二章
第10話 ダンジョン探索
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010_ダンジョン探索
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「森の緑が目に優しいなぁ~」
爽やかな笑みを浮辺ながら森の中を進む広大たち。
「コウ様。現実逃避しても結果は変わりませんよ」
「うっ……。それを言わないでよ」
「コウ様は現実主義なのですから、諦めてくだっさい」
「何を言っているんだい、チュニクスさんや。僕ちゃんは夢想家ですよ」
現実主義と夢想家が同居する広大は、二重人格者なのかもしれない。ということになるのだが、広大は現実もしっかり見るが、ゲームや小説なども好きな少年だ。それが才能に現れているのだろうと、広大は自己判断、自己完結した。
二重人格なんて広大は認めないが、そういうことは自分では認識できないかもしれない。しかし数日一緒に暮らしているチュニクスは広大が二重人格には見えなかった。
「そうだ、明日は武器と防具を買いにいこうか。いい武器や防具があるといいね」
「あからさまに話を変えられましたね。ですが、賛成です。コウ様に合った武器を選ぶのは大切なことです」
「それじゃあ、今日は早めに切り上げて換金して帰ろうか」
チュニクスがいい笑みで「はい」と頷いた瞬間、その表情が引き締まった。
「コウ様。楽しいお喋りはここまでです。魔物が近づいてきています」
「了解」
ビシッと背筋を伸ばし敬礼した広大も、気持ちを切り替えた。
「消え去れ、ホール!」
ストレス発散。魔物は姿が見えない場所からホールに穿たれて息絶えた。
「さすがはコウ様です。ですが、ダンジョンの中とはいえ、森林破壊は賛成できません」
「アハハハ。ごめん、ごめん」
巨大なホールを発動させたため、魔物だけではなく森林が数百メートルに渡って破壊された。その幅も数十メートルだ。
「しかしダンジョンをここまで破壊するなんて、コウ様のスキルは常識では測り切れませんね」
「もしかして、ダンジョンは非破壊オブジェなの?」
「非破壊オブジェ……ですか?」
「えーっと、絶対に破壊できない場所のことかな」
「ああ、なるほど。ダンジョンは一応破壊できますが、これだけの破壊をするには数十人もの上位階級の冒険者が必要になるでしょう」
それだけ広大の穴は常識外れの威力だということだ。
「ありました。アイテムブロックとお金です」
膨大な破壊範囲からアイテムブロックとお金を回収したが、探すのに時間がかかった。
「これからはもっと近づいてからにするよ」
「ですが敵はできるだけ遠くで倒すのが、安全です。命には代えられませんから」
「それも考えつつだね」
「ですが、コウ様のレベルが999になったら、ドラゴンの攻撃を受けてもピンピンしてそうですけどね」
「ドラゴンッ!? ドラゴンがいるの?」
広大の目がキラキラと輝いた。
「このダンジョンにいるかは分かりませんが、別のダンジョンにドラゴンはいますよ」
「よし、このダンジョンをさっさと踏破して、そのドラゴンがいるダンジョンに行こう!」
「ドラゴンスレイヤーを狙っているのですね!」
チュニクスの目がキラキラとする。
「ドラゴンスレイヤーか。いいね、それ!」
2人はドラゴンの話をしながら進むが、チュニクスは索敵の手は抜かない。
チュニクスが魔物の接近を知らせ、広大が討伐する。戦闘らしい戦闘はない。剣も振らなければ、短剣も刺さない。
「経験値は入るけど、戦闘の勘のようなものは育たない感じだね」
「穴が非常識に強いからですね」
「穴がどれだけ強力でも、敵の接近に気づけないと苦戦するはずだからチュニクスの索敵能力が高いおかげで楽ができるんだよ。ありがとうね」
「そんなことはないです」
2人は仲良くダンジョンを進んだ。
スマホを見たら16時5分だった。ダンジョン探索も3階層まで進でいる。
「今日はこの辺で帰ろうか」
「はい。今日の夕食はポークソテーにしますね」
すっかり広大の胃袋を掴んでいるチュニクスは、家事のいっさいを行っている。
広大は分業と提案したのだが、チュニクスがどうしてもといって聞かないのだ。
「それじゃあ、ギルドにつ―――」
「きゃーーーっ」
ホールをギルドに繋ごうとした時だった、女性のものと思われる悲鳴が聞こえた。
「チュニクス!」
「はい!」
2人はアイコンタクトし、走り出した。チュニクスの能力は、今の悲鳴の位置を特定できていた。
チュニクスの先導で森の木々を縫って走った先では、4人の男性冒険者が1人の女性冒険者に襲いかかっていた。
「おい、お前たち! 何をしているんだ!?」
その光景を見た広大は、無意識に怒鳴っていた。
