三章

第16話 アプローチ

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 016_アプローチ

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 広大は今、ダルガード王国の城に忍び込んでいる。

 認識阻害の指輪はこういう時に役に立つし、新しく得たスキルの改変は広大の存在を希薄にすることに役立つ。

 廊下を歩いている兵士は、広大が壁際でじっと身を潜めているのにまったく気づかない。


「ヒトミちゃんたちは、どこかな」

 以前の記憶を頼りに城内を歩いていると、見知った顔を発見した。クラスメイトの女子生徒だ。

 あまり話したことはないが、間違いない。アマスの服を着ているが、ダルガード王国内では東京人の顔つきは非常に目立つもので間違えようがない。


 その女子生徒についていくと、食事時だったためか食堂に多くのクラスメイトが集まっていた。

 クラスメイトたちはいくつかのグループに分かれ、今日は魔物をどれだけ倒したとか、こっちのほうが多いとか、こっちのほうが強かったと自慢話に花を咲かせている。


「あんまり地球に未練はないように見えるけど……?」

 もっと憔悴しているかと思ったが、この世界に馴染んでいるように広大には見えた。


「これ、地球に帰らなくてもいいのかな?」

 帰りたいと思っていないのに、地球に帰すのは気が引ける。それに広大も面倒だ。


 広大はクラスメイトの様子を注意深く見ていく。その中に暗い表情をしている人が固まって食事をしていた。

 ヒトミやコウを含めた6人のグループだ。6人だけは表情が暗く、会話もほとんどない。


 しばらくヒトミたちを観察して分かったが、彼女たちはダルガード王国の人たちを信用してないようだ。

 周辺に誰もいないのを確認し、やっと不満を口にした。


「城下町で情報を集めましたが、どうも魔王の話は怪しいものです。魔王と魔王軍はこの国も他の国も攻めていないらしいのです」

 コウが難しい顔で報告すると、2人は頷き、3人は苦虫を嚙み潰したような表情になった。


「やはり国王たちの話は信じられませんね」

 ヒトミの言葉に5人が頷き、大きなため息が出た。


「私たち、本当に元の世界に帰ることができるのでしょうか?」

 女子生徒のその言葉に、返事ができる者はいない。重苦しい空気が流れた。


 他のグループの話を聞くが、地球に帰りたいという言動はなかった。


 ヒトミたちが自室に戻っていくのに、広大もついていく。女性の部屋に無断で入るのは気が引けたが、入らないといけない。

 ヒトミは服を脱ぎ、布を濡らして体を拭き出した。広大は背を向けて見ないようにしたが、罪悪感が湧き上がってくる。


「どうしたら子供たちを親元に帰せるのでしょうか……」

 その呟きに、広大は頷いた。

 誰もいない場所で、クラスメイトたちを心配する彼女は信用できる。少なくとも、帰還に関して不利な行動はしないだろう。

 ヒトミが寝入ると、広大はメモを残した。


『どうも、穴山です。


 俺は国王に殺されかけましたが、なんとか逃げることができました。

 今は楽しく過ごしてます。


 さっそくですが、元の世界に帰還する方法があります。

 ただし、帰還したくないという生徒は諦めてください。そういった生徒から俺のことが漏れるのは避けたいですから。もし俺が生きていると国王に知られたら、また暗殺者を送られてくると思いますので。


 俺は危険を冒して皆を帰す手助けをします。ですから、帰りたいという生徒だけ集めてください。


 国王たちに知られると俺もそうですが、先生たちの命にかかわります。

 望まない生徒も含めた全員を帰すことは、できないと思って行動してください。

 もし危険だと判断したら、俺は二度と先生たちの前には現れません。


 3日後の夜中に迎えにきます。騒がずいつも通りに待っていてください。

 チャンスは一度だけです。それを手にするのも、逃がすのも先生と皆次第です。

 くれぐれも極秘でお願いします。


 あと、俺の名前は絶対に出さないでください。

 これを守ってくれない場合は、支援しません。


 最後に、こんな話をいきなりされても信じられないと思います。ですから信じてもらえるものを置いておきます。


 それでは、3日後に……』


 極秘といっても、情報は洩れるかもしれない。

 国王に取り入ろうとして、この話をぶち壊すクラスメイトがいないとも限らない。

 そうなったらそうなったで、仕方がない。


 広大はメモが飛んで行ったり落ちないように、地球の広いエリアで愛飲されている黒い炭酸飲料を残していく。

 入れ物はペットボトルで、赤いラベルのものが6本だ。

 これで信じなければ、それでも構わない。


 ヒトミは寝付けず、水を飲もうと起き上がった。

 そしてテーブルの上に見慣れないもの、いや見慣れているが、この世界では絶対に見ることができないと思っていた炭酸飲料が置いてあり飛び起きた。


「これはっ!?」

 広大が残したメモを読む。もちろん地球の言語で書かれたものだ。


「穴山君……よかった」

 メモを読み切ったヒトミは、困った。

 ヒトミとコウたち6人は、元の世界に帰りたい。これは今さら確認することのないもので、切望しているとことだ。


 だが、他の生徒はそうではない。この世界に順応し、魔物と戦うことに慣れてしまっている。

 中には帰りたいと思っている生徒もいると思うが、それを見極めるのは難しい。

 下手に情報を流して、そこから国王らの耳に入ってしまったら、二度と広大は現れない。

 広大は言ったことは確実に実行する。そういう性格なのは把握している。


「誰に確認するべき……いえ、全員に確認しなければ不公平だわ。でも、どうすれば国に洩れないの?」

 難しい判断だが、教師であるヒトミがするべきことだと、気合いを入れる。


 ヒトミはいつものメンバーにこのことを話した。もちろん広大の名は伝えなかった。

 約束はしてないがメモにそう書かれている以上、広大の名を出すと彼が現れないと考えてのことだ。

 最初は信じなかったメンバーだが、炭酸飲料を見ると信じることにしたようだ。


 ヒトミたちは他の生徒にどのような意志確認をするか、6人で話し合った。

「ちょっとした日常の会話の延長線上で、『元の世界に帰りたいわね』と同意を求めたらいいのではないですか?」

 コウが自然な流れで確認するしかないと提案する。


「他に案がないから、皆で手分けして確認しましょう。帰りたいという子がいても、その場では帰還できるとは言わないでね。他の子も話をして、本当に帰りたいと思っているのが分かるまでは内緒にしてね。そうじゃないと、どこから情報が洩れてしまうか分からないから」

「「「「「はい」」」」」

 ヒトミたちはすぐに行動に移した。


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