第6話 能力の確認と湧き出す思い出
「…ステータス」
呟くと目の前に薄い液状モニターの様なものが出現した。
実はこれ、この世界では誰もできないそうだ。
「ふむ、どれどれ……」
※※※※※
【名前】ロナリア・ウッドストック(高坂舞奈)
【種族】人間
【性別】女性
【年齢】18歳/38歳
【職業】鑑定士(10/10)
【保持スキル】
健康促進・長寿・言語理解
社畜根性・地球の知識
調理8/10・家事3/10
創造5/10・魅了3/10
隠蔽5/10・基礎魔法3/10
ストレージ3/10・念話(創造神)
【称号】
覆(くつがえ)すもの
運命を完成させるもの
【状態】
死亡・憑依・正常
※※※※※
うん。
ありがとう神様。
ああ、やっぱりロナリア、死んじゃったんだね。
私はそっと後頭部の傷をさする。
私があなたの分まで頑張って生きるからね。
記憶があてにならないのは地味に痛いけど……
まあ、社畜スキルで乗り切るしかないか。
糞みたいな社会で培った対人スキルにおののくがいいさ!!
ん?運命を完成させるもの?
なんだこれ?
まあ、そのうち分かるのかな。
流石エロゲーの世界だね。
レベルとか経験値とかないんだ。
熟練度みたいなのはあるみたいだけど。
まあ、魔物とか一応いるけど、職業で対応できるレベルだから一般人の私が心配する必要はないかな。
すでに一般人を超越している気がするけどね。
私は意識を集中して手を前にかざしてスキルを使ってみる。
「……創造…紙とペン!!」
目の前に、懐かしい大学ノートと、ボールペンが出現した。
「やばいねこれ……バレない様にしないと……創造…緑茶!」
ゴロンとペットボトルに入った500ミリリットル入りのお茶が出てくる。
私は取り敢えずお茶を飲み、大きく息をついた。
どうやら頭に浮かんだものが出せる能力らしい。
凄いチートだな。
「よし、じゃあ情報を忘れないうちに纏めちゃおう」
私は数年ぶりに机にかじりつき、一生懸命情報を書き出すのであった。
これは私の命綱だ。
そしてこのクソみたいな緩い世界で楽しく暮らしていくため、持てる力をすべて使いきってやる。
もう、あの時みたいに後悔はしない。
※※※※※
転生?憑依?何でもいいけど私は20年ほど若返った。
そのせいか舞奈だった17歳の頃の思い出がなぜか湧き出してきた。
私が人生で唯一好きになった本田君の事が……
俊則の事が、なぜか心に沸いて来た。
彼の心に踏み込んでしまった私を、優しいまなざしで見つめてくれた俊則。
彼を失ったことが、わたしの一番の後悔だったんだ。
あの日、わたしが……
浮かれすぎていなければ……
※※※※※
2年生の新学期が始まってすぐの4月の上旬、わたしは『たなや』のレジ打ちのバイトに行くため自転車で向かっていた。
家から『たなや』までは自転車で10分くらい。
歩いても行けるけど、バイトの時間が夕方5時から夜9時までなので、暗い帰り路を一人で歩くのは怖いのだ。
「おはようございます」
夕方だろうが来た人はこういう挨拶をするのだと、次長の松川さんが教えてくれていた。
「おはようございます」
……今日もいる。
私の挨拶に返事をいつもしてくれる本田君が、今日も挨拶を返してくれた。
少し太っちょで、ぼさぼさの髪、いつも同じような首のところが解れ始めているグレーのトレーナーを着て『たなや』のエプロンをして、そそくさと仕事を続ける本田君をちらりと見て、わたしは更衣室へと入っていった。
「オハヨー舞奈ちゃん。良いな―若い子はぴちぴちで」
タバコをふかしながら大学生の香さんが声をかけてきた。
化粧の濃い人だけど、凄い美人だ。
「あはは、おはようございます。香さん、上がりですか」
「うん、今からデートなんだよね。はあ、いくのやめよっかな」
大きくため息をつく香さん。
いつも元気な彼女にしては珍しい。
「どうしたんですか?いつも元気な香さんなのに、ため息なんて」
なんの気なしに問いかけ私は後悔することになる。
「私さ、いま3人と付き合ってるんだけどさ…できちゃったんだよね」
「えっ?!」
「うーん、誰の子か全く分からないんだよね。中絶もお金がかかるし」
私はなんて言えば良いか分からず固まってしまった。
「ああ、ごめんね。忘れて。ほら、バイトでしょ?頑張ってね」
「は、はい」
ドラマとか物語でそういう話はあるけど、知っている人がそういう事になっていると聞いた私はパニックになってしまい、その日のバイトは散々だった。
いつも間違えないようなミスを連発して、恐い常連さんのおじさんにすごく怒られていたんだ。
私は怖くて足が震えて、涙を流すことしかできなくて。
たまたまその日は正社員さんが一人もいなくて、バイトの子が一人急に休んでいて、レジ打ちは私一人しかいなかった。
そんな時本田君が助けてくれた。
「お客様、大変失礼いたしました。こちらで対応させていただきますね。高坂さん、8番お願いしてもいいかな」
8番は業界用語で、事務所で待機という意味だった。
「は、はい」
私は逃げるように事務所へ行った。
恐くてしばらく泣いていた。
それからしばらくして席を外していた次長の松川さんが戻ってきて、その後問題なく営業は続けられた。
「どうしたの?……今日は上がっていいよ」
目を赤くさせている私に気づいた松川さんがそういってくれたけど、私はいつも本田君がやっている裏方の仕事を引き継いだ。
だって彼は今一人でレジ打ちをしている。
吃驚するほど多い仕事に、わたしは驚いていた。
いつも裏方だった本田君は1年生の頃からほぼ毎日働いていて、レジ打ちから発注までこなせる人だった。
学校では全然目立たない。
むしろ女の子達からは嫌われていた。
暗いし、なんか汚いよねって。
でも汚いわけじゃないのを私は知っている。
たぶんだけど、新しい服を買わない人なんだと思った。
むしろチャラチャラして変な香水をつけている人の方が臭いと思っていたくらいだ。
そんなことを考えながらも私は裏方の仕事を頑張っていたんだけど、9時になっても彼の仕事が全然終わっていないのに、彼は優しく微笑んで私に声をかけてくれた。
ちゃんと聞いた彼の声は何だか暖かくて安心したことを思い出す。
「大丈夫だった?高坂さん。あのお客さん、見た感じ恐いけどすごくいい人なんだよ。今度見たらさ『この前は済みませんでした』って声かけてみたら?多分顔を赤くして喜ぶと思うよ」
「えっ、怒ってないのかな」
「うん怒ってないよ。むしろ喜ぶんじゃないかな。あの人いつも高坂さんのレジに並ぶし。高坂さん可愛いからね。……あっ、ごめん、変なこと言って…あっ、俺最後までだから仕事に戻るね。お疲れさまでした」
何故か顔を赤く染め足早に立ち去る本田君。
きっと私はその時顔が真っ赤だったと思う。
そして数日後、わたしは彼の心に触れる事になる。
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