……………


 それから、私が帰るまで、特に大きな発見はなかった。私との会話でゆっくりではあるが彼も気分が持ち直ってきたことは感じられた。だが、私の脳裏にはずっとあの赤黒い染みが浮かび、離れなかった。私が帰ることになった時、彼は少々名残惜しそうにしていたが私が明日も予定があることを知って、「早く返って休め」と逆に帰宅を促した。

 

 「じゃあ、夕食ありがとうな。旨かったよ」


 「ああ、こっちも良い肉をふるまえてよかったよ。だが家の事、あまり手が回ってなくて済まなかったな」


 「いや大丈夫さ。そっちも忙しいみたいだし。こうして時間をとって招いてくれただけでも感謝だよ。それに学生の頃は別にいい肉をおごらずとも君の家に邪魔していたんだから」


 「フ……。そうだな。……あの頃はよかった……。さ、帰った帰った。きちんと休まないと心も体も壊れちまうからな。気を付けて帰れよ」


 「あ、ああ、じゃあまたな」


 「さよなら」


 私はその時少し、違和感を覚えた。だが、私はその時そのまま、家に帰った。何か胸騒ぎがしたのも、先程と同じ疑念によるものだとして思考を放棄したのだ。

 

     ――――


 その日、彼の家は全焼し、焼け跡から彼の遺体も見つかった。彼の妻も行方不明。火災の原因はガス漏れらしい。彼の妻に関して警察の捜査が続いているらしいが、実家に帰った形跡はなく、だが、彼の家の焼け跡から彼女の遺体が見つかったわけでもないという。

 私のくだらない妄想が彼を死に至らしめたのか。私のくだらない妄想が真実だったのか。私にはまったくわからない。ただ言えることは私は長い付き合いの友人を一人、永遠に失った。

 私はあの日の事を多分この先もずっと思い出して、後悔と疑念と恐怖とを反芻し続けるのだろう。

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赤い染み 臆病虚弱 @okubyoukyojaku

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