第15話 別腹

星空は俺を見ながら赤くなる。

それから抱きしめて来た。

俺はその反応に慌てる。

「お、おい」という感じで、だ。

すると星空は「優くんの匂い」と甘えてくる。


「星空。恥ずかしいから!」

「まあ私はそうは思わないよ。私、優くんが大好きだから」

「いや、おま。全く」

「えへへ。優くん。優くん♪」

「...ったく」


俺も星空を抱きしめる。

それから頭を撫でた。

すると星空は満足したのか顔を上げた。

そして俺を見てくる。


「所で何かあったの?何だかめちゃくちゃ真剣な顔をしていたから」

「ああ俺?そうだな。まあ真剣な顔をしていたかもな。...アイツ。有山の妹に会ったから」

「...え?大丈夫だったの?」


神妙な面持ちになる星空。

俺はその姿に「まあ死んでないしな」と言う。

それから肩を竦めたまま星空を見つめる。

星空は考え込む仕草をする。


「それはそうと早く帰ろう。星空。夜になってしまう」

「まあ確かにね。このままだとまあ夜になってしまうし...帰ろっか。優くん」


それから俺達は手を繋ぎながら帰って行く。

そして翌日になった。

朝早くにインターフォンが鳴る。



「星空」

「今日こそはって思って来たの」

「気持ちは分からんでもないが...忙しいだろお前」


そんな話をしながら俺は星空を見る。

彼女には大会がある。

星空自体が生花部の代表として生花の大会に出るらしい。

俺はそんな彼女の忙しさを知っている。


「恋人の家に行くのは別腹だよ」

「はー...凄いな。星空は」

「でも優くんがこの立場ならきっと同じ様にすると思う」

「...まあ確かにな」


俺は苦笑いを浮かべながら星空を見る。

星空は楽しそうに反応する。

見ていたら可愛らしくそして愛おしい。

思いながら俺は星空を見ていた。


それから星空は家に上がって来る。

俺はその姿を迎え入れてから準備を始めた。

そして星空と朝食を食べてから表に出る。



「有山も非道な真似をしてくるよね」

「だから釘を刺した感じだな。これがどう傾くかだけど」


俺達はそんな会話をしながら歩く。

それから途中の道で別れてから歩いた。

すると目の前に弓が歩いているのに気が付く。

どうしようか迷ったが。

声を掛けた。


「...優」

「お前、高校に行っているのか」

「...違う。今はフリースクールに行ってる」

「...それはつまり浮気の件でか」

「学校には居場所は無くなったから」


そう言いながら弓は俺を見る。

「私が悪いの?これ」と怒ってくる。

俺は「お前のせいもあるが。だからといって生活が脅かされまくるのもな。...誰かに相談したのか?」と聞いてみる。

「いや。全部貴方の妹のせいだし」と怒る。


「それは確かにそうだな。だがお前が悪いしな。だけどこのままではお前らの生活が破綻する。俺らの生活も脅かされる。千尋から何か聞いてないのか」

「交渉、でしょ。でもあの子が納得するか分からないし」

「...いや、一応納得はした。お前が聞いていると思ったんだが」

「あまり教えてくれなかった。だけどまあ分かったけど」


そして弓は「じゃあ。私はこっちに行くから」と話して去ろうとする。

俺はそんな姿に「...弓」と呟く。

弓は「何」と足を止めた。

でもまあ良いか。


「いや。何でもない。すまん」

「...?」


弓は「それじゃ」と去る。

俺はその姿に顎に手を添えた。

それから盛大に溜息を吐いてからそのまま弓の背中を見てから別方向。

俺の高校まで向かう。



「ああ。んな事があったんだな」

「ああ。まあムカッとは...したんだがなぁ」

「お前が浅はかじゃないのか。もっと過負荷をかけても良いと思う」


今日はテストだ。

午前中には終わるのだが。

その中で俺に話しながら日向は椅子を借りる。

それからその椅子に腰掛けた。


「私は許さないけどね。だって浮気した挙句に野外でとんでもない事をしているし」

「...まあだけど交渉を持ちかけた以上はな。取り敢えず状況の改善を見込みたいが」

「...そうだね。だけど真面目に待つのかな」

「待たなければ全てが真っ逆さまだ。ただそれだけ。そうなった場合は知らん」


そう言いながら俺は参考書を開く。

日向も参考書を見ながら「それにしても難しいよな。今回の範囲とやらは」と目をジト目にする。

俺はその姿を見ながら「だな」と答えた。


「でもまあ...もう諦め半分でやるけどな」

「諦め半分かー。確かにその通りだな。中間試験ぐらい捨てても良いとは思うしな」

「いや、良くはないでしょ。日向。何を言っているのよ」

「そうは言ってもな。飽きるし」

「全く」


それから俺達はそのまま試験範囲の勉強を無言になりながらした。

互いに途中から教え合う。


で。

その日の問題で分からない事があったので、俺、日向、渚。

そして誘ったら行きたいと言ってくれた星空と一緒に図書館にやって来た。



「こうしてまともに対面で話すのは初めてじゃないかな。星空さん」

「そうですね。宜しくお願い致します」

「オイ。優。どういう事だ。めちゃくちゃ可愛いぞ」

「前も会っただろお前...」


そんな事をヒソヒソ話してから勉強を始める。

この図書館はあまり大きな音を鳴らさなければ会話しても良い新しく出来た図書館だ。

何か声が反響しにくい構造になっており実現したらしい。


「まあ確かに前もお会いはしたけど。その時より可愛くなった」

「お前の言葉はまるで歌の歌詞みたいだな」

「そうだね優。で、日向。死ぬ?彼女の目の前で何を言ってんの」

「すまん。ジョークだ」


目線が怖い。

俺は苦笑しながら星空を見る。

星空はクスッと笑っており楽しそうだった。

その姿を見ながら俺は参考書を広げた。

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