「ちっ。おい、やれ」
「おう。ファイア」
男性の1人が火魔法を放ってきた。
広大はそれをホールで穿ち消し去ると、4人に向かってさらにホールを発動させた。
バタッバタッバタッバタッ。
4人は声さえ出すことができずに、その場に倒れた。
頭部と胴体が切断したのは、一瞬のことだった。無意識にやったことだが、広大に後悔はなかった。
広大の基準では、4人は明らかに犯罪者である。殺しても心は一切傷まない。
「大丈夫か?」
襲われていた女性冒険者は、魔法使いのようで杖とマント装備の軽装だった。それがいけなかったわけではないが、服は無残に引き裂かれており、胸が露わになっていた。
「ご、ごめん。チュニクス、彼女を」
「はい」
広大は少女のささやかな膨らみがある胸を見て、謝罪して後ろを向いた。
冒険者であれば、その程度のことで他人から目を離すのはよくない。幸いもチュニクスがいたから良かったが、この少女が善良とは限らないのだ。
「軽傷のようですね。ポーションは持っていますか?」
「あ、いえ……」
「それではこれを飲みなさい。その程度の傷なら、治るでしょう」
「ですが、私はお金を……」
「対価を持っていないのですね。……コウ様。無償で与えてもよろしいでしょうか?」
「問題ないよ」
「コウ様から許可が下りました。遠慮なく飲みなさい」
「……しかし」
「無償がいやなら、コウ様のために働いて返済しなさい」
「ちょっと、チュニクス。俺はそんなこと望んでないよ」
「コウ様。ただよりも高いものはないと言いますので、彼女も簡単には受け入れられないのでしょう」
「そういうものかな……」
「対価は労働力です。そうですね、明日1日だけ町を案内してください。コウ様、それでよろしいですか?」
「ああ、それなら構わない」
「明日の朝、冒険者ギルドで待ち合わせしましょう。はい、飲んで」
有無を言わさない迫力が、チュニクスにはあった。
「い、いただきます……」
少女がポーションを受け取って飲み干すと、傷はきれいさっぱりなくなった。
「これでよし。コウ様、もう大丈夫です」
少女の破れた服は安全ピンでとめ、無事だったマントをしっかり羽織った。これで服が破れているとは思われないだろう。
「この4人は知り合いかい?」
「いえ、いきなり襲われて、抵抗しようとしたんですが、多勢に無勢で……」
少女はその時の恐怖を思い出したのか、マントの中で両腕を掴んでブルリと震えた。
「冒険者をしていると、そういうこともあります」
「チュニクスも同じような経験があるの?」
「私も何度か襲われましたが、なんとか切り抜けました。冒険者の中には獣のような輩も多いですから」
「そっかー、皆大変なんだな」
広大は想像することしかできないため、どこか他人事だった。
「俺はコウっていうんだ。君は?」
「あ、失礼しました。私はユーナといいます。黄銅級冒険者です」
「私はチュニクスといいます」
「俺たちは鉄級だから、ユーナのほうが先輩だな」
正確にはチュニクスは元青銅級冒険者だが、それは言わなかった。
「鉄級なんですか? 一瞬で4人を倒したので、最低でも銀級かと思ってました」
「ははは。今日冒険者ギルドに登録したばかりだから、さすがに銀級は無理かな」
「今日……凄い実力なのですね」
「それより、この4人の死体はどうしようか? 持って帰るのは無理だけど、放置?」
「ダンジョンの中で冒険者が死ぬのはよくあることです。その際は身分証とちょっとした遺品を持って帰るのですが、このような輩の身分証を持って帰ったら、その仲間に目をつけられることになりかねません。ですからお金だけ回収しましょう」
「お金は回収するんだね」
「お金に罪はありませんので」
4人が持っていたお金だけ回収し、広大たちはダンジョンから出ることにした。
「面倒だから、あれを使おうと思う」
「ユーナ。これからコウ様のことで見聞きすることは誰にも言ってはいけませんよ」
「え? ……はい」
よく分からないが、命の恩人の情報を洩らすようなことはしないと、ユーナは頷いた。
仮に言いふらされて、権力者に追われるようになっても広大には逃げるだけの力がある。さすがに地の果てまでは追いかけてこないだろうから、なんとかなるだろうと楽観的だ。
広大はホールをギルド近くの裏路地に繋げて、移動した。これでユーナは無事にダンジョンから出ることができたわけである。もちろん、広大たちもさっさと換金して明日の軍資金にできる。
一瞬で移動できたことにユーナは「転移!?」と驚いていたが、チュニクスが念押したことでお口にチャックをした。
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