第12話 召喚者たち

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 012_召喚者たち

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 広大のクラスメイトたちは、訓練が終わってダンジョンでレベル上げを初めていた。

 40人の多くは意外と適応し、ダンジョン探索は順調にいっている。


 スキルに勇者の才があるタカシは、レベル上限が310だった。この事実に、アバロン5世やサライド老師は歓喜した。

 聖女の才を持っているコウもレベルの上限が270、剣聖の才を持っているサンノスケもレベル上限が280で、アバロン5世らは大喜びである。


 召喚した勇者のレベル上限が高いことに気をよくしたアバロン5世は、毎晩のように酒宴を開催している。


 そんな中、この国のありように疑問を持った者が、召喚された中にいた。

 担任のヒトミを含めた数人である。彼女らは魔王に侵略されて困っているというアバロン5世らの主張に疑問を持ったのだ。


「毎日パーティーを開き、貴族たちは踊って飲んでのバカ騒ぎをしています。本当に魔王はいるのでしょうか?」


「仮に魔王が存在しても、この国の人たちが言うように世界を滅ぼそうとしているのでしょうか?」


 ヒトミたちはアバロン5世たちに騙され、戦争に駆り出されるのではないかと危惧した。

 しかもそれは侵略戦争ではないのだろうか。召喚された自分たち異世界人の力によって、罪もない人が不幸に叩き落とされるのではないかと。


「情報が必要です。できる限り情報を集めましょう」


 集まった召喚者は6人。その中にはコウもいる。このコウは広大の偽名ではなく、聖女の才を持つ島咲コウである。

 召喚者の中でも特に期待されているコウに、不信を抱かれるほどダルガード王国の首脳陣の行動はおかしいのだ。


「穴山君がいきなり行方をくらましたのもおかしな話です」

「そうね。おそらく彼はもう……」

 6人は広大が殺されていると結論づけた。だからこそアバロン5世に従うことはできない。

 だが、今は力がない。反旗を翻してもすぐに殺されるだけだ。殺されるならいい(よくない)が、この世界には奴隷という制度がある。奴隷にされて人形のように命令を聞くだけの人生は絶対に回避しなければいけない。





 ヒトミやコウたちが集まっている頃、広大は地球でチュニクスと共に楽しく過ごしていた。

 自分が殺されたと思い込んでいるヒトミらが、危機感を募らせているとは思ってもいなかったのだ。


「そういえば、コウ様と共に召喚された人たちはどうされるのですか?」

「……すっかり忘れていたよ」

「もしかしたら助けを求めている方がいるかもしれませんよ」

「そうだね。アイスシルクを入手したら、一度様子を見にいってみるよ」

「それがいいと思います」

 チュニクスには広大が勇者召喚で召喚され、アバロン5世の放った暗殺者に殺されかけたことは話している。





「あら、今日は雨なんだ」

 ホールでアマスに向かったはいいが、土砂降りの雨だった。

 地球側が晴れていたから、雨具はまったく用意してなかったのだ。


「そりゃー、アマスとはまったく違う宇宙なのか次元なのかだし、北海道と同じ天気なわけないか」

 1日は同じ24時間で回っているようだが、天気まで一緒と思っていたのは無理があったと言わざるを得ないだろう。

 広大とチュニクスは地球に戻り、迷彩柄のポンチョタイプのカッパを羽織った。


「おはよう、ユーナ。早いね」

 ダンジョンの出入口の前では、すでにユーナが待っていた。


「おはようございます!」

「おはよう、ユーナ」

 その時、雨がピタリと止まった。


「ダンジョンに入るから、雨が降っていても別にいいのに……」

 晴れ間が広がっていく空から差す光が2人の美少女を照らし、広大は目を細めて笑った。


「うん。眼福だ」

 巨乳美少女のチュニクスと、合法ロリ(?)美少女のユーナ。広大は両手に花の状態に、鼻の穴を少しだけ広げて楽しげだった。


 人がいない場所で、ホールを通って3層へ入る。

「チュニクス。索敵を頼むよ」

「お任せください」


「ユーナは4層に続く階段の場所は分かるかな?」

「はい。階段までの道は覚えています。こちらです」

 ユーナは5層に続く階段までの道を覚えている。道案内は任せてほしいと薄い胸を叩いた。


 ユーナの案内、チュニクスの索敵、そして広大による魔物の瞬殺。

 4人の冒険者を瞬殺した広大の戦闘力は知っているつもりだったが、魔物も一瞬で倒してしまうことにユーナはかなり驚いていた。また、あまりの戦闘感のなさに拍子抜けしてしまう。


「なんというか、コウさんは凄いスキルをお持ちなのですね」

「俺はスキルだけはいいんだよ」

 スキルだけでなく、ステータス全体が非常識なレベルなのを知っているチュニクスはくすりと笑う。


「私、本当にいなくてもいい子なのですね……」

「何を言っているんだ。ユーナがいるから、俺たちは最短距離で4層へ向かえるんじゃないか」

 思春期の広大にとって、両手に花の状態が大事で嬉しいことなのだ。ユーナが戦える戦えないは関係ないのである。


「あれが4層への階段です」

 岩をくりぬいたように、階段があった。


「冒険者が野営してますね」

 あの4人のことを思い出し、ユーナが顔を歪める。


「階段の前は安全地帯ですから、どうしても冒険者が休むスペースになります」

 チュニクスは広大に説明をする。これが彼女の主な役目である。


「警戒しながら進もうか」

 戦闘が一瞬で終わるから、あまり疲れてない広大たちは先を急ぐことにした。


 塔は上にいくほど細くなるが、ダンジョンの中は上に上がるにつれて広くなる。

 そのため4層は3層よりさらに広くなっていることが予想される。

 早くアイススパイダーがいる5層に向かいたい広大は、先を急いだ。


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