第11話 装備購入
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011_装備購入
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翌日、広大は……元気いっぱいだった。
「今日もいい日だ!」
つい人を殺してしまったが、あの4人は盗賊と同じ扱いだ。彼らは少女を襲い、それを見た広大たちにも襲いかかってきたのだから、広大に後悔の念などはない。
広大の中では、彼らは人間ではなく害虫以下の存在なのだ。害虫は駆除するものだ。作物を食い荒らすことしかしないのである。
「ユーナがいました」
冒険者ギルドの片隅で佇んでいるユーナを、チュニクスが目ざとく発見した。さすがは才能が探索なだけはある。
ユーナは長いストレートの銀髪で、宝石のような緑色の瞳の少女だ。その彼女の耳は長く尖っている。種族がエルフだというのが分かる特徴だが、マントのフードを被っているため耳は見えない。
その容姿から広大は12歳の小学生くらいだと思っていたが、実際の年齢は28歳である。ただしエルフとしてはまだ子供なのだが、その事実を広大は知らない。
広大を召喚したダルガード王国では、エルフは見なかった。あの国は人種差別が激しいため、ヒューマン以外の種族はあまり入国しないのだ。
では、チュニクスがダルガード王国にいた理由だが、荷運びの依頼を受けて入国したのである。
だが、それは罠だったのだ。ダルガード王国では獣人に人権はない。それでもチュニクスは冒険者ギルドの庇護下にあったため、依頼を失敗させて奴隷に落とす罠が仕かけられていたのだった。
これはシュライド共和国を訪れていた貴族が、たまたまチュニクスを見てその美貌に魅入られたのが原因だった。
シュライド共和国では勝手できない貴族だが、ダルガード王国に入ればある程度の融通はきく。だから、わざわざシュライド共和国から荷物の運搬依頼を指名依頼で出したのだ。
手の込んだ罠にかかってしまったチュニクスは、奴隷に落とされてからそれを貴族から聞かされたのであった。
貴族の奴隷になった後でその話を聞かされたチュニクスは、どうすることもできずに悔しい思いをしていたのだった。
話を元に戻すが、ユーナはこのアルガナスの町のことをよく知っていた。
「こちらが武器を扱う店になります」
とても店とは思えない佇まいの店に入る。広大は『隠れ家的な!』とテンションを上げた。
「オジサン。お客さんを連れてきました」
「おう、ユーナか。久しぶりだな」
「ご無沙汰しています」
筋肉質の40代の男性が店主で、ユーナとは数年来の顔見知りであった。
「オジサンは顔は怖いですけど、とても優しい方なんです」
「顔は怖いは余計だ」
「エヘヘヘ」
たしかに髭が逆立っていて、怖い顔をしている。
「俺は扱いが簡単な武器がいいんですが、ありますか?」
「またザックリとした要望だな……一般的には短剣とか槍だな。棍棒もいいが、殺傷能力は槍のほうが上だ」
「あー、棍棒ですか。それでいいです。丈夫なものをください」
「そんなに簡単に決めていいのか?」
「どうせあれこれ見ても判断できませんので、棍棒でいいです」
広大の武器はあっさり決まった。ここまで拘らない客も珍しいと店主のボーグスは笑った。
広大の棍棒はゴーグという樹木で作ったもので、しなやかで丈夫なものをボーグスが選んだ。
「私は弓を見せてほしいです」
「おう。どんな弓がいいんだ? 強力なやつだと、強弓、大弓、複合弓だが、扱いやすいのは短弓だ」
「複合弓でお願いします」
チュニクスは複数の木材と金属の板を張り合わせた複合弓を見せてもらいい、その中から1つを手に取った。
「いい感じです。これにします」
チュニクスは弦を実際に張り、引き心地を確かめた。弦も数種類あって、その中からチュニクスに合うものを選んだ。
「矢は鏃がただの鉄か、追加効果を与えるものか、どうする?」
「ただの―――」
「追加効果のあるものでお願いします」
チュニクがただの鏃と言おうとしたが、広大が追加効果のものを頼んだ。
その分値も張るが、攻撃力もかなり上昇するものだ。
「矢は1束20本だ」
「5束お願いします」
「一度にそんなに持てないぞ」
「予備ですから、問題ありません」
矢は家に置いておいて、なくなる前に補充する。ホールがある広大がいるから、そういうことができるのである。
