第15話 改変

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 015_改変

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「変わった造りのお宅ですね」

 ユーナにとっては不思議な光景というべき家だった。


「これでも結構古い家なんだけどね」

 今は亡き祖父が若い頃に建てた家で、築年数は40年を超える。


「この薄っぺらいものはなんでしょうか?」

 ユーナはテレビに興味を示した。

 広大がテレビの電源をオンにすると、夕方のニュース番組が映し出された。


「えっ!?」

 ユーナは驚き、飛び上がった。


「ユーナの常識では計り知れないものが、ここにはたくさんあります。私も初めて見た時は驚きのあまり、声を出せませんでした」

 チュニクスが自分の経験を語り、一緒に料理をしようと誘う。

 台所でもユーナは驚きっぱなしだった。料理どころではなかったが、チュニクスは笑顔で彼女の行動を受け入れた。


「とても美味しいです!」

 ユーナは料理をしたことがなかったようで、包丁さばきはダメダメだった。


「それはハンバーグという料理です。コウ様の大好物なんですよ」

 ユーナが風魔法を得たお祝いなのだが、広大の大好物が出てくる。しかもダメダメでもユーナは料理の手伝いをしている。それでいいのかと思いつつ、広大は美味しいハンバーグに舌鼓を打った。


「満腹だ。とっても美味しかったよ、チュニクス、ユーナ」

「私は手伝いではなく邪魔をしていたようなものです。あまり料理はしたことなくて、申しわけありません」

「そんなことないわ。お皿を用意してくれたり、洗い物をしてくれたじゃない」

 料理では貢献できなかったけど、その他で役に立ったとチュニクスは褒めているのだが、ユーナの心にダメージを与えた。


「私、料理も覚えます!」

「無理をしなくていいんじゃないかな。やれることを一生懸命やればいいと、俺は思うよ」

「そうですよ」

「いえ、料理を覚えます!」

 チュニクスのように美味しい料理を作ってみたい。特にこのハンバーグは初めて食べたが、今まで食べた料理にも負けない美味しさだ。




「よかったのですか?」

「何が?」

「ユーナの記憶を改変させたことです」

「いいよ。地球のことは知らないほうがいいからね」

 広大が覚えた改変によって、ユーナは記憶を変えられていた。

 こちらで見たことの殆どの記憶を改変し、アマスのうらぶれた家でハンバーグを食べたものにした。


「しかしなんでユーナは風魔法が欲しかったんだろうね。他のスキルだって悪くないと思うんだけど?」

「アルガナスの町を含めた一帯を、昔はウィンドスター公爵家が治めていたと聞いたことがあります」

「ウィンドスター公爵家……それがどうしたの?」

「シュライド共和国は30年前まで王侯貴族が国を治めておりましたが、今も存在します。ウィンドスター公爵家も存在しています」

「ふむ。それで?」

「ウィンドスター公爵家は代々風魔法の使い手を輩出している家柄で、現当主にはユーナリア・ウィンドスター様というお嬢様がいるとのことです」

「ユーナリア……ユーナか?」

「年齢的にも合いますし、可能性は高いかと」

 広大は顎を何度か撫でる。


「それってお家騒動とか、跡継ぎ争いってやつかな?」

「さすがにそこまでは分かりません。ですが、公爵家のお嬢様ならダンジョンでスキルブロックを手にいれなくても、売られているものを買えばいいと思うのです」

「落ちぶれてお金がないとか?」

「今は領主ではないにしても、ウィンドスター公爵家といえば名家中の名家です。領主だった時ほどの権力はないにしても、あの辺りの土地はほとんどウィンドスター公爵家のものです。お金に困っているとは思えませんが……」

 あれこれ考えても仕方がないし、ユーナが言わなかったことをあれこれほじくるのも気分が悪い。




 翌日、アルガナスの町の冒険者ギルドで溜まったアイテムブロックを換金する。

 アイススパイダーからは、3オグス級の赤色と黄色のアイテムブロックがドロップする。ポーション類は売らずに持っておくが、それ以外は基本的に売る。


 そしてダンジョンボスであるジャイアントアームからドロップした黄色のアイテムブロックを捻る。

 出てきたのはカバンだった。


「いいものが出ましたね。これは収納袋です。容量は1000サーグですね」

 ザーグというのは、アマスで使われている重さの単位になる。1ザーグが1キログラム相当だと考えればいいだろう。

 つまり、今回の収納袋は1000キログラムのものが収納でき、その重量を感じることがないというものになる。


「時間経過は1/5ですね。いいものです」

 この収納袋内では時間経過が20パーセントになる。つまり地上で10日経過しても、収納袋内では2日しか経過してないことになるのだ。


「これは自分たちで使います」

「そうですか、残念です」

 換金を終えた2人が並んで冒険者ギルドを出る。その後をこっそりつける数人の人影があった。


「コウ様。つけられています」

「え?」

 広大は思わず振り返った。

 こういう場合は振り返らないものだが、広大にそういった心構えはない。

 振り返った広大だが、行きかう人が多くて誰がつけてきた人か分からない。


「……コウ様。そういう場合は振り返らないものです」

「ごめん。つい」

「構いません。今のでこちらが警戒していると、分かったみたいですから」

 広大は「たははは」と笑って頭をかいた。



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 名 称 コーダイ・アナヤマ


 種 族 ヒューマン

 情 報 男 17歳 地球人 冒険者

 状 態 健常


 職 業 穿孔せんこうの勇者

 レベル 40 / 999


 攻撃力 410 / 9999

 防御力 420 / 9999


 スキル 穴 改変

 器 量 2 / 99


 適 性 コレクター 探究者 匠 国士無双 猪突猛進

 才 能 博学多才 現実主義 夢想家

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 名 称 チュニクス


 種 族 森狐獣人

 情 報 女 18歳 冒険者

 状 態 健常


 職 業 道先案内人

 レベル 45 / 60


 攻撃力 283 / 370

 防御力 275 / 350


 スキル 斥候術 アイテム鑑定 弓術

 器 量 3 / 5


 適 性 冒険者 探検家 狩人

 才 能 探索

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