第2話 ホール

 ■■■■■■■■■■

 002_ホール

 ■■■■■■■■■■


 ―――――――――

 タカシ・ソリムラ

 レベル1

 ◆勇者の才

 ◆光魔法

 ◆火炎魔法

 ―――――――――

 ―――――――――

 コウ・シマザキ

 レベル1

 ◆聖女の才

 ◆神聖魔法

 ◆氷結魔法

 ―――――――――

 ―――――――――

 サンノスケ・カミキ

 レベル1

 ◆剣聖の才

 ◆無魔法

 ◆雷魔法

 ―――――――――


 よいスキルが次々と読み上げられていく。

 スキルは多い者で3つ、そうでなくても2つは持っている。

 広大たち41人を召喚した責任者である宮廷魔導士長のサライド老師、鑑定の神器をうやうやしく持ち運ぶ兵士、スキルを記録する兵士、表示されたスキルを読み上げる兵士の4人がセットで動く。


 鑑定の神器はノートパソコンのような形をしている。ノートパソコンならキーボードがある場所に、片手を置くとモニターにスキルが表記される。


「貴殿が最後ですな」

 41人めは広大である。

 兵士に促されるままに左手を置く。


 ―――――――――

 コーダイ・アナヤマ

 レベル1

 ◆穴

 ―――――――――


「「「「ん?」」」」

 サライド老師と3人の兵士たちの目が点になる。

 直後、4人の目が胡乱なものに変わった。


「コーダイ・アナヤマ殿のスキルは、穴。それ以外にスキルはありません」

 スキルを読み上げる兵士の声に侮蔑が込められる。


「どういうことだ? スキルがたった1つしかないのか?」

「はい。コーダイ・アナヤマ殿のスキルは1つしかご座いません」

「ちっ」

 アバロン5世は隠しもせずに、舌打ちした。


「で、そのたった1つのスキルというのは、なんだと言ったのだ?」

「穴にご座います」

「それはなんだ?」

「おそらく地面を掘るスキルかと」

「それで魔王軍と戦えるのか?」

「難しいかと」

 アバロン5世は目を吊り上げて広大を睨んだ。

 その視線に殺意が込められていると、感じた者は多いだろう。


「おいおい、スキル1つだってよ。しかも穴掘りってか! バッカじゃねぇか! アハハハ」

 クラスメイトの下吉弘行しもよしひろゆきが揶揄うように笑った。

 広大は『コーダイ』じゃなく『コウダイ』なんだけどなぁと、アバロン5世や下吉の言葉を気にする素振りもない。


「下吉さん。そういうことを言うのは、感心しませんよ」

「へーい」

 瞳に恋する少年ヒロユキは不満げに返事してワインを飲んだ。すでに3杯飲んでいるヒロユキは、どうやら酔っているようだ。


「皆の者、大儀であった」

 アバロン5世は席を立って部屋を出ていく。

 スキル1つのクズはいたものの、勇者の才や聖女の才を持つ者もしっかり確認できた。

 クズは処分すればいいと、満足げに足を進めていく。


「今日はお疲れでしょう。今、食事を用意させております。そのままお待ちくだされ」

 サライド老師がそう言うなり、アバロン5世の後を追って部屋を出ていった。


 その後、広大たちは昼食を摂り、3人から4人に分かれて部屋があてがわれた。


「コーダイ殿はこちらへ」

 ただし広大だけは兵士に呼ばれ、1人だけ違う部屋になった。

 広大以外は4人で使っても大きく感じる豪華な部屋だが、広大の部屋は四畳半の広さで、窓さえないものだった。


 ベッドが1つあるだけで、かなり狭く感じる。そのベッドに座ると、その硬さに驚かされた。

 ベッドは板にシーツを敷いたもので、クッションなどまったく感じさせないものだったのだ。


「どうやら俺は要らない子らしい……」

 部屋の中を見渡した広大は、苦笑しながら頬をカリカリとかいた。

 ラノベでは、こういう扱いを受けると必ずといっていいほど、あるイベントが発生する。


「追放か殺処分か。殺処分なら、今夜が危ないよね」

 広大はスキルの穴について検証することにした。

 スキル自体は、認識した時点でどういったものなのか理解できた。

 あとはそれを使う側の人間の問題だ。想像力を広げ、スキルの可能性を模索する。


「まずは地面に穴を掘るのは普通」

 普通のことをしていては、危機を乗り越えることはできない。


「穴なんだから、どこに穴を開けてもいいわけだよね」

 広大はにやりと笑い、狭い部屋の中心の空間を見つめた。


「ホール」

 広大が通れそうな穴が、何もないはずの空間に開いた。


「それじゃあ、いってみましょうか」

 広大は躊躇なく、その穴に入っていく。


 うす暗い穴を1メートルほど歩いて抜けると、そこは見慣れた場所だった。


「元の世界に通じる穴を開けてみたけど、本当に帰ってこられたようだ。フフフ」

 自宅の玄関前。召喚される前も後も何も変わらない、光景だ。


 ズボンのポケットから鍵を取り出し、玄関のロックを解除しようと挿し込む。


「あら、どなたかしら?」

 声がし、振り返ると、広大の母がそこに立っていた。


「母さん」

「あら、広大じゃない。こんな時間に何をしてるの? はっ!? あんた、まさかゲームがしたくて学校をサボったのね! このおバカ!」

「いやいや、そうじゃなくて!」

 サボったと思われたが最後、広大は母親に耳を引っ張られ家に入って、リビングでコンコンと説教されることになった。




「ひ、酷い目にあった……」

 やっと解放された広大は、自分の部屋のベッドに横になる。


「今日は外出禁止か。まあ、ゲームは宅配で届くから、外出しなくてもいいんだけどね!」

 頭の後ろで手を組んで、ベッドに横になった。さっきの硬いベッドとは雲泥の差がある寝心地のよいものだ。


「そういえば、向こうに戻っておかないといけないよな。でも、ゲームしたいな……」

 ゲームはしたいが、向こうでのイベントも貴重な経験だ。どっちをとるか考え込む広大であった。

「夜になったらまた帰ってくればいいか」

 結局、貴重なイベントを取ることにした。

 こっそり玄関にホールを繋げて靴を回収し、再び向こうの世界へホールを繋ぐ。


「襲われた時に、対処できるようにしておかないと……。地面に穴を開けて落とす、は悪くないけど確実性に欠けるか。そうすると……頭に穴を開けたり、心臓に穴を開けたほうが確実だな。死体は埋めてしまえば問題ないし」

 とても物騒だが、広大は本気で不穏なことを考えている。なにせ『ガーディアン・フロンティア VIIセブン』をプレイする前に死ぬ気はないのだ。


「空間に開けた穴は何事もないように閉じることができたけど、地面などに物理的に開けた穴は埋めるのはできるのか?」

 壁に小さな、直径5ミリメートルほどの穴を開けてみる。廊下が見えた。これを解除すると、穴はなくなった。


「これ便利だな。閉じたら穴の中にあったものを消滅させることも出すことも可能のようだ。便利過ぎて笑っちゃうよ」

 ホールで頭部を物理的に消滅させるなど、やろうと思えばかなり物騒なことができる。


「しかし……『ガーディアン・フロンティア VIIセブン』してーな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る