貫通力が高い
武器の次は防具だ。ユーナはまた知る人ぞ知る防具店に2人を連れていった。
「この革鎧に効果を付与できませんか?」
「これに付与できる追加効果は、あまり効果が高くないぞ。効果が高いものを付与しようと思うと、それなりの素材が必要だからな」
気難しそうな店主は、ドワーフだった。身長は150センチメートルもないが、筋肉質で横幅があるアシャモという名の人物だ。
広大は悩んだ末に、新しい防具を購入することにした。
「温度調節とか、常に清潔でいられるような快適効果がついているものが欲しいです」
「お前さん、防具が欲しいんじゃないのか?」
アシャモは広大の要求に呆れた。
「アハハハ。服に快適効果、防具は攻撃を防ぐ効果とかできませんかね?」
「できないことはないが、そのためには材料がいる。防具のほうは色々揃えているが、服のほうは材料を調達してきたら作ってやるぞ」
「どんな材料がいるのですか?」
「温度調整はアイススパイダーを狩って、アイスシルクを手に入れればいい。1枚で1人分だから、作る人数分集めることだな。清潔のほうは、無理だ。俺にはできん」
「温度調整だけでもいいですよ! アイススパイダーはどこにいますか?」
「森林ダンジョンの5層の奥にいるが、アイスシルクのドロップ率は低いぞ」
森林のダンジョンとは、アルガナスの町の近くにあるダンジョンのことだ。ダンジョンの中が森林になっているから、そう呼ばれるようになったが、正式名称は『アルガナス森林ダンジョン』である。
「それじゃあ、たくさん狩ってきますね」
明日からダンジョンでアイススパイダーを狩りまくるぞと、広大は拳を作って気合を入れる。
防具はチュニクスが斬撃耐性のついた革鎧を、広大は魔法耐性がある胸当を選んだ。
今回のことで持っていたお金をほとんど使い果たしてしまい、明日からアイススパイダー狩りをしながら、金策もしなければいけない。
「あの、私も連れていってもらえないでしょうか。お願いします!」
防具店を出ると、ユーナが一緒にダンジョン探索をしたいと言ってきた。
「私はお金もアイテムは要りません。ただ、スキルブロックが出て風魔法を得たら、いただけないでしょうか。虫のいい話なのは、重々承知しています。もしお金が必要であれば、時間はかかってしまいますがきっと用意します。どうかお願いします」
ユーナの必死さに、目を白黒させる2人だった。
「俺は別に構わないよ。チュニクスはどうかな?」
広大はよく分からないが、ユーナがこれほど必死なのだから、何か深いわけがあるのだろうと考えた。
「コウ様がよいと仰るのでしたら、私も問題ありません」
チュニクスは広大に命を助けられ、奴隷からも解放された。だから広大がいいということに、反論はしない。
「ありがとうございます!」
ユーナは何度もペコペコと頭を下げた。
「それでユーナは何ができるの?」
「私は魔法が使えます」
「どんな魔法なの?」
「土の魔法です。まだ威力は大したことありませんが、がんばります」
「そんなに気張らなくても、ぼちぼちでいいから」
明日の朝、ダンジョンの前で待ち合わせすることになった。
「ユーナはどの宿に泊まっているの?」
「えーっと私は……」
何か言いにくいことがあるようで、ユーナは視線を彷徨わせた。
「無理に聞く気はないから、言いたくなかったらいいよ」
「……すみません。そのうち言えるようになったら、お話します」
「おう。それじゃあ、明日の朝な」
「気をつけて帰るのですよ」
「はい。ありがとうございます!」
ユーナは何度も振り返っては手を振った。
広大とチュニクスも手を振り続けた。
「ユーナは良い家のお嬢さんなのでしょう」
「チュニクスもそう思う?」
「言葉遣いにどことなく気品がありますし、身につけているものがいいものですから。すぐに分かりました」
「俺も身につけていたものが、いいと思っていたんだ。やっぱりいいところのお嬢さんか。なんで冒険者なんて危険な仕事をしているんだろうか?」
「家の事情だとは思いますが、あまり触れてほしくはないみたいですね」
「そうだね」
広大とチュニクスはユーナのことを話しながら、ホールを通って地球へ戻っていくのだった。
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