第24話 侵入者
■■■■■■■■■■
024_侵入者
■■■■■■■■■■
広大とコウは自動車の免許証を取得した。広大はさらに単車の免許も取った。単車のほうは400ccが乗れるものだ。
「おめでとうございます。ダイ様。コウ」
「「ありがとう、チュニクス」」
広大はさっそくオフロードタイプの単車を購入した。アマスの舗装されてない道でも走れるものだ。
広大が本気を出したら単車より早く走れるが、そこは気持ちの問題である。
「真冬のツーリングはさすがに堪えるな……」
家の周辺を簡単に回ったが、雪の日の単車はキツい。温度調整つきのインナーを着込んでくればよかったと後悔する。
「インナーは2枚しかないから、ずっと着ているとヘタるんだよな。またアイスシルクを取りにいかないといけないか」
そういえば、コウのインナーを作ってなかったと思いいたる。いいものだから、毎年3枚くらいは作ってもいいだろう。
「3人分だと、年に9枚も要るのか。ドロップ率低いんだよな、あれ」
でもいいものだからほしい。
単車に乗ったまま門を入って庭で停車させる。
チュニクスが縁側から顔を出して「お帰りなさいませ」と迎えてくれた。
コウは来年早々にある大学の入試のために東京に戻っている。しばらくは2人きりだ。
いつまでも騒いでいるマスコミのせいで、広大たちは卒業式にも出席できない。
だから卒業式の後に、卒業証書が送られてくることになっているのだ。
「コウが大学に入ったら、お婆ちゃんが帰ってくる。東京の家は両親が建てた思い入れのあるものだけど、マスコミのせいで住むには不便だし、新しい住処を探さないとな」
地球とアマスにそれぞれ拠点がほしい。
「よし、家を探そう!」
「家を探すのですか?」
「うん。俺とチュニクが住む家だ」
「この家ではいけないのですか?」
「ここはお婆ちゃんがもうすぐ帰ってくるからね」
「あの都会の家は?」
「あそこは騒々しいから嫌なんだ」
デイトレードをしている広大は、資産を増やしている。
損をしていないと、不審がられると思ってわざと損失も出している。当然ながら収支はプラスである。
やろうと思えば、国家予算くらいの金額を儲けることもできるが、今はそこまでは必要としていない。
デイトレードには、スキルの先読みが有効だ。どんな銘柄を買うと値上がりするかが分かるのである。
たとえば、何か不祥事を起こして株価が暴落した企業の株が底値になった際に買っておけば、あとは値上がりを待つだけだ。
もちろんそのまま倒産するような企業は買わない。ちゃんと値上がりする銘柄を選んでいる。
画期的な新製品を発売するような企業の株も値上がりが期待できる。
そういったことを先読みは見せてくれる。
チュニクスと広大は、まるで新婚夫婦のように仲睦まじく家を探した。デイトレードで儲けたお金があるから、現金一括払いで家を購入したのである。
駅から車で30分ほどのところ、そこそこ田舎の家だ。
山を1つ丸ごと購入し、そこにあった小さな家も手に入れた。
坪単価が安くて大した金額にはならなかったが、県道から家まで続く私道も広大の所有である。ただし私道の補修は全て広大がしなければいけない。
だが、土魔法を持つ広大には、私道の補修など朝飯前であった。
車が1台やっと通れるかどうかの私道が、次の日には2台の大型車が並んで通れる道になっていた。
広大は家を中心に300坪ほどを囲むように、土魔法で高い石壁を築いた。防犯設備も惜しげもなく設置した。
これなら間違って入ってくる人はいないだろう。それでも入ってくる人は、目的があってということになる。
「クリスマスに間に合ったか。コウも呼んで派手にパーティーしようか」
喪中だが、クリスマスはイベント枠である。そもそも広大は仏教徒なのだろうかという疑問を自分自身持っている。
祖父母がお葬式を手配してお経をあげてもらったが、広大は仏教徒でもキリスト教徒でもない。
