第17話 切望する者

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 017_切望する者

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 ヒトミたちは地球に帰還できたらいいなー。という体で、召喚者全員の意志を確認していった。


「まさかここまで少ないだなんて……」

 ヒトミたち6人は、元の世界に戻りたい思っている生徒は多いだろうと考えていた。しかし結果はその逆で帰還したいと考える数のほうが少なかったのだ。


「私たちを含めて12人。穴山君がいないから40人だけど、12人しか元の世界に帰還したいと思っていないなんて……」

 12人中9人が女子で、3人が男子だった。男子のほうが戦闘に馴染んでいるように思っていたから、比率が少ないのはいい。でも、全体で30人くらいは帰還を望んでいると思っていただけに、ショックだった。


「私たち以外の6人に、帰還できることを教えます。できるだけ直前がいいと思うけど、タイミングはそれでいいかしら?」

「あまり早く話しても、情報が洩れる恐れがありますから、できるだけ直前のほうが私もいいと思います」

 ヒトミの判断にコウが追随する。この6人を引っ張っている2人の意見が合えば、他の4人が拒絶することはない。




 今日は帰還が叶う日。

 広大のメモが悪戯でなければだが、ヒトミは信じていた。信じ込みたかったのかもしれない。


 ヒトミたちは普段と変わらない日々を送るように心がけていた。

 国王たちに情報が漏洩しないように、細心の注意を払っている。

 今のところ、順調にいっている。国王たちに動きがあるようには見えない。


 夜になり、そわそわと態度に出る生徒に注意を促しつつ、ヒトミとコウが主導して2つの部屋に分かれて12人が集まった。


「先生、本当に元の世界に帰ることができるのですか……?」

 女子の1人が不安そうにヒトミを見つめる。もし悪戯だったら、泣き崩れてしまいそうな表情だ。


「そう信じましょう。それしか私たちにはできないのですから」

「……はい」

 その時だった、廊下から物音が聞こえた。


「何? どうしたの?」

 生徒たちが不安な表情でドアを見つめる。


「ちょっと待って。見てみるわ」

 ヒトミがベッドから腰を浮かしたところで、ドアが乱暴にノックされた。


「ど、どちら様ですか?」

「警備の者です。ここを開けてください。

「「「っ!?」」」

「先生……」

「大丈夫です。皆は部屋から出ないようにね」

 ヒトミはドアを開け、1人で廊下に出た。その行動は素早く、警備兵を部屋の中へ入れないという意思表示でもあった。


「何かご用でしょうか?」

「貴方を始めとした数人が、謀反を企んでいるという情報がありました。大人しくご同行願いたい」

「謀反? 私が誰に謀反をするというのですか?」

「陛下を害そうとされている。そういう情報です」

「誰がそんな嘘を流しているか知りませんが、そのような事実はありません」

「取り調べを行います。ですから同道ください」

 警備兵は務めて丁寧な口調でヒトミに同道するように言うが、有無を言わせない迫力があった。


 誰かから情報が洩れたのだ。自分は地球に帰還できそうにないと、ため息が出る。

 ここで騒動になったら、広大は姿を現さないだろう。今なら自分だけが帰還できないだけで済む。子供たちだけでも帰してあげなければと、大人しく警備兵についていくことにした。


 本当はこんな家族も友達もいない世界で生きていくなんて嫌だ。泣き喚きたいのを我慢し、4人の警備兵に囲まれてうす暗い廊下を重い足取りで進む。


「止まって」

 そんな声が聞こえ、ヒトミは足を止めた。


「どうかしましたか?」

 警備兵が胡乱な目で見つめてくる。油断していない目だ。


「いえ、何か聞こえたと思ったのですが」

 小さな声だったので、警備兵には聞こえなかったようだ。

 もしくは空耳なのかと、ヒトミは周囲を窺う。


「いきますよ」

 周囲には誰もいない。寂しく寒々とした石造りの廊下が続いているだけだった。

 本当に空耳や気のせいだったようだとヒトミが足を一歩踏み出そうとした時、彼女の視界から警備兵が消えた。


「え?」

 ヒトミを囲むようにしていた4人が、一瞬でいなくなったのだ。


「どどどど、どういうこと?」

「やあ、先生」

「っ!?」

 何もないところに人の姿が浮かび上がってきたのを見たヒトミの目が見開かれ後ずさった。


「そんなお化けでも見たような顔をしないでよ。傷つくな~」

「え、あ……穴山君!?」

「はい。穴山広大です。お久しぶりですね」

「警備兵の人たちは?」

「消えてもらいました。大丈夫ですよ、殺してはいませんから」

 国王の頭の上に落ちるようにしてはいるがと、広大は「くくく」と笑いを堪えきれずにいる。


 事前に城内をくまなく探索しており、国王の部屋も調べてある。

 そして広大はここにやってくる前に、国王の部屋を覗いておいた。国王は酒を飲みベッドに横になったところだ。このタイミングなら、国王は起き出さないのを調べ上げている。


「時間がありません。帰還を願っている人のところへ」

「は、はい」

 ヒトミは取って返し、自室に入った。


「「「「「先生!」」」」」

「心配をかけました。もう大丈夫です」

 女子に囲まれたヒトミ。


「あー、悪いんだけど、すぐに行くからさ」

 広大の声に、女子たちが目を見張る。


「穴山君。生きていたんだ!」

「殺されたと皆で話していたんだよ」

「それはいいから、これを1人1個持ってくれるかな」

 広大はビー玉のような丸いものを全員に渡した。


「これは……」

「元の世界に帰還するために必要なものです。落とさないでくださいね」

 そう聞いたら落としてはいけないと、6人がギュッと握りしめた。


 実際はただのビー玉でしかないが、このアイテムのおかげで帰還できるのだと思わせる演出なのだ。


「他に6人いるのです。その子たちも連れていってください」

「それじゃあ、その6人のところに行きましょう」

 ヒトミが先導してコウの部屋に行く。

 コウの部屋はヒトミの部屋よりも広いが、13人も入ると狭く感じた。


「やっぱり生きていたのね、穴山君」

「俺の身の上話は置いておいて、今はこれを持って。1人1個ね。あと時間がないから、すぐに帰還するよ」

 窓の外に浮かぶ3つの月を、広大は見つめた。

 あの3つの月と、ビー玉が帰還するために必要な何かなのだと、12人が思い込む。そう促しているのだ。


「準備はいい?」

「ちょっと待ってくれ」

 男子の1人が手を挙げた。


「何? あと1分で帰還できなくなるから、長い話なら後にしてくれるかな?」

「「「い、1分っ!?」」」

 1分と聞いて他の生徒が騒ぐが、広大は待ったをかけた男子を見つめる。


「ちょっとフタバ、あんた何かあるなら、早く言いなさいよ!」

 帰還したい女子は必死だ。早く要件を言えと、手を挙げたフタバに迫る。


 遠山双葉とうやまふたば。彼は眼鏡をかけたそばかすの目立つ少年で、広大の記憶ではオタクのイメージが強い。

 その複数の女子に囲まれ目を泳がせるフタバは、いきなり懐から短剣を取り出して女子の1人の首に当てた。

「「「ちょ、何してんのよ!?」」」


 焦ったのは短剣を首に当てられた女子だ。急なことで抵抗もできず、さらにフタバが力加減を間違えて首筋が少し切れて血が流れている。


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