■■■
新年早々、世界中が騒然となった。
それはC国の特殊部隊12人による、異世界からの帰還者拉致事件の暴露によってもたらされた騒動である。
特殊部隊の12人は主要国の衛星テレビをジャックし、帰還者の拉致をしたと暴露したのだ。それがC国の党執行部の指示だったと。
彼らが知っていることは、現在行方不明になっている3人の帰還者のうち、2人が自分たちの手によって拉致されたというものだ。
2人はすでにC国へ連れ去られ、おそらく生きていないと話している。
12人はこの後、A国大使館とE国大使館、そしてF国大使館に4人ずつに分かれて保護を求めた。
このことは瞬く間に世界中を駆け巡り、C国の非人道的な行為が白日の下に曝されることになったのだ。
『我が国の国民をC国が拉致したという事実は確認されておりません』
官房長官が記者会見で放ったこの言葉は、内閣の支持率を著しく低下させた。
内閣支持率が2パーセントまで落ちた結果、総理大臣が記者会見してA国、E国、F国から情報を得た結果、C国が帰還者を拉致したと認定したが、そんなことは誰もが知っていることだった。
総理大臣は2月になる前に、内閣を解散させた。
自国民を守る気のない政府など不要だと、国民は激怒していた。政府も総理も国民を甘く見ていたのだ。
国民は政府の弱腰を激しく非難し、連日デモが起こる始末。これによって内閣は解散せざるを得ない状況に追い込まれてしまったのだ。
「滑り止めの私大は合格したわ」
「おめでとう、コウ」
「世間では拉致被害者とその家族を支援する動きがすごいみたいね」
「仕組んだ身としては、そうなってくれて嬉しいわ」
「とはいえ、相手はC国だから、一筋縄ではいかないわね」
「一応、警告はした。あとはC国次第かな」
「本当にやるの?」
「C国が俺を満足させられなかったらね」
「そう……」
「もうすぐ国立の入試だから、コウはそっちに集中しな。その結果が出るまでは、俺も動かないからさ」
「うん……」
憂いのある表情のコウだが、あえて止めることはしない。広大が何をするにしても、コウもそれは止むを得ないことだと納得しているのだ。
コウが国立大の受験を控えているため、広大とチュニクスだけでアマスにいく。
世界最大と言われている巨大なダンジョンに挑戦しようと思っているのだ。
「これが『カウワーヌ・ダンジョン』か。本当に雲がかかっていて、塔の先端が見えないや」
雲に隠れて見えない塔の先端に、今だ誰も踏破してないダンジョンなのだと思い知らされる気分だ。
この時の広大は、C国のことなどまったく考えていない。ただ、目の前にある未知の世界に思いを馳せている少年だった。
「ダイ様。手続きが終了しました」
「ありがとう、チュニクス」
世界最大と言われるだけあって、多くの冒険者が『カウワーヌ・ダンジョン』に入っていく。
だが、軽い気持ちで入った者は、『カウワーヌ・ダンジョン』の肥やしになって帰ってくることはない。
そういった冒険者を把握するために、『カウワーヌ・ダンジョン』の前では冒険者の名前を記録に残す手続きが必要になるのだ。また、帰還時も名簿に照らさなければいけないルールになっている。
2人はゆっくりと巨大な入り口へ入っていく。一瞬真っ暗になったかと思うと、見慣れない景色に変わる。
「いきなり砂漠か。過酷な環境を乗り越えていけということか」
「温度調整のインナーを着ておいて良かったです」
「ああ。インナーのおかげで、砂漠でも温度は快適だ」
砂漠だというのは聞いていたから、温度調整のインナーを着ている。また、砂漠でも使えるピックアップタイプのオフロード車を持ち込んだ。
時空支配の異空間からオフロード車を出し、エンジンをかける。
お金をかけて改造し、車高を高くしているオフロード車からは軽快なエンジン音が聞こえてくる。
「発車します」
「うん。よろしく」
運転はチュニクスで、広大は助手席に乗る。魔物が現れた際、広大がフリーのほうがいいという判断だ。
「ひゃっほー! いっけー!」
「はい。飛ばします!」
走り出してすぐに、他の冒険者たちを追い越した。冒険者たちは初めて見るオフロード車を警戒していたが、高速で走り去ったことで攻撃はされなかった。
魔物が砂の中から飛び出してくる。
「ホール」
時空支配を得たことで、索敵能力が一気に上昇した広大に死角はない。
「これ、車から降りないといけないのが面倒だな……そうだ!」
砂の上にあったお金と赤色アイテムブロックが消え、広大の手の上に落ちて来る。
ホールで時空を繋いだだけだが、便利だと満面の笑みを浮かべる。
「ホールはなんでもありですね」
「なんでもというわけじゃないけど、便利なスキルだよ」
この方法のおかげで、時短になった。おかげで1層をあっと言う間に駆け抜けた。
2層も砂漠だが、こちらのほうが気温が高い。だが、温度調整のインナーを着て、さらにエアコンのあるオフロード車の中にいる2人は快適だった。
まるでラリーのように砂漠を駆け抜ける。幸いなことにオフロード車は頑丈で故障しにくい。
しかも時空支配を使うと、購入した時点の状態に戻すことができる。
広大もここまでできるとは思っていなかった。時空支配は思ったよりも便利なスキルだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます