第9話 鑑定の神器(本物)
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009_鑑定の神器(本物)
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「それでは……始め!」
審判の合図でジャン・ナルガスが飛び出した。はずだった。
ジャン・ナルガスが浮遊感を感じ、一気に落下。
「ぎゃーーーっ」
悲鳴は続く、どこまでも。
永遠と続く穴に落ちていくジャン・ナルガスの悲鳴は徐々に小さくなっていき、聞こえなくなった。
戦うというよりは罠にハメたという感じだが、これも広大のスキルである。
「「「………」」」
訓練所から姿を消した、いや、地面の中に落ちたジャン・ナルガスを呆然と見つめ……ない。見つめられない。姿が見えないのだ。
「あの審判さん」
「え、あはい」
「戦闘できる状況じゃないですよね、あの人。それでもと言うなら、その穴を埋めて二度と出てこられないようにしますが、どうします?」
審判の職員は穴の中を覗き込んだ。
穴はとても深く、ジャン・ナルガスの姿はまったく見えなかった。声も聞こえないし、自力で上がってくるのは難しいと、審判は判断した。
「鉄級冒険者コウの勝利。よって、ジャン・ナルガスは黄銅級へと二階級降格です(出てこられたらだけど……)」
ジャン・ナルガスは見目麗しい女性を見ると、すぐに声をかける下半身バカで有名な人物だ。当然ながら審判を務めた職員もそのことは知っている。
20代前半で銀級冒険者になり上がったのは努力ではなく、多くのスキルを親から与えられたからだろう。
だからか、なんでも思い通りになると思い込み、特に女癖の悪さが際立つ人物である。
今回の敗戦で少しはその悪癖が治ればいいと思う職員であった。
冒険者が湧き上がる。殆どの冒険者は賭けで負けたことに対するジャン・ナルガスへの悪口だ。
「おいおい。鉄級に負けるとか、銀級も地に落ちたな」
「馬鹿野郎! 俺の銀貨返せよ!」
「クソ野郎め、いい気味だ!」
冒険者のほとんどが、ジャン・ナルガスへの嫌悪感を持っている。ちょっと容姿がいいからといって、女と見れば見境がないのだから当然なのかもしれない。
「チュニクス。待たせたね」
広大は何もなかったかのように、チュニクスの元に戻った。
「あの人は何をしたかったのでしょうか。まともな対戦でコウ様に勝てるわけないのに」
「どこにでもいるんだよ、ああゆう人はさ」
2人で仲良く訓練場を出ていくと、訓練場の穴は塞がり、ジャン・ナルガスは白目を剥いた状態でみっともない姿を晒していた。冒険者だけでなく、町中にこの噂が広がるのに時間はかからない。
ジャン・ナルガスは『白目のジャン』と、この日から呼ばれることになるのだった。
ダンジョンは石造りの塔になっており、何かの絵で見たバベルの塔を思い起こさせる威容だった。ただし、バベルの塔のように壊れてはいない。
塔の高さによってダンジョンの規模が表されていると言われており、他国には雲を突き抜けているものもあるそうだ。
このダンジョンの塔は5層になっており、そこまで大きくない。
その出入口はかなり広く、ダンプが3台は並んで通れるくらいある。ただし、出入口は真っ暗で中がまったく見えない。これだけ大きなスペースなのに、先がまったく見えないのだ。
冒険者たちが続々とダンジョンに入っていく。広大も入ろうとそれに続く。
冒険者の身分を示すドッグタグのような身分証を首からぶら下げていると、ノーチェックで入ることができた。
チュニクスは奴隷になった際に、その身分が剝奪されているから初期登録と同じ扱いになった。
再発行だと元のランクも引き継ぐが、公的機関が身分を剥奪したためそれはできない。つまり、初期登録扱いになり、再発行時に必要な金貨2枚は不要だった。その代わり、鉄級からのやり直しである。
ダンジョンの中は森だった。
空もあり、太陽っぽいものもある。
「ここ、塔の中だよね」
「はい。塔の中です。ダンジョンというものは、こんなものです。いきなり砂漠や極寒の氷の世界のダンジョンもあるそうです」
「わーお、ファンタジー」
「はい。ファンタジーです」
広大とチュニクスは入り口からほど近い、石壁の前に立った。
「これが鑑定の神器?」
「はい。これでステータスが見えます」
石の壁に大きなディスプレイがあり、腰高の辺りに水晶のような緑色の球が壁にはまっていた。
「この水晶に一緒に手を触れると、パーティーが組めます。パーティーを組みますと、経験値がパーティーメンバーに均等に入るようになります。解除は各個人で水晶に触れればできます」
パーティーを組むのは、全員揃って水晶に触れないといけないが、脱退は1人でもできる。
また、パーティーリーダーは必ず決めないといけない。そしてパーティーリーダーだけが、パーティーの解散をする権利を持っている。
「それでは私のステータスをお見せします」
「いいの?」
「コウ様なら構いません」
チュニクスは躊躇なく水晶に手を置いた。
一般的には、パーティーを組んでいる冒険者以外に見せないものだが、チュニクスにとって広大はパーティーメンバー以上の存在なのだ。
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名 称 チュニクス
種 族 森狐獣人
情 報 女 18歳 冒険者
状 態 健常
職 業 道先案内人
レベル 35 / 60
攻撃力 210 / 370
防御力 200 / 350
スキル 斥候術 アイテム鑑定
器 量 2 / 5
適 性 冒険者 探検家 狩人
才 能 探索
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「私の職業は道先案内人です。これは斥候職だと考えていただければいいと思います。スキルの斥候術は隠密、探索、索敵、追跡、罠の発見・解除・設置などが1つに詰まったものです」
「聞いていた通りの内容だね。レベルとか攻撃力、防御力、器量の右側の数字が上限なんだね」
「はい。私のレベルは60まで上がります。この世界の一般的なレベル上限が30くらいなので、平均よりはいいものだと思っていただいて結構です。攻撃力と防御力は150が一般的な上限値なので、その倍以上になると思ってください」
「チュニクスは上限が高いね。凄いよ」
「この世界の人に比べれば高いだけです。過去の勇者様だとレベル上限が300を超えていたと聞いています」
「へー、勇者はやっぱり上限が高いんだ。あと、この器量はスキルをどれだけ覚えられるかだよね?」
「その通りです。私はスキルを5つまで覚えることができます。器量は3以下が一般的ですから、私は少し多いと思っていいと思います。それと一般的には、生まれつきスキルは持っていません。私は生まれた時から斥候術を持っていたのですが、最初からスキルを持っていると器量の上限が多いと思われています」
「それで1つしかスキルを持っていなかった俺は、あの国王に大したことないと判断されたのか……。それで自由にこの世界を旅できているわけど、やっぱり納得はいかないかな」
「コウ様を殺そうだなんて、国王は雑魚で無能でゲスでクズなのです!」
チュニクスがぷんすか怒った。
「それでは俺も」
「私は離れています」
「いや、一緒に見ててよ」
「いいのですか?」
「いいさ。どうせ大したことないと思うけどね」
「コウ様のステータスが大したことないなんて、あり得ないです!」
「ハハハ。そうだといいね」
―――――――――
名 称 コーダイ・アナヤマ
種 族 ヒューマン
情 報 男 17歳 地球人 冒険者
状 態 健常
職 業
レベル 18 / 999
攻撃力 185 / 9999
防御力 190 / 9999
スキル 穴
器 量 1 / 99
適 性 コレクター 探究者 匠 国士無双 猪突猛進
才 能 博学多才 現実主義 夢想家
―――――――――
「「………」」
2人の目が点。
「うん。見なかったことにしよう」
広大は目を覆いたくなるような記載に、現実逃避を決め込んだ。
「少し眩暈がします……」
チュニクスは想像以上の結果に、本当に眩暈を起こしていた。
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