第16話 ドレスを選ぼう

転生し4日が経過した。


その間にこっそりうちの使用人や侍女の皆さん、お兄様と、それから怖いのでしっかり了解を得てからお母様も鑑定をしてみた。


大きな問題はなかったのだけれど、馬番の2人がミリーの影響を受けていた。

早速解呪したけどね。

はあ、強姦誘導(中)とか。

あの女は間違いなく頭がおかしい。


お兄様は純粋に女性が好きなだけだった。

うん、まあ、しょうがないかな。

お兄様かっこいいし。


間違いなく婚約者を愛していることが確認できたので良しとしよう。

経験人数とかの情報は見たくなかったけどね。


そんなこんなで私は今ルルとお母さまと一緒に衣裳部屋へと訪れている。

今日は明日の卒業パーティーの為の衣装合わせをこれから行うところだ。


流石伯爵家。

沢山のドレスが用意されている。


「本当に良いのかしら。まあ、いまさら間に合わないけれど」


どうやら夫婦間の修復はうまくいったらしい。

やたらと血色の良くなったお母様が、ドレスをチェックしながら文句を零している。


今回のドレス選び、お母様は気に入らないらしい。

先ほどからちらちらと私の顔を見てくる。


「せっかくの卒業パーティーなのにお古とか有り得ないのだけれど?そう思わないのかしらロナリアは」


そして大きくため息をついてジト目を向けてくる。

幼く見えるお母様は可愛い。


「いえいえお母様。こんなにたくさん素敵なドレスがありますのよ?問題ありませんわ」


いやー、だってさ、一回しか着ないようなメチャクチャ高そうなドレスが山ほどあるんだよ?

なのにまた買うとか?


もったいない精神の塊の私には理解ができない。


「ロナリアお姉さまはお美しいので、どれも似合うんですよね。はあーこのドレスも素敵です♡」


何故かうっとりとルルが顔を赤く染めているが。


うーん、どうしよう。

普通は相手の瞳の色とかなのよね。

でも、お兄様の色というわけにも……

そもそも来月結婚する身内の色なんて纏ったらある意味事案よね。


「お母様?選んでいただけるとありがたいのですけど……その、怪我の影響でちょっと記憶が混乱しているというか、はは、は……」


えーい、分からんものはしょうがない。

ここは素直に甘えよう。


何故かキラリとお母様の目が光る。

そして手をワキワキと動かしながら私ににじり寄ってきた。


「ロナリア」

「は、はい」


私の体を上から下まで舐めるようにじっとりと観察する。


「あら、胸が大きくなったのね。もう、わたくしより大きいなんて羨ましいわ」


そしておもむろに私の胸を揉み始めた。


「ひいっ!」

「ふふっ、可愛いわね…うーん、張りもある。若いって素敵ね。ウエストは……コルセットは普通でいいわね。まあ、可愛いお尻」


さらに体中をまさぐるお母様。

周りの使用人たちはなぜか温かいものを見るような優しい目をしている。


普通なのか?

これは必要な事なのよね?


結局私は散々着せ替え人形のようにされ、体中まさぐられ、何ならルルまで参戦し結構際どい所までいじられつくした。


恐るべし、この世界の普通。

……からかわれているわけではないと思いたい。


※※※※※


どうにかドレスの選定を済ませ解放された私は、自室でルルにお茶を入れてもらいソファーで寛いでいた。


紅茶のいい匂いが疲れ果てた私を癒してくれる。


「はあ、本当にロナリアお姉さまはお美しいです。見蕩れちゃいました」

「はは、は、ありがとうルル」


美味しい。

はあ、癒されるわー。


私は紅茶を飲んでほっと大きく息をついた。


ああ、本当に可愛いわね。

ルルは。

目をキラキラさせている可愛いルルを見て、わたしは気になっていたことを聞いてみた。


「ねえルル、あなたどうして侍女なんてやっているの?むしろ私の妹のような感じなのじゃないのかしら?」

「えっ……そうですね。確かにおじ様には『働く必要なんてないんだよ』って言われましたけど……うーん、趣味みたいな感じですかね?ここに来た11歳の時には私色々あって落ち込んでいたんです。そしたら奥様が体を動かした方が良いってアドバイスしてくださって」


遠い目をして少し切なそうな顔をするルル。

私はチクリと胸が痛んだ。


「まあ貴方がいいならわたくしは助かるのですけど」

「はい。これからのお世話させてください」


因みに父であるジェラルドとは和解済みだ。

いきなり自分を刺そうとしたあの行動にはびっくりしたけどね。


うん。

お父様泣きながら後悔していた。

今では完全に優しい叔父に戻ってくれている。


「ロナリアお姉さま、今夜はしっかり隅々まで磨き上げますので、今のうちにおやすみになられた方が良いかと思いますよ」

「え、明日じゃないの?」

「もう、先ほど奥様も仰っていたじゃないですか」

「そうだっけ」


散々いじくりまわされていて、わたし思考停止してたからなあ…


「そうね、じゃあ紅茶を飲み終わったらそうさせてもらおうかしら」


私は紅茶をしっかり楽しんでベッドへと体を投げ出した。


ルルは茶器を片付けると、可愛らしいお辞儀をし部屋から出ていった。

ひとりになった部屋は静寂に包まれる。


いよいよ明日、一部の終わりとエリス嬢の断罪が行われる。

味方に引き入れた馬番のマルッドとレネックにはすでにオーダー済みだ。


「あとはタイミングよね。憲兵への根回しはさすがに怪しまれるし……そうだわ、野盗を退治してしまえば……って……わたし知らないよ?アジトとか」


ため息をついて大きく伸びをした。

関節からぽきっと音が鳴る。


「思ってた以上に疲れてるわね。……貴族の女子は大変だ」


そんなことを零しながら私はいつの間にか意識を手放していた。

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