第20話 3人

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 コウと友達になった広大だったが……。


「コウダイは手が早いのね」

「コウダイ様は全てを統べるお方です。妻が10人や100人いても不思議ではありません」

 コウとチュニクスが睨み合う。その間に挟まれ、広大は肩身が狭い。

 龍と虎の睨み合い。そんな一触即発な場面を思い起こさせる2人のせめぎ合いだ。


 チュニクスが広大の腕に豊満な胸を押しつけると、コウは自分とチュニクスの胸を見比べて歯ぎしりをする。

 フフフと勝ち誇った顔のチュニクスに向けて、コウの一言が浴びせかけられる。


「そんな贅肉の塊に、なんの価値もないわ!」

「ぜ、贅肉っ!?」

「無駄に重く柔らかいだけの駄胸だむねよ、駄胸!」

「コウダイ様はこういう無駄に重い胸が好きなのです。貧乳は黙ってください」

「誰が貧乳よ! 私だって脱げば凄いんだから!」

「あら、私は脱がなくても凄いけど、脱いだらもーーーっと凄いのよ!」

 歯を剥き出して鼻と鼻をくっつけ、額で押し合う。それを広大を挟んでしているから、どうやって止めたらいいかあたふたしてしまう。


「あ、あの……そんなにいがみ合わなくても……」

 恐る恐るの言葉が、2人の心にさらに火を点けた。


「コウダイ君はどっちの胸がいいの? ベストマッチの私か、駄胸のこの人か!?」

「コウダイ様は貧乳よりも巨乳ですよね。ウフフフ」

 2人は胸を持ち上げて広大に見せつける。コウは小さいと言っても、チュニクスに比べればという条件がつく。普通に目に毒な光景が広大の前で繰り広げられている。


 どっちと断言したら血の雨が降りそうだし、それ以前に怖くてどっちと言えない。

 そもそも広大は胸の大きさに優劣はないと思っているのだ。男の子だから女性の胸には目がいくが、まな板のような美乳でもメロンのような巨乳でも広大は好きなのである。


「コウダイ君はどっちなの!?」

「コウダイ様はどっちですか!?」

「俺は……俺はおっぱいなら大きさは関係なく好きだ!」

 そんなことを言いながら逃げ出した。




 遺産整理や公的な手続きなどが終わった広大は、北海道に戻ることにした。

 祖母からはメールがきており、両親のことは残念だったと広大をいたわる内容だ。同時に来年の春までは旅行を続けるから、遠い異国の空の下で2人の冥福を祈ると、戻ってくる気がないことも伝えてきた。


 この間、広大とコウはチュニクスから異世界アマスの言語を習い、チュニクスはこの国の言葉を2人から習った。

 ただ、チュニクスはすでにひらがなとカタカナ、簡単な漢字なら読み書きできるのだ。

 また、広大はアマスの言語を喋れるため、そこまで文字を書くことに執着していないのである。

 それでもコウが学んでいるため、広大もつき合っているのだった。


 そして、おっぱい戦争は休戦状態で、3人でアマスに出かけてレベル上げもしている。




 政府は異世界からの帰還者11人の存在を正式に認めた。

 おかげでコウたちも学校どころの話ではなくなり、広大を含めて登校はしてない。


 政府がコウたちの存在を認めたのは外圧があったのと、行方不明になった3人が外国に連れ出された可能性が高かったからだ。

 その国とは水面下で交渉しているらしいが、それを公表するつもりはないようだ。


 拉致された3人の親は政府を動かすために、街頭でビラ配りなどを行っている。それを支援する人も少しずつ増えている。

 連日そういった報道がテレビから流れてくる。


「スマホの電源は切った?」

「ええ、切ってあるわ」

「それじゃあ、移動するね」

 今日から北海道に移動する。こんな状況だからスマホで位置が特定されるのを防ぐために、1日はスマホの電源を切っておいたほうがいいとコウが提案したのだ。


「それじゃあ、行こうか」

「「はい」」

 ホールで一瞬の移動だ。


 しばらく留守にしていたから、先ずは掃除だ。窓を開け放って2台の掃除機で、チュニクスは2階、コウは1階を掃除する。

 開け放たれた窓から、冷気を伴った風が入ってくる。北海道の冬は早い。


「うー、寒いな」

 これからもっと寒くなるのに、広大はブルリと震えた。

 温度調整つきのインナーを着ておけば良かった。明日は着ようと思うのだった。


「コウダイ君。そこどいて」

「ほーい」

 掃除機をかけるコウに邪魔にされ、広大は庭の枯草を掃除することにした。倉庫から竹箒を出してきて、ザッ、ザッと掃いていく。


 田舎の家の庭は広い。苦労して落ち葉を集めると、あることが思い浮かんで手を打った。

 山のように積んだ落ち葉に、マッチで火を点ける。そこにアルミホイルで包んだサツマイモを入れた。


「何しているの?」

 窓からコウが見ていた。セミショートの髪が風に吹かれて揺れる。


「焼き芋だよ。食べるだろ?」

「女の子が皆焼き芋好きだと思わないでほしいわ」

「食べないのか?」

「食べます」

「どっちやねん」

 2人がプッと拭き出して笑い合う。長閑なひと時だ。


 掃除が終わり、焼き芋が焼けた。

 3人は寒い風が吹き抜ける庭でホフホフと焼き芋を頬張る。

 まだ肌を刺すような寒さはないが、焼き芋の温かさが心地よい。何よりも落ち葉で焼いた焼き芋の甘さが、体中に力を与えてくれるような美味しさだった。


「しかしコウは本当にいいのか?」

「何が?」

「長期で家を留守にすることだよ。親が心配するんじゃないか?」

「私がいると、マスコミがうるさいのよ。妹もいるし、本当にいい加減にしてほしいわ、あの人たち。人に迷惑かけても報道の自由とか言って、人の家を平気で覗くのよ。覗き魔よ、犯罪者よ」

 コウは本当にうんざりしており、心から嫌がっていた。

 広大もその経験はある。だから北海道に避難したのだ。おかげで好きなように時間が使えるようになったのだが。


「人の家の前で固まって通行の邪魔しても、あの人たちは許されると思っているから最低だよな」

「そんなクズたちは排除すればいいのではないのですか?」

 チュニクスには、マスコミはゴミクズの集団に聞こえたようだ。過激なことを言い出したが、広大とコウもやり過ぎるマスコミにいい感情はない。


「アマスではそれが許されるかもしれないけど、この国では許されないんだ。でも、どうしても許せなくなったら、二度と太陽が拝めないようにするけどね」

 あるラインを越えたマスコミは、どうなるのだろうか。聞くのが怖いコウであった。


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