そんなことを考えたのだが、宗教と亡くなった親への想いは別物だと気づいた。亡き親を偲ぶのは心であり、そこに宗教は関係ないのだと。
「いいですね。腕に縒りをかけて料理を作ります!」
「飾りつけもしよう!」
派手に飾りつけて広大が幸せに暮らしていると、亡くなった両親に知らせてやればいい。もし天国という場所があるなら、そこから両親が見ていることだろう。
広大とチュニクスはクリスマスのパーティーを開くために飾り付けをし、料理の用意をした。
そしてクリスマスにコウを新しい家に招待した。
「うわー、これ全部2人で飾り付けたの? 大変だったんじゃない?」
「受験勉強しているコウのほうが大変だろ。俺たちは楽しかったからいいんだよ」
広大はノンアルコールのシャンパンを配った。3人でシャンパングラスを掲げ、『イベントバンザイ』と合唱した。
飲んで、食べて、歌って、踊る。
楽しい夜だった。
両親が死んだ寂しさを2人の女性が優しく包み込んで、ぽっかり空いた穴を埋めてくれる。温かい心の光が見えたような気がした。
「2人がいてくれてよかった。俺は幸せだよ」
どんなに強大な力を持っていても、1人では生きていけない。寂しくて人恋しくなる。
だから誰かと一緒に生きたいのだ。
冬の寂しい風景を見ると、そういう思いが強くなる。
「ダイ様……」
その時だった、チュニクスが何かの気配を感じた。獣ではない。明らかに訓練された人間の気配だ。
「侵入者です」
「そのようだね」
広大も時空支配を得て、一定範囲の空間の変化を敏感に感じるようになった。
「人数は8。石壁を越えて敷地内に入った以上、遠慮する必要はないが、殺さないようにね」
石壁の高さは最低でも5メートルある。意識的に越えない限り敷地に入ってこれない。
門にはインターホンがある。ちゃんとした客なら、鳴らしているだろう。
「「了解」」
3人はせっかくのクリスマスの夜に不躾な人たちだと、不快感を隠すことはない。それが捕縛時にやりすぎになってしまったのは、仕方がないだろう。
暗闇の中、侵入者は1人また1人と倒されていく。
スキル・斥候術を持つチュニクスには、この世界の訓練された兵士の隠密行動でさえ赤子のハイハイ程度に感じる。
広大たちに比べたらあまり戦闘力は高くないチュニクスでも、侵入者を簡単に無力化していった。
広大は認識阻害の指輪を使い、侵入者に近づいて意識を刈り取る。
「一度やってみたかったんだよ、クビトン」
手刀で首を叩き、侵入者の意識を刈り取る。映画や漫画で見る光景だが、実際にやったのは初めてだ。
侵入者は迷彩服を着て、顔にペイントまで施していた。
敷地の外には、バンタイプの自動車が2台停車していて、指揮官はそこで指揮を執っていた。
広大はもちろんその指揮官も捕縛した。指揮官が指揮所としていた自動車は異空間に収納。GPSもそこでは感知されない。
合計12人を捕縛した広大たちは、捕虜への尋問を行う。
チュニクスの幻影魔法により、広大は彼らの上司の姿に映っている。そこに広大が改変を使って、誘導尋問をする。
捕虜たちは簡単に所属や目的は吐いてくれた。
「C国の特殊部隊か。コウを拉致するのが目的だったのは、想定内の答えだったよ」
「そんな想定が当たってほしくなかったわ。まったく……」
「しかし帰還した生徒の2人をすでに拉致してC国に連れ去っているのか。手際がいいね」
「もう生きてないかもと言っていたけど……」
コウの表情が冴えない。クラスメイトが拉致され、色々な検査を受け、さらには解剖されていると聞いては、平静ではいられないのが当然だ。
「C国にはお仕置きが必要だね」
「できれば拉致された2人を取り戻したいけど」
「取り戻したとしても、切り刻まれた後だからね」
コウと広大の大きなため息が被った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます