第14話 風魔法
■■■■■■■■■■
014_風魔法
■■■■■■■■■■
アイススパイダーの赤色のアイテムブロックが溜まっていく。
銅などのスキルブロックは本当にドロップ率が低い。
あと10日で風魔法が出てくるのか、心配になるレベルだ。
期限を切ってから3日目にアシャモが作ってくれた服を手に入れて着たが、凄く着心地がいい。インナーのようなもので、服の下に着るのだが、温度を適温に調整してくれる。北海道の寒いと感じる朝でも快適だった。
9日目までにアイスシルクは3つがドロップしたが、売らずに温度調整機能つきの服を頼んだ。
アシャモは防具を買えと言うが、物作りは楽しいため口とは反対にしっかりと仕事をした。
広大曰く『ツンデレ』らしい。髭もじゃ親父だが……。
9日目が終わったが、風魔法どころか銅色のスキルブロックさえ出ない。
「最終日だ。今日1日の勝負だぞ、ユーナ」
「はい。気合を入れます!」
「今日はアイススパイダーを100体倒したら、ダンジョンボス戦をするからね」
「「はい」」
アイススパイダーの分布はすでに把握している。
効率的にアイススパイダーを狩れるルートを広大は確立していた。
3人は見敵必殺でアイススパイダーを狩った。あまりにも効率がよいため、昼過ぎには99体を倒し最後のアイススパイダーを倒すところだ。
「ホール」
アイススパイダーの頭部から胴体にかけて、直系30センチメートルの穴が開く。完全に貫いているため、向こう側が見える。
アイススパイダーはスーッと消えていき、お金とスキルブロックを残した。
「お、スキルブロックだぞ。しかも銀じゃないか!」
「最後にドロップするなんて、劇的な幕切れになりそうですね」
「これが最後の機会……」
拾い上げたユーナが銀色のスキルブロックを潤んだ瞳で見つめる。
「ユーナ。開けてみて」
「はい。開けさせていただきます」
ユーナはスキルブロックを胸に抱き、大きく息を吸い込んで吐き出した。
気合いを入れたユーナがスキルブロックを捻ると、巻き物が現れる。
「チュニクス、頼む」
「お任せを」
アイテム鑑定で巻き物がどんなスキルなのか調べるのだが、チュニクスの表情が曇った。
「どんなスキルなんだ?」
チュニクスの表情で風魔法でないと察したが、聞かないわけにはいかない。
「これは改変というスキルです」
「かいへん?……どういったスキルなのかな?」
「事実を変えるというものです」
「そんなスキルがあるの?」
「はい。たまに変なスキルが出てくるそうです」
「よく分からないものは、試してみるにかぎる。俺が使わせてもらうよ」
「承知しました」
広大が改変を使うことにし、チュニクスが頷いた。
「ユーナには悪いがこの後はダンジョンボス戦をするよ。そういう約束だからね」
「はい。私のために10日も時間をくださって、感謝しています」
ユーナは落胆した表情を隠し、気丈に振舞った。
少しだけ休憩し、ダンジョンボスに挑戦する。
ダンジョンボスは体長3メートルを超える漆黒のカブトムシである。
「あれがダンジョンボスのジャイアントアームです」
ユーナの説明では、高速で飛行して体当たりされたり、土魔法を使うらしい。しかも甲殻はかなり硬く、討伐にはかなり苦労するのだとか。
「あんなデカいカブトムシを標本にできたら、楽しいだろうな!」
黒光りするその体を見た広大のテンションが上がる。
ヤマトカブトムシと形はほぼ同じだが、大きさが3メートル超えだから標本にするには大きなスペースが要るだろう。
もっとも魔物は死亡すると姿を消してしまうので、標本にはできない。
「巨大カブトムシ。ほしーなー」
「コウ様。あまり近づきますと、ボスの攻撃を受けてしまいます。一気に倒しましょう」
「あ、うん……勿体ないけど、そうだよな」
残念ではあるが、魔物は標本にできない。気持ちを切り替えて、いつも通り安全に魔物を倒す。それがボスでも、格好いいカブトムシでもだ。
「ホール」
頭部に大きな穴が開く。
「ダンジョンボスが一瞬で……」
ジャイアントアームがスーッと消えていく光景に、広大のスキルはなんて理不尽な力なのだと、ユーナは絶句した。
「「「あっ!?」」」
ジャイアントアームが消えた場所になんとアイテムブロック(黄)とスキルブロック(銅)が現れた。
「まさかのダブルですか」
「まさかダブルを目の当たりにするなんて」
一般的に魔物1体からは1つのアイテムブロックかスキルブロックしかドロップしない。しかし極稀に2つのアイテムブロックか今回のようにアイテムブロックとスキルブロックが1つずつドロップすることがある。そういった現象は俗にダブルと言われている。
残念ながらスキルブロックが2つドロップする事例は確認されていない。
「チュニクス、俺ときたから、今度こそユーナだな」
「はい。ユーナの風魔法がきっと出るはずです」
「が、がんばります!」
ユーナはガチャカプセルのようなスキルブロックを手で包み込んで、何度も気合を入れる。
念じれば通じるというのはあくまでも迷信なのだが、神頼みでもなんでもする勢いでブツブツ呟いている。
「出るといいな」
「はい。ユーナの願いがアマス様に通じますように、私も祈ります」
気合いを入れたユーナがスキルブロックを勢いよく捻った。巻き物が現れ、それに願うようにギュッと握りしめる。
「チュニクスさん。お願いします」
「はい……」
チュニクスの鋭い視線が巻き物を射抜くように見つめる。
ユーナは泣きそうな表情でチュニクスを見つめる。
「どうだった?」
チュニクスが表情を崩し、ユーナを見た。
「おめでとう。これは風魔法です」
「っ!?」
「おお、良かったな、ユーナ」
「はい。お2人のおかげで、風魔法を覚えることができます。本当にありがとうございます!」
感極まって涙が溢れ出てくる。
「良かったですね、ユーナ」
「あじがどうごじゃいばず」
ユーナは涙が止まらない。
「よし、お祝いだ。今日はユーナを俺の家に招待するよ」
「それはいいですね。腕に縒りをかけて料理を作ります」
「あびぎゃど$”%&#%」
最早言葉にならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます