第8話 ジャン・ナルガス
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008_ジャン・ナルガス
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広大とチュニクスは、多くのアイテムブロックをアイテムにして換金した。
ポーションが3本と、剣と短剣が1本ずつ、革鎧が1セット出たから、それは自分たちで使うと言って換金しなかった。
それでも数十ものアイテムを交換し、それなりの金額になった。
「たくさんのお金が得られましたね、コウダイ様」
「チュニクス。今の俺はコウだよ」
「そうでした。コウ様。失礼いたしました」
さて、ダンジョンへ。
そう思った矢先に、広大たちの前に冒険者が立ちはだかった。
金髪の貴公子然としたその青年だが、舐めるようにチュニクスを見た。顔はかなりいいのだが、その視線が気持ち悪い。
「何か?」
「なんて美しいんだ! 君、僕と一緒に冒険をしよう!」
広大の声は青年の声にかき消された。
青年はチュニクスの腕を取ろうとしたが、広大がそれを止めた。
「なんだい君は? 僕に気やすく触らないでほしいんだけど」
青年はパンッと広大の腕を払った。
「人の連れに勝手に触ろうとするのはいいのか?」
「ほう、君は彼女の連れなのかい? 他の人と組みたまえ。君では彼女の美しさに相応しくない。彼女のような綺麗な女性の横に立っていいのは、僕のような貴公子だけなのだよ!」
広大の知識では、自分のことを貴公子と言う奴に碌な奴はいない。このように尊大でゲスなもの言いをするものだ。思わず、その知識に偏りがなくて、よかったと思ってしまうのだった。
「そんなことはあんたが決めることじゃない」
「フフフ。分かってないね、このジャン・ナルガスは銀級だよ。君の冒険者階級は何かな? たった一握りしか到達できない銀級だよ? 将来有望で容姿端麗。こんな僕の隣には、彼女のような美しい女性が似合うというものだよ」
自分の世界に浸るジャン・ナルガスは、広大の言葉を聞く耳はないのだろう。
「さあ、美しき人よ、僕の手を取って共に歩もうじゃないか」
ジャン・ナルガスの差し出された手は、チュニクスに届くことはなかった。
「気持ち悪いです。触らないでください」
その言葉を聞いたジャン・ナルガスの動きがピタリと止まった。
「ハハハ。僕の聞き間違いかな?」
「いえ、聞き間違いではないです。あなたのような気持ち悪い人と一緒に行動する気はありません」
「「「プププ」」」
周囲で成り行きを見守っていた冒険者たちから失笑が漏れる。
ジャン・ナルガスは顔を真っ赤にし、そして青くして体をブルブルと小刻みに震えだした。
「僕のどこが気持ち悪いというのだ! 君は僕の美しさがわからないのかね!?」
「そういうところが気持ち悪いのです。自分が美しいと思うのは構いませんが、それを人に押しつける行為には引きます。反吐が出ます」
広大は思わず拍手してしまった。それをジャン・ナルガスを睨みつける。
「反吐が出るってよ」
「鏡があったら見てみろってか」
「「「アハハハハ」」」
冒険者たちに笑われ、ジャン・ナルガスは怒り心頭だ。
「貴様、許さんぞ!!」
「え、俺?」
ジャン・ナルガスに指を差されたのは、広大だった。
「君に決闘を申し込む!」
「ん? 決闘?」
「アハハハ! 臆したか、不細工め!」
「ぶ、ぶさ……」
広大はイケメンだとは思ってないが、不細工と言われたことはない。たしかに容姿だけなら、ジャン・ナルガスのほうが上だが、人間としては負けてないと思っている。それどころか、とっても勝っている気がした。
「コウ様を不細工だなんて、なんという身の程知らず!」
「いや、容姿だけの話だし、チュニクスがそこまで怒ることではないかな」
ぷんすか怒って頭から湯気が出るほどのチュニクスを、広大が宥めすかす。
「まあまあ、こういう人も世の中にはいるからさ」
「はっ!? さすがはコウ様です。こんな無礼者でさえも許す心の大きさには感服いたします」
「そういうわけだから、こういう人は相手をしないの」
広大はチュニクスを連れて冒険者ギルドを出ようとする。
ガシッ。広大の肩を掴むジャン・ナルガスが、仁王のような恐ろしい顔をしていた。
「お前は僕と決闘するんだよ!」
「あ、忘れてなかったのね」
そのままスルーしてダンジョンに行こうと思っていたが、そうは問屋が卸さなかったようだ。
「ついでだから教えてあげるけど、容姿端麗は女性に使う誉め言葉だ。男なら眉目秀麗と言うべきじゃないかな」
アマスでは違うのかもしれないと思いつつ、間違ってないよなと広大は自分で納得したように頷くのだった。
周辺から『ギャハハハッ』と盛大な笑い声が聞こえた。
ジャン・ナルガスは赤鬼のように真っ赤になり、決闘だのブサイクなどと喚き散らした。
そんなわけで、広大は冒険者ギルドの職員が立ち合いの下、決闘をすることになったのだ。
「はぁ、なんで俺が決闘なんてしなければいけないんだ?」
「アハハハ! 貴様を倒してあの女を僕のものにしてやる!」
「そういうことは思っていても口に出さないものだよ」
ジャン・ナルガスは槍を広大に向け、殺気を放っている。もちろん、広大にその殺気は感じない。そういったものを感じる神経が図太いようだ。
2人は10メートルほど開けて対峙する。この世界の長さでは10オグスである。
この距離がジャン・ナルガスにとって悲劇の始まりだった。
もし1メートルほどしか離れてなかったら、結果は違っていたかもしれない。
「あー、これより銀級冒険者ジャン・ナルガス対鉄級冒険者コウの決闘を行います。階級差がある決闘になりますので、ジャン・ナルガスが負けた際は黄銅級に二階級降格になります。コウが負けた際のペナルティはありません」
職員は決闘について説明をしていく。
「決闘は1対1。武器やスキルはなんでも使ってよい。相手が降参するか、気絶するか、審判である私が戦闘不能だと判断したら終了します。仮に相手が死亡しても罪には問われません。もちろん、大怪我させても罪に問われません」
要はなんでもありで、相手を殺してもいいというルールだ。それが冒険者の決闘であった。
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