第5話 伯爵令嬢ロナリア・ウッドストック

窓から優しい光が差し込んでくる。

どうやら朝が来たらしい。


私はまどろみながら自分の前に手を動かし、まじまじと見つめてみた。


「キレイな肌だね……爪も可愛い…それにいい匂いがする……名前……わかんないや」


高価そうな天蓋付きのベッドからごそごそと起き出し、上品な可愛らしい家具がセンス良く配置されている部屋のクローゼットの横にある姿見に足を進めた。


「可愛い……見たことない顔だね……モブかな」


そこには腰まで届きそうな軽くウエーブのかかった金髪の18歳くらいの美しい女性が映し出されていた。


同じ色の整った長い眉に、大きな目にはエメラルドグリーンの瞳がキラキラと瞬いている。

すっと通った小さめな鼻に、可愛らしい蠱惑的なぷっくりとした艶々な唇が愛らしい。


「うわー、これでモブ?……確かに美男美女ばっかりだったけど……隠しキャラとかじゃないよね?」


私は可愛らしい薄いピンクの部屋着の様なものに包まれている自分の胸を確かめるように触ってみる。


「はあ、若いっていいわね。こんなに大きいのに張りもあってすごくいい形だし……Dかな?…ん♡…感度も良いのね」


そして何となく際どい所にも手を伸ばしてみた。


「ん♡……何よこの体……敏感過ぎでしょ……んん♡……ふう、まだ未使用のようね」


顔を赤らめながら何故かにやける私。

ぶんぶんと被りを振る。


「誰かに見られたら、一発で変態認定されちゃうわね」


ガタッ!!

突然音がして、ビクッとし、顔を向けると……


見てはいけないものを見てしまったような顔をしている、茶色い髪を丁寧に結い上げた15歳くらいの、シックなメイド服を身に包んだ可愛らしい小柄な女の子が顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。


「あ、あ、申し訳ありません、ロナリアお姉様、その、わ、わたし、何も…」

「ああ、ごめんなさいね、驚かせちゃって、……えっと」


どうしよう。

この子ガン見してた。

やばい。

しかも名前も分からない。


そして女の子が突然何かに気づいたように声を上げた。


「ロナリアお嬢様、ああ、目を覚まされたのですね!良かった、もう4日もずっと眠っていらっしゃたのですよ」


どうやら私はロナリアという名前で、4日ほど寝込んでいたらしい。

チャンスだ!


朦朧としているふりをして情報を引き出さねば。

私はふらつくフリをしながらベッドへと体を投げ出した。


「あああ、ごめんなさい、まだ少し体調が悪いの……記憶もおかしいの……えっとあなた…」

「はい、ルルです。15歳です」

「そうだったわ、ルル、混乱していてよく思い出せないのよ。何があったのかしら?教えてくださる?」


「えっと、ロナリアお嬢様、旦那様のことは……」


何故か暗い顔になるルル。

ん?

もしかしてイケない話なのか?


「ごめんなさいね……ああ、何も思い出せない……ああっ」


……わざとらしすぎる。

頭の中の私が頭を抱え悶えている。


「ああ、ロナリアお嬢様、ごめんなさい、その、お医者様を呼んでまいります」


慌てて走り去ろうとするルルの腕を私はガシッとつかんだ。


「ひうっ」


うん、そりゃあ驚くよね。

でも私も後には引けないのだよ!


「私は可愛い貴方から聞きたいの。その…他の人は……怖いわ」

「っ!?」


ルルの顔がトマトみたいに真っ赤になっていく。

やばい、表情を盛り過ぎたかも!


ルルは一生懸命落ち着こうと深呼吸を繰り返している。

あら、本当に可愛いわね、この子。


「は、はい。では僭越ながら私が御説明申し上げますね。えっと、お嬢様はウッドストック伯爵家の長女であらせられます。2つ上にお兄様のレイナルド様がおります。レイナルド様は来月御結婚されます」


私は心のメモ帳にものすごい速さで記録していく。


「ふんふん、それで?」


「あっ、それでですね、旦那様はジェラルド伯爵様で、ウッドストックの領主様です。すごいイケメンです。えっと、確か今40歳くらいです」


顔を赤らめるルル。

ん?ジェラルド伯爵?……うわあ、まさかの攻略組じゃん!


ないやってんのよ父上!

うわーないわー。

ドン引きだわー。


顔を青ざめさせる私。

心配そうにルルがのぞき込んでくる。


「あの、ロナリアお嬢様?やっぱりお医者様……」

「コホン、大丈夫よ、続けてくださる?」

「はあ、……ああ、奥様、ルイラ様は、それはお美しい方でとてもお優しい方です。旦那様とは確か王立学園の同級生ですね」


私は思わずベッドへ倒れ込む。

そしてルルに問いかけた。


「私は何で4日も寝込んでいたのかしら」

「あっ、はい。えっと、ちょうど4日前に、ロナリアお嬢様は旦那様と乗馬をされていらしたのですが、突然馬が暴れだして……お嬢様が切り株に頭をぶつけられてしまい…」


私はそっと後頭部をさすってみた。

痛っ、……ああ、大きな傷がある。


「そうだったのね。有難うルル」

「いえ、すみません。私話が下手で……」


顔を赤らめモジモジするルル。

いやなにこの子?ちょー可愛いんだけど。


私にそういう趣味はないんだけど、ちょっといじめてみたいかも……

何となく手をワキワキ動かす私。


……いかんいかん、そんな場合ではない。

私は心の中で深呼吸を繰り返した。

そして落ち着き払った顔をして問いかける。


「ルル?今日って何日かしら」

「はい、土の季節の第3月の一光の日ですね。5日後にはロナリアお嬢様の王立学園の卒業パーティーが開かれます」


因みに後でこっそり調べたら、この世界は土の季節が日本の1月から3月、水の季節が4月から6月、風の季節が7月から9月、火の季節が10月から12月。

まあ同じ12か月ね。

そして光・土・水・風・火・闇・休息日という7日が一週間替わり。

今は第一週なので一光なのね。


まあ大体同じっていうわけ。

解り易いのはいいことだ。


そうか。

そうだった。


神様言っていたよね。


『第2部』って。


じゃあ今からあの胸糞悪い断罪と婚約破棄のイベントが行われるのね。


「ふう、有難うルル。少し疲れたわ……後で呼ぶまで休ませていただいてもいいかしら」

「あっ、はい。ごゆっくりお休みくださいませ。……あの、旦那様には…」

「伝えて頂戴。きっと心配されているわよね」

「ええ、それはもう。伯爵様のご家族はとても仲がよろしいので、他の貴族家の侍女に羨ましがられるのですよ。それでは失礼いたします」


ルルは可愛らしいお辞儀をし、部屋を出ていった。


私は起き上がり、机へと向かい情報の整理を始めた。

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